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8月 24 2017

■ オプション・プレミアムの跳ね上がり方(ファット・テールのその時に…オプション取引に関する専門的な基礎知識③)

・前回,前々回と当コラムでは,急激な相場下落が数年に一度ほぼ確実に発生するであろうことを解説しました。今回は,そうした急激な株価下落のときに,オプション・プレミアムがどのように変化するかについて焦点を当ててみたいと思います。

・オプションの代金(プレミアム)は,当コラムでも解説しているとおり,理論的には,本質的価値と時間価値とで説明されます。しかし,実際の取引では,理論価格を参照しながらも,一般の商品と同じく,需給・人気によって値が決まります。

・そこで,実勢株価から遠く離れたディープ・アウト・オブ・ザ・マネーのオプションは,普段は1単位あたり数円~数10円の低い値段しかつきません。しかし,大きな相場変動が発生すると,100倍~300倍程度に値段が跳ね上がるのです。

・実際を見てみましょう。

(図1)

2007プット行使価格別

・上の図1は,平成19年9月限の日経225オプション取引の実際のプレミアムの推移を表したものです。アト・ザ・マネー・に近い行使価格1万7000円や1万5000円のオプションでは,プレミアムの跳ね上がり方は,5倍~10倍くらいです(グラフ左軸目盛)。ところが,平成19年7月終わりに1単位1円をつけていた行使価格1万2000円のオプションは,なんと8月17日には1単位100円をつけ,100倍にまで跳ね上がっているのです。

・1円が100円に化けたとはスケール感が涌かないかも知れませんが,1単位1円~数十円のクズオプションを売って,SQにはどうせ権利放棄されるだろうと思っていると,相場の急激な下落により(行使価格を突き抜けて実勢相場が下落すると),クズオプションの本質的価値が急激に大きくなって追証請求を受けることになります。そうなると,追証を翌営業日の正午までに入金しないといけなくなり,追証を入れずに決済しようとしても,受け取ったプレミアムの10倍~100倍を出さないと決済(買戻)できないという事態に陥ります。

・こうしたプレミアムの急変(アト・ザ・マネー近辺よりもアト・ザ・マネーより遠い方が変化の倍率は大きい)は,次の図2や図3のとおり,数年に一度発生しています。

(図2)

2008プット行使価格別

(図3)

2011年プット行使価格別1

・このように,ファット・テールと呼ばれる状況になると,アウト・オブ・ザ・マネーのオプションの価格(プレミアム)は,とても大きく跳ね上がるのです。こうしたオプションの価格変動の特性を,あなたが取引を始める前に教えてもらいましたか?


8月 20 2017

■ 外れることを予測する!?(オプション取引に関する専門的な基礎知識②)

・テール・リスクとは

平成29年8月6日の日経新聞には,7月の調査で米国債券市場に関わる3割の機関投資家が「テール・リスク」を心配していると報じられていました。

この「テール・リスク」とは,市場の大きな変動というリスクで,ファット・テールとも呼ばれます。

金融工学(証券投資理論)の世界では,値動きの激しさを,ボラティリティーとして捉え,価格変化率の大きさは対数正規分布に類似すると仮定されています。そして,大まかにいえば,大数の法則により,値動きの発生確率を(対数)正規分布の形に従う確率分布として捉えることができると仮定されてはいるものの,実際の相場では,平均(標準偏差=ボラティリティ=σ=1)から極端に離れた事象が発生する確率が,正規分布の形(釣り鐘型のカーブ)が示す確率より高くなっていることが知られています。こうした現象のことを,ファット・テールというのです。

東日本大震災クラスの地震は,100年に1度発生します。これと似ているのです。

 

・ファット・テールの実際

では,実際の日経平均株価の動きからファット・テールをみてみましょう。

日経225頻度

上のグラフは,前回のコラムで取り上げた平成19年1月から平成23年4月の日経平均株価終値の1日あたりの騰落(幅)を,発生の頻度ごとに示したヒストグラムです。結果は,だいたい正規分布に似た形となり,理論と現実が大きく異ならないことが,このヒストグラムからもお分かりになるかと思います。

