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2月 17 2025

■ 仕組みと危険性(義務違反が認められた類型1)

・ 取引やその金融商品の仕組みを十分に伝えていなかったり、危険性について伝えていないとして説明義務違反を認めた判決には、次のものもあります。

 

・ 大阪地裁平成22年3月30日判決

大阪地裁平成22年3月30日判決は、

「 本件仕組債については、…5000万円もの資金を最長30年間拘束され、途中売却をしても大幅に元本を毀損するなどのリスクが存する。このリスクは、5000万円という元本額の大きさや30年間という期間の長さに照らし、通常の個人の一般投資家にとっては極めて重大なリスクであるといえる。

他方、…原告は、被告野村證券において口座を開設する前には、投資信託に対する投資経験があるにすぎず他の金融商品に対する投資経験はなかったのであり、…このような原告の投資経験については、被告Mらもお客様カード(甲27)の記載によって認識していたのであるから、本件仕組債の取引を勧誘する被告Mにおいては、本件仕組債が、投資信託とは異なって、資金を長期間拘束される可能性があり、途中売却をしても大幅に元本を毀損するなどのリスクが存することを十分に説明すべきであったというべきである。」としました。

 

・ 大阪地裁平成22年10月28日

同判決(判例タイムズ1349号157頁)は,説明すべき事項としての「取引の仕組み」に関する判断を,

「 本件ファンドは,決して小さくない割合で想定される3年間での2割の不動産価格の下落によって,ファンドの出資金元金が全く償還されずに毀損するリスクを伴うものであって,その意味で,レジデンシャル-ONEのレバレッジリスクは,投資家の投資判断にとって極めて重大な意義を有する高いリスクであるということができる。したがって,レバレッジリスクは,本件ファンドの募集の取扱時に顧客に対し説明されるべき,投資判断に影響を及ぼす重要な事項であることは明らかである。」とし,

「 レバレッジリスクは,投資家の投資判断にとって重大なリスクであると考えられるにもかかわらず,これらの資料に全く記載がされていないことからすれば,被告従業員が原告らを勧誘するにあたって,レバレッジリスクの説明をしなかったことは明らかである。」

「 被告は,一般投資家である原告らに対してレジデンシャル-ONEの勧誘をするにあたっては,営業員に対し,本件ファンドにつき『予想配当利回りが年7~11%である』というレバレッジの有利な側面を説明するばかりでなく,不即不離の反面であるレバレッジリスク,すなわち,不動産が値下がりしたときはリスクが極端に増幅されること,具体的な程度として,『投資対象の不動産が1割値下がりすると,出資金は約半分になること』,あるいは,『不動産が2割値下がりすると,出資金はほとんど0円になる可能性があること』を説明するとともに,その理由として,本件ファンドの仕組みについて,『銀行借入によるレバレッジがかかるため,リターンが大きくなる反面,リスクも増幅されるということ』を十分に説明すべき義務があったというべきである。」と判示しました。

 

・ 大阪高裁平成27年12月10日

原審(大阪地裁平成27年4月23日,判例時報2300号110頁)は請求棄却でしたが,大阪高裁平成27年12月10日はこれを取り消し、過失相殺なく損害賠償請求を認容しました。

同判決は,担当者が「株式償還となった場合に,どういう計算で何株が償還され,X1の損失がどの程度の金額になりそうなのかという点について,何ら具体的な説明をしていない。すなわちAは,契約締結前交付書面の交付をせず,かつ,株式償還による元本欠損のおそれや元本欠損が生じる取引の仕組みの重要部分を説明していない。」と判示し,「仕組債投資のご提案」「商品説明書他社株転換条項付社債」などを提示しながらEBについて説明をした点については,「これらのパンフレットを用いてリスクについてどのような説明をしたのかは明らかではないし,これらパンフレットも交付はしていないのであるから,このような記載のあるパンフレットを用いて一般的な商品説明をしただけで,本件EB債についての上記説明義務を尽くしたとはいえない。」として,金販法5条による責任を認定しました。

 

・ このように、商品の仕組みを十分理解できるように説明しなかったり、リスクの内容を十分説明しなかった場合に、説明義務違反は認められます。

発行体(銀行)が規制をクリアするために、BS上の負債から資本に切り替えられるよう発行したAT1債の事案でも、証券会社従業員がその性質を正しく理解していなかったために、間違った説明をしていた場合には、商品の仕組みに関する説明義務違反が認められるべきでしょう。


3月 31 2024

■ 仕組みと危険性(義務違反が認められた類型1)

・ どのような場合なのか

取引やその金融商品の仕組みを十分に伝えていなかったり、危険性について伝えていない場合は、リスクとリターンについて正しい理解をし、その自主的な判断に基づいて当該の証券取引を行うか否かを決めたとはいえません。

