5月 16 2022
■ 適合性原則違反とは?
・ 適合性原則違反
裁判例を紹介する中で、「適合性原則違反」と書いていました。少し、「適合性原則違反」について紹介していきたいと思います。
適合性の原則とは、米国の証券取引の中で生まれた「証券会社が、その顧客の投資目的および財政上のニーズについての情報を聞き出し、また発行者を調査したのちにその目的およびニーズに一致するものと信ずる証券のみを勧誘しうる」というルールで、わが国では、証券取引分野以外にも拡大していると言われています。
・ 認識する手がかり
金融商品取引法(「金商法」と略します。)40条1号は、「金融商品取引業者等は、業務の運営の状況が」「金融商品取引行為について、顧客の知識、経験、財産の状況及び金融商品取引契約を締結する目的に照らして不適当と認められる勧誘を行って投資者の保護に欠けることとなっており、又は欠けることとなるおそれがある」「ことのないように、その業務を行わなければならない。」としています。また、商品先物取引法(「商先法」と略します。)215条も、「商品先物取引業者は、顧客の知識、経験、財産の状況及び商品取引契約を締結する目的に照らして不適当と認められる勧誘を行って委託者等の保護に欠け、又は欠けることとなるおそれがないように、商品先物取引業を行わなければならない。」としています。これらは業法ですので、直ちにその違反が損害賠償と結びつくものではありません。
・ 判例法理
しかし、最高裁平成17年7月14日判決が、事案の解決としては否定した判決ですが、「証券会社の担当者が,顧客の意向と実情に反して,明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘するなど,適合性の原則から著しく逸脱した証券取引の勧誘をしてこれを行わせたときは,当該行為は不法行為法上も違法となると解するのが相当である。そして,証券会社の担当者によるオプションの売り取引の勧誘が適合性の原則から著しく逸脱していることを理由とする不法行為の成否に関し,顧客の適合性を判断するに当たっては,単にオプションの売り取引という取引類型における一般的抽象的なリスクのみを考慮するのではなく,当該オプションの基礎商品が何か,当該オプションは上場商品とされているかどうかなどの具体的な商品特性を踏まえて,これとの相関関係において,顧客の投資経験,証券取引の知識,投資意向,財産状態等の諸要素を総合的に考慮する必要があるというべきである。」と述べて、適合性原則違反が不法行為に基づく損害賠償の理由になることを示しました。
ちなみに、消滅時効との関係で、起算点を何時にするかという論点もありますが、不法行為は起算点から3年と短いため、債務不履行と構成して損害賠償を請求することがあります。その場合に、適合性原則違反は、証券会社の債務不履行となることをハッキリ述べた裁判例は少なく、岐阜地裁令和4年3月25日判決が適合性原則違反が証券会社の債務不履行となることをハッキリと言及してくれました。
・ 法律要件の捉え方
適合性原則は、上記最判により「具体的な商品特性を踏まえて,これとの相関関係において,顧客の投資経験,証券取引の知識,投資意向,財産状態等の諸要素を総合的に考慮する必要がある」とされていますので、一般的な法律要件とは異なります。
一般的な法律要件では、条文で書かれている要素が満たされると、決められた効果が発生すると扱われるように、スイッチみたいなものです。例えば、例えば、消費者契約法4条5項1号は、「物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容であって、消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきもの」が、同法4条1項、2項の「重要事項」だと定義しています。そして、同法4条1項1号は、事業者が「重要事項について事実と異なることを告げること」「により」、消費者が、「告げられた内容が事実であるとの誤認」「をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたとき」は、「これを取り消すことができる。」としています。
これを、①事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、②事業者が重要事項にあたる事柄について事実と異なることを告げたこと、③消費者が告げられた内容を事実であると誤認したこと、④消費者が当該消費者契約についての意思表示をしたこと、⑤上記②と③との間、及び、上記③と④との間の2つの因果関係という要素に分解でき、これらを満たせば、取消権という権利が発生すると考えるのです。
・ 適合性原則の総合判断
これに対して、投資取引分野での適合性原則では、先に述べましたように、顧客の投資意向や財産状態等に合致しているかについて、「具体的な商品特性を踏まえて,これとの相関関係において,顧客の投資経験,証券取引の知識,投資意向,財産状態等の諸要素を総合的に考慮する」というのですから、書かれている要素を斟酌して、価値判断を下すということを意味しています。そのため、損害賠償という法律効果を1対1で発生させるものではないのです。
これは、「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。」とする信義誠実の原則(民法1条2項)といった一般条項に似て、この人に、この状況下で、この商品を勧誘することが、果たして適合的なのか?という判断過程に資するような着眼点を、例示しているものなのです。「社会的相当性」を逸脱しているといった評価に近く、その考慮要素を示しているともとれます。