さて,株価の騰落の発生(確率)が正規分布なら,無限大(∞)にも,その逆(-∞)にも,同様になだらかに0に近づいていく筈です。ですが,実際には,上記ヒストグラムをよくみるとお分かりいただけるように,0に近づきながらも,0ではない数値が発生し正規分布のカーブより上に飛び出た部分があります。このように,現実世界の株価の騰落(幅)の発生の仕方は,左右対称ではないのです。上の図に赤丸で示したように,1日で600ポイントを上回る上げ幅はほとんど発生していないのに対し,1日で600ポイントを上回る下げ幅はしばしば発生しているのです。

 

・背景の投資家心理

この相場の上昇(幅)より下落(幅)の方が発生し易いという現象は,取り付け騒ぎなどを想像すれば分かるように,人間の心理・行動を反映した結果です。このように,実際の株価の動きを統計的にみても,急激な相場の下落が,数年に一度の割合で発生することが分かります。

 

・万一への備え

機関投資家(プロ投資家)は,急激な相場の下落が,数年に一度の割合でほぼ確実に発生すること(ファット・テール)を知った上で,オプション取引などのデリバティブを使ったヘッジを行っています。投資に失敗したときに備え,いわばセーフティーネットを準備しているのです。

 

・司法は金融資本市場の実務・理論に耳を傾けるか?…司法の公正性

来る9月に,最高裁(司法研修所)がデリバティブに関する研究成果を書籍にまとめるそうです。その内容はみておりませんが,私のこれまでの裁判での経験では,原告側代理人として,金融工学を含む証券理論に基づく主張をしても,被告証券会社側から「理論に過ぎない」とか「仮定に過ぎない」などといった批判を受けると,それ以上,裁判所が取り合ってくれないことがしばしばありました。裁判官には,このような専門的な基礎知識(証券投資の最前線に用いられている確率や統計的手法)についても,一般の交通事故の事件に古典的な物理法則を適用しているのと同じように,最高裁の研究成果の出版物を踏まえて,耳を傾けてもらいたいと思います。


8月 16 2017

■ オプション取引に関する専門的な基礎知識①(株価の大きな騰落と発生頻度)

・しばらく中断しておりましたが,ここ半年の研究成果を踏まえ,当コラム「オプションシリーズ」を再開いたします。

 

・個別株式オプションは,大阪証券取引所に上場市場があるものの,クイックの画面を見学に行った際や,ネット取引口座のオプション取引のイタ画面を見学した際には,日中,ほとんど動きがありませんでした。取引はあまり活発でないという印象でした。

 

・他方で,現在,取り組んでいるオプション取引の事件は,日経225株式指数オプションです。過去の裁判例にも,ときどき登場するほど,裁判では,マイナーながらも,一定数の事件はあるようです。

 

・日経225オプションの原資産である日経平均株価の動きから見てみましょう。

下に表したグラフは,平成19年1月から平成23年4月の日経平均株価の終値の推移と,終値ベースの1営業日あたりの騰落(幅)です。

 

日経225変動幅

・グラフに緑色で示した日経平均の株価の動きは,平成19年7月頃までは1万8000円前後でしたが,平成19年8月に急落(パリバ・ショック),その後,平成20年春にかけてズルズルと下がり(サブ・プライム・ローン問題),一時盛り返すも,平成20年10月に急落し(リーマン・ブラザーズ倒産)8000円を割り込んだが,平成21年春頃からは,10月のギリシャ・ショック,11月のドバイ・ショックなど紆余曲折はありながらも徐々に回復し,平成23年3月の東日本大震災による急落を迎えたことを示しています。このグラフによって,歴史的事実に対し,市場がどのような反応を示してきたか,が分かります。

 

・大きな株価の推移は,上記グラフのようなものだとして,1営業日に動く相場変動の激しさは,どうでしょうか? 数値的には,「ボラティリティー」と表現される値の動きのことです。