・ 神戸地裁姫路支部平成13年1月15日判決(証券取引被害判例セレクト18巻51頁、判例タイムズ1085号242頁)は、

「 自己責任の原則の前提をなすものとして説明義務を捉えるとすると、売り主(投資勧誘者)において説明するべき内容(金融商品にかかる「重要事項」)は、金融商品のリスク判断に必要な商品の特質や危険性に関する枢要な要素ということになると解される。そして、売り主(投資勧誘者)と買い主(一般投資家)との間に、構造的な情報格差が認められ、買い主が当該情報にアクセスすることが困難な事情のある場合、その情報については、特にわかりやすい説明をすることが求められるというべきである。」

と述べています。

・ そして、裁判所は、

「 本件社債の種類は、ドル建ての担保付社債というべきであるから、基本的には、①本件社債は、その償還額がCMEビルの価値に連動して変動させられる(ただし、上限と下限が定められている。)という特殊性はあるものの、その基本的な性質は、ドル建ての担保付社債であること(説明事項①・基本的な商品構成)、②したがって、本件社債に係るリスクは、発行体の信用力(業績、財産状態)、担保に取っている資産(モーゲージ・ノート)の資産価値、及び為替差損に左右されること(説明事項②・リスク要因)、③そして、リスクが現実化したとき、最悪の場合には、元本割れの危険があること(説明事項③・リスクの内容)、の三点を的確に説明しておれば足りるというべきである。しかし、本件については、発行体の信用力がリスクを大きく左右する要素であるにもかかわらず、発行体に関する個別具体的な情報に一般投資家がアクセスすることが不可能な状態にあったことに留意されなければならない。したがって、本件では、右の三点に加えて、④発行体の業務内容、資本金の額など発行体の信用力に関する個別具体的な情報(説明事項④)についても、売り主(投資勧誘者)において提供する必要があった」

と述べて、「発行体の業務内容、資本金の額など発行体の信用力に関する個別具体的な情報」も説明すべき事項に含まれるとしました。

・ 私が学生の頃、商法(会社法)の講義で、株は千差万別で、目利きが買うものと教わりました。その会社の個性で買う・買わないと決めるものと教わっていたのです。企業が発行する社債は、平たくいえば、借入金です。人にお金を貸すかどうか考えるときに、ちゃんと返してくれそうな相手か、ちゃんと返せるだけのあてがあるのか、普通気になる筈です。

裁判になると、証券会社側から、株価が上下することくらい一般社会人なら知っていた筈だ、だから、元本毀損のおそれがあることくらい判っていたから、説明義務違反はない、こういう主張が出されてきます。先ほどの例でいうと、人にお金を貸したら返してくれない場合だってある、だから貸す方の自己責任だ、というようなレベルです。

でも、おかしくはないですか? だって、業績や財産状態といったお金を借りる側の個性は言わないで、金利がよいとか、「必ず返すと言っている」というようなことで勧誘しておいて、後は知らないという態度は。

・ 裁判所は、「本件については、発行体の信用力がリスクを大きく左右する要素であるにもかかわらず、発行体に関する個別具体的な情報に一般投資家がアクセスすることが不可能な状態にあったことに留意されなければならない。」と述べ、事案の特殊性と位置づけてですが、

「 説明事項④の点について、的確な説明がなされたと認めるに足りる証拠はない。まず、本件研究資料11頁下方のCMEファイナンス社に関する記載については、これをもってリスク(説明事項④)の的確な説明とは評価できない。すなわち、右の記載は、単なる用語説明の体裁をとっていて、「重要事項」の告知であることを明らかにするような体裁のものではない上、記載内容自体、本件社債の安全性を強調するものであって、ここの記載から危険性を読みとるのはかなり困難である。リスク負担の危険性等については明確な形で書かれていなければならないことは明らかであるから、この記載をもって、発行体に信用力が欠けていること(説明事項④)を告知・説明したと見ることはできない。その他、…発行体であるCMEファイナンス社の業績、財産状態について、これを正面から直截に説明したことをうかがわせる証拠は存しない。したがって、説明事項④の点については、被勧誘者に自己責任を問えるだけの情報提供がなされていなかった、すなわち、説明義務違反があったといわざるを得ない。」

と述べて、義務違反を認めました。

・ 原則と例外という思考パターンは、法曹にありがちなものですが、株式とか社債といった有価証券になると、とたんに、取引の相手方や対象の個性にまで考えが及びにくくなるのはなぜなのでしょうね。投資取引であっても、個人間のお金の貸借の例のように、個性に着目すべき事項はいろいろとありますから、取引の危険性そのものが個別の事情を踏まえたものでなくてはならないと思います。


12月 11 2023

■ リーディングケース

・ 今でこそ、仕組みと危険性の説明義務、そして積極的誤導類型と整理されてきた信義則上の説明義務違反に関する裁判例ではありますが、リーディングケースとして押さえておきたい裁判例を1つ挙げるのであれば、私は、東京高裁平成8年11月27日判決(平成8年(ネ)第2866号、判例タイムズ926号263頁、判例時報1587号72頁、判例セレクト5号289頁)を挙げたいと思います。

