2月 17 2025
■ 仕組みと危険性(義務違反が認められた類型1)
・ 取引やその金融商品の仕組みを十分に伝えていなかったり、危険性について伝えていないとして説明義務違反を認めた判決には、次のものもあります。
・ 大阪地裁平成22年3月30日判決
大阪地裁平成22年3月30日判決は、
「 本件仕組債については、…5000万円もの資金を最長30年間拘束され、途中売却をしても大幅に元本を毀損するなどのリスクが存する。このリスクは、5000万円という元本額の大きさや30年間という期間の長さに照らし、通常の個人の一般投資家にとっては極めて重大なリスクであるといえる。
他方、…原告は、被告野村證券において口座を開設する前には、投資信託に対する投資経験があるにすぎず他の金融商品に対する投資経験はなかったのであり、…このような原告の投資経験については、被告Mらもお客様カード(甲27)の記載によって認識していたのであるから、本件仕組債の取引を勧誘する被告Mにおいては、本件仕組債が、投資信託とは異なって、資金を長期間拘束される可能性があり、途中売却をしても大幅に元本を毀損するなどのリスクが存することを十分に説明すべきであったというべきである。」としました。
・ 大阪地裁平成22年10月28日
同判決(判例タイムズ1349号157頁)は,説明すべき事項としての「取引の仕組み」に関する判断を,
「 本件ファンドは,決して小さくない割合で想定される3年間での2割の不動産価格の下落によって,ファンドの出資金元金が全く償還されずに毀損するリスクを伴うものであって,その意味で,レジデンシャル-ONEのレバレッジリスクは,投資家の投資判断にとって極めて重大な意義を有する高いリスクであるということができる。したがって,レバレッジリスクは,本件ファンドの募集の取扱時に顧客に対し説明されるべき,投資判断に影響を及ぼす重要な事項であることは明らかである。」とし,
「 レバレッジリスクは,投資家の投資判断にとって重大なリスクであると考えられるにもかかわらず,これらの資料に全く記載がされていないことからすれば,被告従業員が原告らを勧誘するにあたって,レバレッジリスクの説明をしなかったことは明らかである。」
「 被告は,一般投資家である原告らに対してレジデンシャル-ONEの勧誘をするにあたっては,営業員に対し,本件ファンドにつき『予想配当利回りが年7~11%である』というレバレッジの有利な側面を説明するばかりでなく,不即不離の反面であるレバレッジリスク,すなわち,不動産が値下がりしたときはリスクが極端に増幅されること,具体的な程度として,『投資対象の不動産が1割値下がりすると,出資金は約半分になること』,あるいは,『不動産が2割値下がりすると,出資金はほとんど0円になる可能性があること』を説明するとともに,その理由として,本件ファンドの仕組みについて,『銀行借入によるレバレッジがかかるため,リターンが大きくなる反面,リスクも増幅されるということ』を十分に説明すべき義務があったというべきである。」と判示しました。
・ 大阪高裁平成27年12月10日
原審(大阪地裁平成27年4月23日,判例時報2300号110頁)は請求棄却でしたが,大阪高裁平成27年12月10日はこれを取り消し、過失相殺なく損害賠償請求を認容しました。
同判決は,担当者が「株式償還となった場合に,どういう計算で何株が償還され,X1の損失がどの程度の金額になりそうなのかという点について,何ら具体的な説明をしていない。すなわちAは,契約締結前交付書面の交付をせず,かつ,株式償還による元本欠損のおそれや元本欠損が生じる取引の仕組みの重要部分を説明していない。」と判示し,「仕組債投資のご提案」「商品説明書他社株転換条項付社債」などを提示しながらEBについて説明をした点については,「これらのパンフレットを用いてリスクについてどのような説明をしたのかは明らかではないし,これらパンフレットも交付はしていないのであるから,このような記載のあるパンフレットを用いて一般的な商品説明をしただけで,本件EB債についての上記説明義務を尽くしたとはいえない。」として,金販法5条による責任を認定しました。
・ このように、商品の仕組みを十分理解できるように説明しなかったり、リスクの内容を十分説明しなかった場合に、説明義務違反は認められます。
発行体(銀行)が規制をクリアするために、BS上の負債から資本に切り替えられるよう発行したAT1債の事案でも、証券会社従業員がその性質を正しく理解していなかったために、間違った説明をしていた場合には、商品の仕組みに関する説明義務違反が認められるべきでしょう。