 

・実際には,上のグラフに赤色で示したような動きであり,平成19年8月17日には▲874円,平成20年10月16日には▲1089円,平成23年3月15日には▲1015円と,前日終値に比べて大きく下落したことが分かります。

 

・こうした人の心理を反映した急激な相場の下落は,上昇する期間のエネルギーの蓄積とそのエネルギーの突然の短期間の解放です。地震が発生するメカニズムに似ているのです。エネルギーを蓄積させるきっかけが,限界(値)に達して,崩落する状況と理解できます。この突然の下落は,数年に一度の割合で発生しています。


8月 16 2017

■ 「仮免許」改まる(投資家の選択権)

・当コラムのファンの皆様,4月に更新したまま放っておかれて,さぞや退屈していたことでしょう。

・しかし,実は密かに,過去に掲載したコラムの部分的な修正はしておりました。

・AIが,証券投資の助言や,証券不正取引の摘発に活用されようとしている現在,投資の損失の内容を真に理解できる弁護士は少ないのです。投資家が,予想に反して苦境に陥り,適時に的確な専門性の高い助言が得られるように求めているとき,弁護士は本当に投資家の立場から指導できるでしょうか?また,投資家は専門性に裏付けられた助言のできる弁護士を選択できるのでしょうか?AIも学習を積み,有意義な情報発信か否かを嗅ぎ取るようになるかも知れません。

・私は,あることをきっかけに,わが「師匠」から「仮免許はこれで卒業だな。」と言葉をかけられ,自分の立ち位置をかみしめて落ち着いてから,ひそかに「仮免許」という自身に対する評価を記述した一語を削除したのでありました。

・まだまだ未熟ですが,頑張りますので,これからもよろしくお願いいたします。


4月 13 2017

■ 大阪高裁平成17年12月21日判決(オプション取引の判例(裁判:その3))

・大阪高裁平成17年判決も“新説,ロールオーバー”

さらに,現在抱えている事件処理のため & スキルアップのために このコラムを書いている際に,興味深いことに気が付きました。

 

当コラムでご紹介した京都地裁平成11年判決の事案で,証券マンのFさんが言い出した「ロールオーバー」という言葉の意味(“新説,ロールオーバー”)は,後の世になって,法律家によって立派に定義づけられていることです。

 

大阪高裁平成17年12月21日判決は,曰く「オプション取引のロールオーバーと呼ばれる取引の手法は,オプション取引において損失が発生した場合,その損失をカバーするため,損失額以上のプレミアムを得るためにオプションの売りを行って,株価の成り行きを見るという手法である」と。完全に“新説,ロールオーバー”の意味で,言葉を使っています。

 

・言葉の一人歩き

“新説,ロールオーバー”のように,裁判では,まれに,規範や用語が一人歩きしてしまいます。

事案に当てはめた意味合いや趣旨を汲み取れば,損失を穴埋めするのに十分なプレミアムが得られるよう,オプションを売り建てていくという方針そのものが,顧客の無理解や,事案の証券マンの顧客を立場に配慮しない営業態度とも評価でき,こうした意味を含ませて,適切な造語ないし表現がなかったため,特殊な意味合いで用語が定義づけられてしまった,ともみえます。

しかし,反面,一般的な金融用語からは乖離した意味ともなっています。

そのため,どうしても一般の人からは,日本語で書かれているのに意味が分かり難いということになりかねません。また,裁判例を使う法律家にとっても,判決を読む際には,判断の対象となった事実が具体的にどういうものなのか,当事者や裁判所が,どのような意味で言葉を使っているのかという点にも注意しなければならないのです。

自戒を込めてですが,最近便利になった判例検索には,キーワードに頼り過ぎると思わぬ落とし穴に見舞われるのかも知れませんね。

 