・ この事案は、ワラントについて、新株引受権自体が売買され通常の株式と異なり、株価が上がれば株式に比べ何倍も儲かるが、逆に、株価が下がれば何倍もの損となるハイリスク・ハイリターン性があること、権利行使期間経過後は価値がゼロになるため期間内に権利行使する必要があるが、株式信用取引等とは違いゼロよりさらに損失が拡大することはないといった説明を受け勧められた日軽金ワラント及び長谷工ワラントを購入し、売却益を得た投資家が、「今までのワラントでは儲かっているし今回もどうか」と大和証券外貨建ワラントを提案されて購入した。その後、投資家が価格の問い合わせをしたこともあったが、担当者は「もう少し様子を見たらどうか」などと答えるのみで、担当者が転勤となり、結局、当該ワラントは、売却も権利行使もできないまま権利行使期限を徒過したというものです。

なお、ワラントという証券は、発行会社の株式を、一定の価格(行使価格)で、定められた期間内(行使期間内)に、取得できる権利=コール・オプションを表章したものです。

・ 東京高裁平成8年11月27日判決は、信義則上の説明義務について、

「 証券会社及びその使用人は、投資家に対し証券取引の勧誘をするに当たっては、投資家の職業、年齢、証券取引に関する知識、経験、資力等に照らして、当該証券取引による利益やリスクに関する的確な情報の提供や説明を行い、投資家がこれについての正しい理解を形成した上で、その自主的な判断に基づいて当該の証券取引を行うか否かを決することができるように配慮すべき信義則上の義務(以下、単に「説明義務」という。)を負うものというべきであり、証券会社及びその使用人が、右義務に違反して取引勧誘を行ったために投資家が損害を被ったときは不法行為を構成し、損害賠償責任を免れない」

と述べ、「正しい理解を形成した上で、その自主的な判断に基づいて当該の証券取引を行うか否かを決することができるように配慮すべき」義務と判示しました。

・ この、投資家が「その属性に応じて」、その勧誘されている取引・金融商品に関する「リスクとリターンについて正しい理解」を形成するよう「配慮すべき義務」と表現された点は、先のコラムで掲げた、信義則上の説明義務違反の積極的誤導類型をも取り込む形となっています。

また、具体的な説明事項を指摘すると、対策が講じられてしまい、結果として、正しいリスクとリターンの認識に繋がらない事態も生じてしまいかねないところですが、この判決は、専門的な知識・経験を有する証券会社に対し、顧客(投資家)が正しいリスクとリターンの認識を形成するよう配慮すべきとしました。私は、リスク(損失の大きさと発生の蓋然性(発生確率))を想起した上で取引の決断を下したか否か、すなわち、損失の大きさと発生の蓋然性(発生確率)を正しく認識してリスクを引き受けたといえるかどうか、といった自己責任を問う前提を正しく言い当てたものだと思います。

・ こうした視点でみていくと、新たな金融商品が登場したような際に、顧客側が問題のある勧誘行為について勝訴していくためには、対象となる金融商品がいかなるリスクとリターンの特性を持つものであるのかを正確に把握し、証券会社側の勧誘行為において、損失の大きさと発生の蓋然性(発生確率)について正しい認識を抱かせたといえるのか、あるいは、正しい認識を抱かせたとはいえないのか、こうした吟味を事案ごとに行っていくしかないと思います。


11月 19 2023

■ 信義則上の説明義務とは(仕組みと危険性+α)

・ 信義則上の説明義務の内容(仕組みと危険性)

信義則を根拠とする説明義務が、どのようなものかというと、個別具体的な事案に即して判断されるため、一概にこうだと説明することは難しいのですが、従来の裁判例からすると、金融商品や取引の仕組みと危険性を説明すべき義務と言われています。

 

司法研修所編「デリバティブ(金融派生商品)の仕組み及び関係訴訟の諸問題」でも、デリバティブ(金融派生商品)に関する研究ですが、説明対象としては、基本的な仕組みとリスクが説明義務の対象と説かれています(同書122頁)。

