・ 自己責任原則は働くか?
証券取引の事件を通じて思うことは、相場の値動きがしっかりしているなどと顧客有利な状況だと強調する勧誘・推奨をしておきながら、肝心のマイナス要因については何も述べない、これで果たして顧客がリスクを引き受けたといえるのか? という疑問です。
・ 蓋然性の濃淡
例えば、将来の株価や為替相場について、確実なことは、誰にも分かりません。しかし他方で、経済新聞では、アナリストと呼ばれる方や実際にディールに携わっている人たちが、意見を述べています。また、日銀などの政府機関でも、為替相場が形成される背景要因について、分析・検討し、政策決定の中に取り込んでいます。このように、株価や為替相場の値動きの幅に関し、合理的に、ある程度発生しやすいと捉えられている範囲と、そうでない範囲とは、区別されています。突拍子もない値段は、事故や天災のときなどには起こりえます(ファットテール)が、普段は、起こらないだろうと考えられています。
将来どうなるかは誰にも確実なところは分からないとはいうものの、株価や為替の値段で、起こり得る可能性の高い幅というものが、ある程度つかめるというのも事実です。
・ 大きなテーマ
証券事件の裁判は、自己責任原則が働かないといえるかが問題となります。
過去の一時点において、投資家に、的確に危険性(リスク)をイメージさせていたといえるか? すなわち、投資家はリスクを引き受けていたとみてよいのか? が、大きなテーマだと思います。
・ 自己責任原則の例外・・・断定的判断の提供、虚偽説明
では、どのような場合に、自己責任原則の例外といえるのでしょうか?
金融商品取引法38条2号や金融商品の販売等に関する法律4条は、断定的判断の提供を伴う勧誘行為を禁止しています。これは、断言しなくとも、不確実なことをあたかも確実であるかのように告げられると、投資判断が歪められてしまうので、そうした発言自体を禁止するというものです。裁判例をみると、マイナスなことはほとんど告げず、プラスのことばかりに偏った説明・推奨を行うことが問題ありとされています。
また、当然のことでもありますが、金融商品取引法38条1号は、虚偽説明も禁止しています。
このように、断定的判断の提供や虚偽説明については、誤解を与える発言であったといえるか、あるいは客観的事実に反しているか、という面から捉えることができるため、具体的な事実関係から当てはまるかどうか、多少分かり易いとはいえます。ただし、その評価が正しく説得的であるかは、商品の仕組みや特性、背景にある経済情勢などを踏まえる必要があります。
・ 自己責任原則の例外・・・仕組みと危険性の説明義務違反
そのほかに、自己責任原則の例外として、違法性が認定される大きな枠組みとしては、適合性の原則と仕組みと危険性の説明義務違反に大別されます。
ここでの危険性(リスク)は、商品の仕組みそのものに由来する場合と、背景にある経済情勢を踏まえた値動きの蓋然性から由来する場合があります。
仕組みと危険性の説明義務については、投資家の取引期間・経験、学歴、職歴などの経験や、商品の仕組みや特性、背景にある経済情勢など、個別具体的な事情を踏まえて、当事者の遣り取りが評価されることになります。このため、法律に明文をもって記述し難いという面があり、民法(債権法)改正の審議の際にも、条文化は見送られました。
裁判では、過去の先例を参考としながら、投資家の属性や、商品の仕組みや背景にある経済情勢、具体的な当事者の遣り取りといった個別具体的な事情に即して、主張立証し、その義務の存在や義務内容、義務違反の有無が裁判官によって判断されることになります。
このように、証券取引の裁判では、①対象商品の把握、②推奨の合理性を検討するために、経済情勢などの背景要因の把握、こうした①②の前提事実を踏まえた上での当事者の遣り取りの評価といったプロセスが欠かせないと思います。