・大阪高裁平成17年判決の指導,助言義務

さて,ご紹介した大阪高裁平成17年12月21日判決には,“新説,ロールオーバー”を前提として,「このようなロールオーバーの取引手法の危険性を考慮すると,証券会社及びその従業員としては,ロールオーバーの取引を勧める場合には,その危険性を十分説明し,顧客がそれをよく理解した上でその取引を行うよう指導,助言すべき注意義務があるというべきである。」と述べて,指導,助言義務を肯定しています。

この判決は,言葉の用例は兎も角,顧客に推奨・勧誘された取引について,損失の危険性が拡大し,その損失が現実化する可能性が高まっていくという過程を的確に洞察しているからこそ,証券会社側に,顧客にきちんと理解させて取引できるよう,指導,助言義務を課したのだといえます。


3月 03 2017

■ “新説,ロールオーバー”!?(オプション取引の判例(裁判:その2のさらに続き))

さて,一般的な金融用語でいうロールオーバーとは,前回コラムで,2つの意味があると解説しました。それを前提に,京都地裁平成11年9月13日判決を見てみましょう。事案の証券マンFがいう「ロールオーバー」とは,どのような意味だったのでしょうか?

・京都地裁平成11年判決の証券マンFがいう,“ロールオーバー”

京都地裁平成11年9月13日判決は,オプション取引の具体的な内容について次のように述べています。

「平成9年1月16日にプットを行使されて金263万4414円の損失を生じたが,同日には同年2月限月のコール4単位…を売り,プレミアム合計232万2555円を得て,右損失を累計では帳消しにしている。

同様に,同年3月19日にプットを行使されて金166万3439円の損失を生じたが,同日,同年4月限月のプット1単位及びコール1単位を売り,プレミアム合計187万2555円を得て,右損失を累計では帳消しにしている。

次いで,同年5月7日にはコールを買い戻しせざるを得なくなり金333万5034円の損失を生じたが,同日,当日の日経平均株価が2万0048円であったのに同年6月限月の1万7500円のコール3単位を売り,金595万4748円のプレミアムを得て,右損失を累計では帳消しにしている。」,

「この取引経過を見ると,累計で損失を計上しないことだけを至上目的として取引が行われているように窺われる。」と指摘されています。そして,事案の証券マンFが,「この手法を『ロールオーバー』とい」っていたと認定しています。

・評価損を隠蔽して新たな取引をさせる手法

要するに,証券マンFは,“ロールオーバー”と称して,反対売買で発生した確定損失や,SQ日に権利行使を受けて確定した損失を,穴埋めするだけの多くのプレミアムが得られるよう,オプションの売り取引を繰り返させたのです。

そして,証券マンFが顧客に勧誘したオプション売取引の中には,イン・ザ・マネー(注1)のオプションの売が含まれており,顧客の損失を帳消しにするため,プレミアムの大きい危険性の高いオプションの売(注2)が勧められたことがうかがえます。

(注1)オプションの買い手=取得者が利益を得られる状態にあること,逆にみれば,オプションの売り手=義務の引受者としては取得するプレミアム以上に損失を被るおそれが高い状態にある。

(注2)判決文中「5月7日・・・当日の日経平均株価が2万0048円であったのに同年6月限月の1万7500円のコール3単位」との指摘部分。

・業界用語?

本来,ロールオーバーという言葉は,ポジションの限月間の乗り換えという意味や,翌日への繰り越しという意味なのですが,判決の事案のFさんは,穴埋めすべき損失額とオプション売取引で得るプレミアムの釣り合いという意味で「ロールオーバー」という言葉を使っています。事案に特殊な用例といえるでしょう。

一般的な意味と区別するため,“新説,ロールオーバー”とでも名付けておきましょう。

なお,この京都地裁判決は,紹介した判示部分の後に,証券会社の適合性原則違反を認めました。また,大阪高裁平成12年8月29日判決で維持されています。


3月 02 2017

■ “ロールオーバー”って知っていますか?(オプション取引の判例(裁判:その2の続々編))

