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2017年8月

8月 24 2017

■ オプション・プレミアムの跳ね上がり方(ファット・テールのその時に…オプション取引に関する専門的な基礎知識③)

・前回,前々回と当コラムでは,急激な相場下落が数年に一度ほぼ確実に発生するであろうことを解説しました。今回は,そうした急激な株価下落のときに,オプション・プレミアムがどのように変化するかについて焦点を当ててみたいと思います。

・オプションの代金(プレミアム)は,当コラムでも解説しているとおり,理論的には,本質的価値と時間価値とで説明されます。しかし,実際の取引では,理論価格を参照しながらも,一般の商品と同じく,需給・人気によって値が決まります。

・そこで,実勢株価から遠く離れたディープ・アウト・オブ・ザ・マネーのオプションは,普段は1単位あたり数円~数10円の低い値段しかつきません。しかし,大きな相場変動が発生すると,100倍~300倍程度に値段が跳ね上がるのです。

・実際を見てみましょう。

(図1)

2007プット行使価格別

・上の図1は,平成19年9月限の日経225オプション取引の実際のプレミアムの推移を表したものです。アト・ザ・マネー・に近い行使価格1万7000円や1万5000円のオプションでは,プレミアムの跳ね上がり方は,5倍~10倍くらいです(グラフ左軸目盛)。ところが,平成19年7月終わりに1単位1円をつけていた行使価格1万2000円のオプションは,なんと8月17日には1単位100円をつけ,100倍にまで跳ね上がっているのです。

・1円が100円に化けたとはスケール感が涌かないかも知れませんが,1単位1円~数十円のクズオプションを売って,SQにはどうせ権利放棄されるだろうと思っていると,相場の急激な下落により(行使価格を突き抜けて実勢相場が下落すると),クズオプションの本質的価値が急激に大きくなって追証請求を受けることになります。そうなると,追証を翌営業日の正午までに入金しないといけなくなり,追証を入れずに決済しようとしても,受け取ったプレミアムの10倍~100倍を出さないと決済(買戻)できないという事態に陥ります。

・こうしたプレミアムの急変(アト・ザ・マネー近辺よりもアト・ザ・マネーより遠い方が変化の倍率は大きい)は,次の図2や図3のとおり,数年に一度発生しています。

(図2)

2008プット行使価格別

(図3)

2011年プット行使価格別1

・このように,ファット・テールと呼ばれる状況になると,アウト・オブ・ザ・マネーのオプションの価格(プレミアム)は,とても大きく跳ね上がるのです。こうしたオプションの価格変動の特性を,あなたが取引を始める前に教えてもらいましたか?


8月 20 2017

■ 外れることを予測する!?(オプション取引に関する専門的な基礎知識②)

・テール・リスクとは

平成29年8月6日の日経新聞には,7月の調査で米国債券市場に関わる3割の機関投資家が「テール・リスク」を心配していると報じられていました。

この「テール・リスク」とは,市場の大きな変動というリスクで,ファット・テールとも呼ばれます。

金融工学(証券投資理論)の世界では,値動きの激しさを,ボラティリティーとして捉え,価格変化率の大きさは対数正規分布に類似すると仮定されています。そして,大まかにいえば,大数の法則により,値動きの発生確率を(対数)正規分布の形に従う確率分布として捉えることができると仮定されてはいるものの,実際の相場では,平均(標準偏差=ボラティリティ=σ=1)から極端に離れた事象が発生する確率が,正規分布の形(釣り鐘型のカーブ)が示す確率より高くなっていることが知られています。こうした現象のことを,ファット・テールというのです。

東日本大震災クラスの地震は,100年に1度発生します。これと似ているのです。

 

・ファット・テールの実際

では,実際の日経平均株価の動きからファット・テールをみてみましょう。

日経225頻度

上のグラフは,前回のコラムで取り上げた平成19年1月から平成23年4月の日経平均株価終値の1日あたりの騰落(幅)を,発生の頻度ごとに示したヒストグラムです。結果は,だいたい正規分布に似た形となり,理論と現実が大きく異ならないことが,このヒストグラムからもお分かりになるかと思います。

さて,株価の騰落の発生(確率)が正規分布なら,無限大(∞)にも,その逆(-∞)にも,同様になだらかに0に近づいていく筈です。ですが,実際には,上記ヒストグラムをよくみるとお分かりいただけるように,0に近づきながらも,0ではない数値が発生し正規分布のカーブより上に飛び出た部分があります。このように,現実世界の株価の騰落(幅)の発生の仕方は,左右対称ではないのです。上の図に赤丸で示したように,1日で600ポイントを上回る上げ幅はほとんど発生していないのに対し,1日で600ポイントを上回る下げ幅はしばしば発生しているのです。

 