その上で、同書は、説明の方法・程度の問題として、「対象商品の仕組みが複雑・難解で、リスクが過大・予測困難なものであればあるほど、説明の方法・程度も高度な内容が要求されることになる。」「対象商品の特質と顧客の属性に応じて、提供すべき情報量には大きな違いがある」とし、「観念的なリスクを定性的・抽象的に説明しただけでは足りず、リスクを生じさせる指標(株価、為替等)が予想に反する方向に動いた場合の損失の谷の深さについて、具体的な数値によるシミュレーションが示されていることが望ましく、そのような形で、リスクの質と量を具体的にイメージできる説明になっている必要があると解される。そして、リスクの質と量が具体的にイメージさせるに足りる説明かどうかは、顧客の個別的な属性に応じて、事案ごとに定まる」「金融庁の監督指針…が参考になると思われる」「例えば、監督指針に規定されているリスク説明の在り方のうち、①最悪シナリオを想定した想定最大損失額はどの程度か、②顧客が許容できる損失額を超える可能性があるのか、③市場がどのようになればそのような場合になるのかといった点は、私法上の説明義務違反の在り方を考える上でも、大いに参考になると思われる。もちろん、これも顧客の属性との兼ね合いで決せられることであり、一律にこのような説明が必要ということではなく、個別事案ごとの諸事情を勘案して総合的に決定されるべきものである。」と説いています(同書124頁)。

 

・ 積極的誤導類型(+α)

仕組みと危険性の他に、「虚偽のことを告げる行為」(金融商品取引法38条1号)や、「虚偽の表示をし、又は重要な事項につき誤解を生ぜしめるべき表示をする行為」(金融商品取引業等に関する内閣府令117条1項2号)は、禁止されています。常識的考えても、嘘を言われ、その嘘を信じて行動してしまった場合に救済されないのは不当です。そのため、業者側の誤導的ないしは不適切な説明によって、投資判断を誤らされたという場合にも、信義則上の説明義務違反が認められることがあります(司法研修所編「デリバティブ(金融派生商品)の仕組み及び関係訴訟の諸問題」126頁)。

 

被害者側代理人としては、当該事案においてなされた勧誘行為が、その対象とされた金融商品の特性と相場状況等に照らして、リスクを見誤らせるものであったかどうかについても探求することになります。

 

・ 情報提供義務

最高裁平成23年4月22日判決は、契約締結前に契約に基づく義務は発生しないとしながらも、不法行為責任が発生する場合として、「当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった場合」と指摘しています(最高裁判所民事判例集65巻3号1405頁、判例タイムズ1348号87頁、金融・商事判例1372号30頁、判例時報2116号53頁、金融法務事情1928号106頁)。

この「契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報」の範囲についても、個々の事案により、事案に即して判断されるものと考えられています。

 

・契約に基づく説明義務・情報提供義務はどうか?

紹介した最高裁平成23年4月22日判決について、金融商品取引における説明義務・情報提供義務は、不法行為の分野でしか生じないと捉える見解もあるようです。この見解では、債務不履行構成による損害賠償請求権に比べて、時効期間が短くなるため、裁判で、証券会社側から主張されてきます。

しかし、平成23年4月22日最判は、従来、講学上「契約締結上の過失」の問題の1つとして議論されてきた分野に関する判断であり(判例タイムズ1384号43頁「第2 検討の方向性」の冒頭参照)、「本判決の射程は非常に限定されている」と考えるべきでしょう(最高裁判例解説412頁下から5行目)。「本判決は、事案によっては契約締結に先立つ説明義務違反について債務不履行責任が認められる余地を残しているように考えられる」とも分析・評釈されています(山口雅裕:判例タイムズ1384号47頁左10行目以下)。

私も、取引のために基本契約が締結されている(と観念される)証券取引や商品先物取引において、個別の売買注文に関する勧誘・推奨の場面では、未だ存在しない契約に基づく義務を観念する訳ではありませんから、平成23年4月22日最判の射程は及ばないと思います。ですので、基本契約がある取引関係において、個別の注文をするか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった場合には、受任者の報告義務などを参考に、積極的な情報提供義務が認められる余地があると思います。


10月 31 2023

■ 説明義務に関連する法律は?

・ 現在、金融商品取引に関して、証券会社に一定の事項の説明ないし情報伝達を義務づけている法令は、金融商品取引法、金融サービスの提供に関する法律、民法の3つがあります。

 

・ 金融商品取引法

金融商品取引法は、金融業者に対する行政規制を定める法律ですから、正面から説明義務を書き表してはいません。ですが、37条の2で取引態様の明示義務や、37条の3で、当該金融商品取引契約の概要(1項3号)、手数料、報酬その他の当該金融商品取引契約に関して顧客が支払うべき対価に関する事項(1項4号)、金利、通貨の価格、金融商品市場における相場その他の指標に係る変動により損失が生ずることとなるおそれがあるときは、その旨(1項5号)、顧客の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものとして内閣府令で定める事項(1項7号)を記載した契約締結前の書面交付義務が定められています。

そして、金融商品取引業等に関する内閣府令117条1項1号は、契約締結前交付書面等の交付に関し、あらかじめ、顧客に対して、法第三十七条の三第一項第三号から第七号までに掲げる事項…について顧客の知識、経験、財産の状況及び金融商品取引契約を締結する目的に照らして当該顧客に理解されるために必要な方法及び程度による説明をすることなく、金融商品取引契約を締結する行為を禁止行為と定めています。