前回コラムに引き続いて京都地裁平成11年9月13日判決を取り上げます。その準備として,今日は,ロールオーバーという用語について触れたいと思います。 

・ロールオーバー=乗り換え

先物取引やオプション取引で,保有している建玉(たてぎょく=ポジション)を,いったん決済し,次の限月以降のポジションを作ることをロールオーバーと言います。

当限(とうぎり)の最終取引日である納会日(のうかいび)やSQ(Special Quotation)算出日の前日までに決済しないでいると,保有しているポジションは,現物の受渡やSQによる清算によって消滅してしまいます。ポジションを維持しようとするなら,当限の取引最終日までに次の限月以降の期先のポジションに乗り換えなくてはなりません。このように,投資家側の取引の手仕舞いと新規建玉という行動により,期先ポジションに乗り換えるという意味でロールオーバーという言葉が使われることがあります。

・ロールオーバー=決済期限の繰り延べ

また,外国為替証拠金取引(FX証拠金取引)や株価指数を原資産としたCFD取引において,限月(取引期限)がない代わりに,毎日,自動的に,そのポジションから発生する評価損益や配当・金利などの清算を,クリアリング・ハウス(清算機関)との間で行われて,投資家のポジションが翌日の取引開始時に繰り越されることを指して,ロールオーバーという言葉が使われることがあります。ここでは投資家側の行動という意味合いは薄く,自動的になされるポジションの持ち越し,決済期限の繰り延べという意味合いが強いといえます。

次回は,こうした前提知識を踏まえ,判決についてコメントします。


2月 26 2017

■ オプション取引は素人がやるものじゃない!(オプション取引の判例(裁判:その2の続編))

・オプション取引の判断は難しい

当コラムでも「オプション代金の決まり方」「オプション代金の決まり方(その2)」で指摘したように,オプションのプレミアムの変動特性は,現物の資産の価格変化とは異なり,特殊です。ストラドルの買いのところで説明しましたが,時間的価値の減価などを考慮して手を打つというのが,オプション取引の世界では,ふつうのことなのです。オプション取引は,その特殊な損益を理解できる機関投資家が主な参加者なのです。

 

前回このコラムでご紹介した京都地裁平成11年9月13日判決も,「オプション取引を理解するためには,プレミアムの形成要因を把握する必要がある。プレミアムは,本質的価値(市場価格と権利行使価格との差)と時間価値との合成である。時間価値は,満期までの原証券価格の変動性の大きさ(ボラティリティ),満期までの残存期間,短期金利,配当率等が要素となっている。」と指摘しています。

しかし,こうした専門用語の持つ意味を理解して,頭の中で,損益曲線をイメージして,その変化を次々と描いていくことができるかというと,かなりの知識と経験を積まなくてはならないでしょう。多少の説明を受けたからといって,素人がすべき取引とは言い難いのです。

 

オプション取引は素人がやるものではない!

この点,京都地裁平成11年9月13日判決も,「長い投資経験と深い知識を有する者でない限り,多くの個人投資家には適合しないというべきである。」と述べています。要するに,分からないまま,素人が手を出すものではない,と。少し長くなりますが,判決文から該当する箇所を引用します。

「(1)投資判断の困難性

オプション取引は,その仕組みが難解である。『売る権利』『買う権利』の売買という概念自体の理解が容易でない。使われている用語も聞き慣れない。対象となる商品が『株価指数』という抽象的なものであり,その値動きの分析には高度の専門性と情報力を要する。また,プレミアムの形成要因の理解,その変動の予測も真に困難である。オプション取引市場の投資主体は,証券会社,機関投資家及び海外投資家が大部分を占めており,日経平均株価オプション取引の平成8年における国内の個人投資家が占める割合は,コールの取引において約8.5パーセント,プットの取引において約6.6パーセントにすぎない。オプション取引をする個人投資家は,豊富な情報を基に株価指数やボラティリティを統計的に予測しながら取引を行っている機関投資家らと取引を行わなければならないのである。