・背景の投資家心理

この相場の上昇(幅)より下落(幅)の方が発生し易いという現象は,取り付け騒ぎなどを想像すれば分かるように,人間の心理・行動を反映した結果です。このように,実際の株価の動きを統計的にみても,急激な相場の下落が,数年に一度の割合で発生することが分かります。

 

・万一への備え

機関投資家(プロ投資家)は,急激な相場の下落が,数年に一度の割合でほぼ確実に発生すること(ファット・テール)を知った上で,オプション取引などのデリバティブを使ったヘッジを行っています。投資に失敗したときに備え,いわばセーフティーネットを準備しているのです。

 

・司法は金融資本市場の実務・理論に耳を傾けるか?…司法の公正性

来る9月に,最高裁(司法研修所)がデリバティブに関する研究成果を書籍にまとめるそうです。その内容はみておりませんが,私のこれまでの裁判での経験では,原告側代理人として,金融工学を含む証券理論に基づく主張をしても,被告証券会社側から「理論に過ぎない」とか「仮定に過ぎない」などといった批判を受けると,それ以上,裁判所が取り合ってくれないことがしばしばありました。裁判官には,このような専門的な基礎知識(証券投資の最前線に用いられている確率や統計的手法)についても,一般の交通事故の事件に古典的な物理法則を適用しているのと同じように,最高裁の研究成果の出版物を踏まえて,耳を傾けてもらいたいと思います。


8月 16 2017

■ オプション取引に関する専門的な基礎知識①(株価の大きな騰落と発生頻度)

・しばらく中断しておりましたが,ここ半年の研究成果を踏まえ,当コラム「オプションシリーズ」を再開いたします。

 

・個別株式オプションは,大阪証券取引所に上場市場があるものの,クイックの画面を見学に行った際や,ネット取引口座のオプション取引のイタ画面を見学した際には,日中,ほとんど動きがありませんでした。取引はあまり活発でないという印象でした。

 

・他方で,現在,取り組んでいるオプション取引の事件は,日経225株式指数オプションです。過去の裁判例にも,ときどき登場するほど,裁判では,マイナーながらも,一定数の事件はあるようです。

 

・日経225オプションの原資産である日経平均株価の動きから見てみましょう。

下に表したグラフは,平成19年1月から平成23年4月の日経平均株価の終値の推移と,終値ベースの1営業日あたりの騰落(幅)です。

 

日経225変動幅

・グラフに緑色で示した日経平均の株価の動きは,平成19年7月頃までは1万8000円前後でしたが,平成19年8月に急落(パリバ・ショック),その後,平成20年春にかけてズルズルと下がり(サブ・プライム・ローン問題),一時盛り返すも,平成20年10月に急落し(リーマン・ブラザーズ倒産)8000円を割り込んだが,平成21年春頃からは,10月のギリシャ・ショック,11月のドバイ・ショックなど紆余曲折はありながらも徐々に回復し,平成23年3月の東日本大震災による急落を迎えたことを示しています。このグラフによって,歴史的事実に対し,市場がどのような反応を示してきたか,が分かります。

 

・大きな株価の推移は,上記グラフのようなものだとして,1営業日に動く相場変動の激しさは,どうでしょうか? 数値的には,「ボラティリティー」と表現される値の動きのことです。

 

・実際には,上のグラフに赤色で示したような動きであり,平成19年8月17日には▲874円,平成20年10月16日には▲1089円,平成23年3月15日には▲1015円と,前日終値に比べて大きく下落したことが分かります。

 

・こうした人の心理を反映した急激な相場の下落は,上昇する期間のエネルギーの蓄積とそのエネルギーの突然の短期間の解放です。地震が発生するメカニズムに似ているのです。エネルギーを蓄積させるきっかけが,限界(値)に達して,崩落する状況と理解できます。この突然の下落は,数年に一度の割合で発生しています。


8月 16 2017

■ 「仮免許」改まる(投資家の選択権)

・当コラムのファンの皆様,4月に更新したまま放っておかれて,さぞや退屈していたことでしょう。

・しかし,実は密かに,過去に掲載したコラムの部分的な修正はしておりました。

・AIが,証券投資の助言や,証券不正取引の摘発に活用されようとしている現在,投資の損失の内容を真に理解できる弁護士は少ないのです。投資家が,予想に反して苦境に陥り,適時に的確な専門性の高い助言が得られるように求めているとき,弁護士は本当に投資家の立場から指導できるでしょうか?また,投資家は専門性に裏付けられた助言のできる弁護士を選択できるのでしょうか?AIも学習を積み,有意義な情報発信か否かを嗅ぎ取るようになるかも知れません。

・私は,あることをきっかけに,わが「師匠」から「仮免許はこれで卒業だな。」と言葉をかけられ,自分の立ち位置をかみしめて落ち着いてから,ひそかに「仮免許」という自身に対する評価を記述した一語を削除したのでありました。

・まだまだ未熟ですが,頑張りますので,これからもよろしくお願いいたします。


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