ですので、金融商品取引業者が、禁止行為違反とならないような勧誘活動を行うためには、顧客の知識、経験、金融商品取引契約を締結する目的に照らして当該顧客に理解されるために必要な方法及び程度による説明をしなければならないことになるのです。

金融商品取引法38条は、顧客に対し虚偽のことを告げる行為(1号)、不確実な事項について断定的判断を提供し、又は確実であると誤解させるおそれのあることを告げて金融商品取引契約の締結の勧誘をする行為(2号)などの禁止行為を定めています。また、金融商品取引業等に関する内閣府令117条1項2号は、金融商品取引契約の締結又はその勧誘に関して、虚偽の表示をし、又は重要な事項につき誤解を生じさせる表示をする行為を禁止行為としています。

 

 金融サービスの提供に関する法律

金融サービスの提供に関する法律は、不法行為の特則と位置づけられますが、4条1項1号で、当該金融商品の販売について金利、通貨の価格、金融商品市場…における相場その他の指標に係る変動を直接の原因として元本欠損が生ずるおそれがあるときは、元本欠損が生ずるおそれがある旨、当該指標、その指標に係る変動を直接の原因として元本欠損が生ずるおそれを生じさせる当該金融商品の販売に係る取引の仕組みのうちの重要な部分について、説明しなければならないと定めています。

確かに説明義務を積極的に書き表したものではありますが、立法当時の裁判例の最低限のところで「元本欠損が生ずるおそれがある旨」と線引きしているため、もはや時代遅れとなっているといえます。

 

・ 民法

そこで、投資取引事件で不法行為・債務不履行としての説明義務違反の根拠法条は、民法1条2項の「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。」という、いわゆる信義則ということになるのです。


10月 24 2023

■ 投資判断と説明義務

・ 金融商品の取引は、目には見えないリスクとリターンを正しく把握して、リスクを引き受けた上でリターンを狙うものです。ですから、一般に、証券会社には、対象となる金融商品のリスクとリターンについて、正しく情報提供することが求められています。

 

・ このリスクとリターンについては、背景となる経済情勢によっても変わってきます。ですので、対象となる金融商品のリスクとリターンの変動特性を伝えるとともに、現在及び投資期間に応じた将来の経済見通しについても、情報提供をする場合には、正しく伝えなければなりません。

 

・ そして、適合性の原則の要請から、顧客に提案、推奨する金融商品は、その顧客の投資目的・投資意向に合致していることが必要となります。

 

・ こうしたあるべき投資判断と乖離した勧誘行為がなされた場合、説明義務違反あるいは情報提供義務違反として、証券会社に不法行為責任・契約責任が認められることがあります。

 

・ 今後、法律上の説明義務について触れ、信義則上の説明義務違反が認められた類型について解説していく予定です。


7月 16 2022

■ 適合性原則違反の典型とその後の議論状況

・ かつての商品先物取引では?

かつて商品先物取引による被害事件を担当していた際には、証拠金を追加しなければならなくなって(追い証)、お金を工面せざるを得ない状況にさせられ、事業資金として予定していた借入金を流用させられたり、家族の生命保険の契約者貸付で借金させられお金を工面したという事案に接しました。

借金してまで投機をするものではないと分かっていても、証拠金取引によるレバレッジ(値動きの10倍~10000倍の損益が生じる)効果によって、預けた証拠金はあっという間になくなり、ポジション(建玉)を維持するためにも、証拠金の追加差入れが必要となりますし、決済(手仕舞い)するにしても、取引損を支払って精算しなければならないため、やはりお金が必要になる、こんな酷いあり様でした。

ですので、裁判所も、業者が借金させて投機取引を続けさせるなどといったけしからん事態に、適合性原則違反という形で違法性を認めることが多くあった印象です。

 

・ 学説では?

私が先物取引被害事件に携わるようになった頃は、適合性原則の「狭義」とか「広義」とかいう議論がなされていました。簡単にいうと、「狭義の適合性原則」というのは、取引開始時に、この顧客を商品先物取引に勧誘することは適合性原則の観点から問題ではないか?といった入口の問題と整理されるものです。他方、「広義の適合性原則」というのは、取引開始時の問題としてではなく、取引継続中の建玉の数量や取引頻度の頻回性から、適合性原則の観点から問題ではないか?といった取引継続中の問題と整理されるものです。

現在では、狭義の適合性原則、広義の適合性原則の区分は、頭の整理程度の問題で、本質的な議論ではないとの指摘もされ、両方含むと考えるのが主流だと思います。

 

かつては商品先物取引被害の酷い事案が多く、投資目的や知識・経験はあまり重視されずとも違法性が認定されたためか、学説の中には、市場参加者として不適格な者を排除する法理であると唱える説もあります。しかし、こうした考え方に立つと、極論すれば、一定の知識・経験のあるお金持ちであれば、いかに危険な商品を掴まされても保護されないという結論にもなりかねません。悪質な「客殺し」が横行していた商品先物取引の分野であればともかく、借金したお金で投機を勧めるようなことを普通はしない証券会社との関係では、極めて狭い範囲しかカバーできない法理論ということになり、私は疑問に思います。

資金力が十分な人でも、想定していたものと大きく異なる金融商品を掴まされた場合には、適合性原則の「投資目的」の観点から問題だと思います。

 

・ 支援の論理

その後、適合性原則にいう「適合性」とは、勧誘した投資取引のリスクが顧客のリスク許容範囲を超えないことを意味すると捉え、金融商品のリスク性と顧客の知識、経験、財産の状況、投資目的などを考慮して、その顧客にとって、その金融商品のリスクを引き受けるのに適切であるかどうかを考える、という説が出てきました。この考え方は支援の法理と呼ばれ、「適合性原則の場合は、『勧誘した投資取引が当該顧客のリスク許容範囲を超えているかどうか』を判断対象としており、ここでいう『リスクの許容範囲』とは、主観的要素である顧客のリスク負担意欲と、客観的要素である顧客のリスク負担能力によって認定されうるものであるため、適合性原則違反の有無の判断にとっては、顧客のリスク負担意欲を表す『投資目的』と、顧客のリスク負担能力を表す『財産状態』が最も重要視される。つまり、勧誘した投資取引が顧客の投資目的に一致しなければ、顧客が資産力、知識および投資経験を有していても、当該投資勧誘は適合性原則に違反する。また、勧誘した投資取引が顧客のリスク負担能力を超えた場合には、顧客が知識や投資経験を有するかどうかとは関係なく、同じく適合性原則違反になる。」と説かれています(2010年、王冷然、「適合性原則と私法秩序」387頁・信山社)

 

・ 証券取引では?

株式も債券も、現物取引と言われるように、電子化される前は、紙で発行された株券、社債券を手にすることが出来ました。有価証券(価値のある物)として、転売するなどして換金することができました。とすると、商品を買ったこと自体で違法という結論になることは限られてきます。

株式では、信用取引で、取引頻度が高く、過当取引として違法と評価される場合に、そのほか金融商品では、投資家の判断力に問題があるような場合や想定していたものとは違うと主観的にも客観的にも証明出来たような場合に、適合性原則違反として違法と評価され易いといえます。

私は、顧客のリスク負担意欲(主観的要素)と、顧客のリスク負担能力(客観的要素)によって認定されるリスクの許容範囲から吟味する支援論に立って、適合性原則違反が認められるように頑張りたいと思います。


5月 16 2022

■ 適合性原則違反とは?

・ 適合性原則違反

裁判例を紹介する中で、「適合性原則違反」と書いていました。少し、「適合性原則違反」について紹介していきたいと思います。

適合性の原則とは、米国の証券取引の中で生まれた「証券会社が、その顧客の投資目的および財政上のニーズについての情報を聞き出し、また発行者を調査したのちにその目的およびニーズに一致するものと信ずる証券のみを勧誘しうる」というルールで、わが国では、証券取引分野以外にも拡大していると言われています。

・ 認識する手がかり

金融商品取引法(「金商法」と略します。)40条1号は、「金融商品取引業者等は、業務の運営の状況が」「金融商品取引行為について、顧客の知識、経験、財産の状況及び金融商品取引契約を締結する目的に照らして不適当と認められる勧誘を行って投資者の保護に欠けることとなっており、又は欠けることとなるおそれがある」「ことのないように、その業務を行わなければならない。」としています。また、商品先物取引法(「商先法」と略します。)215条も、「商品先物取引業者は、顧客の知識、経験、財産の状況及び商品取引契約を締結する目的に照らして不適当と認められる勧誘を行って委託者等の保護に欠け、又は欠けることとなるおそれがないように、商品先物取引業を行わなければならない。」としています。これらは業法ですので、直ちにその違反が損害賠償と結びつくものではありません。

・ 判例法理

しかし、最高裁平成17年7月14日判決が、事案の解決としては否定した判決ですが、「証券会社の担当者が,顧客の意向と実情に反して,明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘するなど,適合性の原則から著しく逸脱した証券取引の勧誘をしてこれを行わせたときは,当該行為は不法行為法上も違法となると解するのが相当である。そして,証券会社の担当者によるオプションの売り取引の勧誘が適合性の原則から著しく逸脱していることを理由とする不法行為の成否に関し,顧客の適合性を判断するに当たっては,単にオプションの売り取引という取引類型における一般的抽象的なリスクのみを考慮するのではなく,当該オプションの基礎商品が何か,当該オプションは上場商品とされているかどうかなどの具体的な商品特性を踏まえて,これとの相関関係において,顧客の投資経験,証券取引の知識,投資意向,財産状態等の諸要素を総合的に考慮する必要があるというべきである。」と述べて、適合性原則違反が不法行為に基づく損害賠償の理由になることを示しました。

ちなみに、消滅時効との関係で、起算点を何時にするかという論点もありますが、不法行為は起算点から3年と短いため、債務不履行と構成して損害賠償を請求することがあります。その場合に、適合性原則違反は、証券会社の債務不履行となることをハッキリ述べた裁判例は少なく、岐阜地裁令和4年3月25日判決が適合性原則違反が証券会社の債務不履行となることをハッキリと言及してくれました。

・ 法律要件の捉え方

適合性原則は、上記最判により「具体的な商品特性を踏まえて,これとの相関関係において,顧客の投資経験,証券取引の知識,投資意向,財産状態等の諸要素を総合的に考慮する必要がある」とされていますので、一般的な法律要件とは異なります。

一般的な法律要件では、条文で書かれている要素が満たされると、決められた効果が発生すると扱われるように、スイッチみたいなものです。例えば、例えば、消費者契約法4条5項1号は、「物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容であって、消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきもの」が、同法4条1項、2項の「重要事項」だと定義しています。そして、同法4条1項1号は、事業者が「重要事項について事実と異なることを告げること」「により」、消費者が、「告げられた内容が事実であるとの誤認」「をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたとき」は、「これを取り消すことができる。」としています。

これを、①事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、②事業者が重要事項にあたる事柄について事実と異なることを告げたこと、③消費者が告げられた内容を事実であると誤認したこと、④消費者が当該消費者契約についての意思表示をしたこと、⑤上記②と③との間、及び、上記③と④との間の2つの因果関係という要素に分解でき、これらを満たせば、取消権という権利が発生すると考えるのです。

・ 適合性原則の総合判断

これに対して、投資取引分野での適合性原則では、先に述べましたように、顧客の投資意向や財産状態等に合致しているかについて、「具体的な商品特性を踏まえて,これとの相関関係において,顧客の投資経験,証券取引の知識,投資意向,財産状態等の諸要素を総合的に考慮する」というのですから、書かれている要素を斟酌して、価値判断を下すということを意味しています。そのため、損害賠償という法律効果を1対1で発生させるものではないのです。

これは、「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。」とする信義誠実の原則(民法1条2項)といった一般条項に似て、この人に、この状況下で、この商品を勧誘することが、果たして適合的なのか?という判断過程に資するような着眼点を、例示しているものなのです。「社会的相当性」を逸脱しているといった評価に近く、その考慮要素を示しているともとれます。


4月 27 2022

■ 仕組債の被害事案で勝訴しました(ノックイン条項付き豪ドル建日経平均連動債)

・ 長年手掛けてきた証券取引被害事案で、岐阜地方裁判所より、令和4年3月25日、一部勝訴判決をいただきました。

外貨建債券や投資信託については違法とまでは認められませんでしたが、ノックイン条項付き豪ドル建日経平均連動債(仕組債)については、原告両名とも、適合性原則違反と説明義務違反の債務不履行による損害賠償が認められました。

 

・ 証券会社や銀行を相手方とする訴訟事件等は、いわゆる専門訴訟です。弁護士には、医師と違って、専門家という制度がないので、弁護士という資格があれば誰でも「受任します。」とはいうことはできます。しかし、専門訴訟は、相当な学習・研究を要する分野です。筆者も、当コラムでも解説している金融工学、金融知識、経済知識や、これまでの被害者側代理人として活動してきた経験をもって、裁判所を説得することが出来ました。

 

・ そこで、この手の専門訴訟に携わる弁護士の学習・研究の素材となるように、岐阜地方裁判所令和4年3月25日判決の解説と判旨をまとめましたので、以下に掲載します。

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(上に表示されているのは全20ページのPDFファイルです。次ページ以降は、上の表示上にマウスを置いていただくと表示される矢印ボタンをクリックして次ページへ進んでいただけます。なお、あくまで学習・研究の素材として提供する限りで、「これをコピペすれば勝てる」なんて安易な使われ方をされると、世の中の人のためにも良くないので、PDFの編集・印刷は禁止してあります。あしからず。)

消費者法ニュース132号236頁で紹介されました。

全国証券問題研究会のHPに解説が掲載されました。

愛知県弁護士会の消費者問題速報vol.207(2022年12月)で紹介されました。


4月 06 2022

■ 乗換売買の違法評価の本質は?

・ 発端

途中から携わるようになった証券事件で、前任の弁護士さんが適合性原則違反、説明義務違反、過当取引という主張をしていたことから、依頼人のお身内から強く過当取引の違法性を主張して欲しい、乗換売買の違法性を主張して欲しいと言われたことがありました。

私は、年次回転率も低く、適合性原則違反、説明義務・情報提供義務の違反という主張を補充していく方針であったこと、乗換売買について言及した裁判例を調べ、違法性の本質は手数料稼ぎなどの背信的行為、あるいは、合理的根拠に基づかない勧誘行為であることから、過当取引の主張を掘り下げていくことは難しいとお伝えしました。

こうしたことがあったので、このコラムで、過当取引の違法性を題材に取り上げてみたのです。

保有商品を売って新たな商品を買うこと自体は、価値判断としてニュートラルなので、乗り換えを行わされた場合に、違法という評価(価値判断)がどこにあるのかみていきましょう。

 

・ 横浜地裁平成21年3月25日判決

横浜地裁平成21年3月25日判決(証券取引被害判例セレクト35巻1頁)は、投資信託の乗換売買に関する違法性に関して、証券会社の誠実公正義務を指摘して「証券会社の担当者が、手数料稼ぎなどの自己又は証券会社の利益を図るため、顧客にとって合理性及び必要性がなく又はそれらが乏しい取引を勧誘した場合に」不法行為として違法となるとしました。

なお、判決は、「証券会社の担当者において、顧客の投資経験等に応じ、新たに買い付ける投資信託について通常要求される説明のほか、売り付ける投資信託の損益状況、手数料等、乗換売買を行うことのメリット及びデメリットについて十分に説明し、顧客がそれを理解した上で取引をしたなどの場合」は、自己責任原則のとおり、違法ではないと述べています。判決でどのような事実関係が「乗換え」として違法と評価されたのか、みていきます。

 

・ 違法との評価は、合理性や必要性が乏しい乗換売買

(1)同種投資信託間での乗換えで、保有期間が短く利益の5倍の手数料負担

判決は、同種投資信託(国際株式型の株式オープン型投資信託)で信託報酬の高い方に乗換えさせることに関し、「わずか1か月余りの保有期間しか経過しておらず、損益も極めて小さい段階で、利益額の5倍以上もの手数料を負担してまで、いわば同種でかつ信託報酬の高い投資信託に乗り換えることには、特段の事情がない限り、合理性、必要性が乏しい」として違法としました。

 

(2)難平(ナンピン)とは

ところで、「難平(ナンピン)買い」とは、保有している商品の価格が下落したときに、相場の反転上昇を狙って、平均買付単価を下げるために、さらに買い増しすることです。

価格の下落トレンドの中で、「難平」を行うと、相場が反転しなかった場合、損失をさらに拡大させることにもなりかねません。評価損だけをみると、改善するようにみえますが、株価が下がるたびに「難平買い」を入れていくと、気づいたときには、1つの銘柄の保有数量が大きくなり過ぎ、かつ、含み損を抱える状態になってしまうことがあり、一般的に危険性が高いと言われています。

 

(3)価格下落局面で、損失確定かつ高額な手数料の同種投信間の「難平買い」乗換え

判決は、同種投資信託(IT系企業の株式を主要な投資対象とする投資信託)での乗換えに関し、平成12年3月のNASDAQ市場におけるITバブル崩壊後、乗換えの当時は国内株式市場に明確な上昇の気配がなく、IT系企業の株価は下落局面にあったこと、乗換えの際の買付けが一般的にリスクが高いとされる「難平買い」であることを指摘して、「株式市場に明確な上昇気配がない状況で、約29万円の損失を出した投資信託と同種の投資信託を約12万円の買付手数料を負担し、かつ、リスクの高いナンピン買いをしてまで買い付ける合理性、必要性には疑問がある」として違法としました。

 

(4)相場状況に反した勧誘・虚偽説明

判決は、乗換えのころ(平成13年1月12日現在)のNASDAQ株式市況は、アメリカ景気の失速による企業業績悪化懸念を嫌気して大幅な調整を続けていたと認め、そのような状況下での、アメリカのNASDAQ市場に登録されている株式を投資対象とする投資信託への乗換え勧誘の合理性について疑問を差し挟み、かつ、担当者がアメリカは年初の利下げが奏功したのか好調であるとか、NASDAQ市場も活況であるなどと説明していた点をとらえて、当時の客観的な株式市況とかけ離れた不適切な説明であるとし、合理性の乏しい乗換売買の勧誘だとして違法としました。

 

・ 本質は、勧誘の背信性・取引の不合理性

売った商品とその次に買った商品のペアで主張することが分かり易い場合もあろうかと思います。しかし、紹介した横浜地裁判決のように、裁判で違法と評価されうる乗換えは、①短期間しか保有していないのに、利益の5倍もの手数料を負担させて同種投資信託へ乗り換えさせたとか、②相場状況に反した虚の説明をしたなど、乗換えの必要性・合理性を欠いている場合です。

そうだとすると、顧客の投資目的・投資意向に反していれば、適合性原則の枠組みでとらえることもできますし、嘘の説明、商品の特性や手数料に関する理解が不十分であった場合には、説明義務の枠組みでとらえることができると思います。


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