(2)満期日の存在

オプション取引には満期日があり,その日までに,反対売買するか,権利行使するか放棄するかを決断しなくてはならない。このことがより適切な投資判断を困難にしている。

(3)ハイリスク

現物投資と比較して,使用する資金に対する損益の比率が大きくなる(レバレッジ効果)。即ち,ハイリターンが期待できる反面,ハイリスクの可能性があるのである。とりわけ,コール,プットの売り手は,損失額が無限定である。

(4)もっとも,オプション取引には,右のレバレッジ効果の外にも,リスクヘッジ効果(保有株式の値下がりのリスクのヘッジとしてプットを買ったり,購入予定株式の値上がりのリスクのヘッジとしてコールを買う等の方法でリスクの分散を図ることができる)や多種多様な投資戦略が可能になる(例えば,相場が動かなかった場合でも利益を得ることができる)等,現物投資にはないメリットがある。しかし,リスクヘッジが必要なのは大量且つ広範な種類の銘柄を保有している機関投資家であって,個人投資家にとってはその必要性は一般的には乏しいと考えられる。

(5)そうすると,個人投資家でオプション取引に適合するのは,投資家の方からハイリスクを承知で積極的にこれを希望する場合を除き,資金力と長い投資経験があり,証券取引,取り分けオプション取引についての深い知識と理解を有し,他の取引ではできない投資戦略をとる必要がある場合に限られるというべきである。」と。


2月 24 2017

■ オプション取引の投資戦略(オプション取引の判例(裁判:その2))

京都地裁平成11年9月13日判決(大阪高裁平成12年8月29日判決)

これもまた少し古い裁判例ですが,オプション取引の判例(裁判)のその2として,大阪高裁平成12年8月29日判決で維持された京都地裁平成11年9月13日判決を紹介したいと思います。

・オプションの様々な取引手法

上の裁判でも,書店に並ぶオプション取引の概説書同様,オプション取引における取引手法(建玉の仕方)について,①ストラドルの売り,②ストラドルの買い,③ストラングルの売り,④ストラングルの買いの4つが紹介されています。

①ストラドルの売り

ストラドルの売りとは,同一限月,同一権利行使価格のコールとプットを同枚数売る戦略のことです。

株価が上昇しても下落しても損を被ることになりますが,変化幅が一定の範囲内であれば利益を狙えるということからストラドル(straddle:二股をかける,どっちつかずの態度をとるという意)と呼ばれます。損益図は次のとおりです。

ストラドル売

上記京都地裁平成11年9月13日判決は,「株価の変動が小幅になると予想したときの戦略であり,株価の変動が小幅であれば利益が出るが,逆に株価が大きく変動すると,大きな損失を被ることになる。」とコメントしています。

②ストラドルの買い

ストラドルの買いは,同一限月,同一権利行使価格のコールとプットを同枚数買う戦略です。

株価が,上昇か下落かのいずれかの方向に大きく動くと予想される場合にとるべき戦略で,どちらかに大きく動けば利益となりますが,満期時の株価が権利行使価格からコールとプットのプレミアム合計を加減した価格を上回るか下回るかしなければ,オプションを買う際のプレミアムの分だけ損となります。

ストラドルの買いは,短期的には,ボラティリティーの上昇でプレミアムが上昇することを狙った戦略です。つまり,買ったオプションを売って処分する際にプレミアムが高く貰えれば,差額が手元に残ることを狙った戦略なのです。しかし,アト・ザ・マネーのオプションには,時間価値が大きく含まれていますから,時間の経過による減価もまた大きく,売ってプレミアムの差分だけ手元に残すということも,簡単なことではないと思います。

損益図は次のとおりです。

ストラドル買

 

上記京都地裁平成11年9月13日判決は「上昇するか下落するかは判断がつかないがいずれにせよ株価の変動が大幅になると予想したときの戦略であり,株価の変動が小幅であれば損失が出るが,逆に株価が大きく変動すると,大きな利益が出ることになる。」とコメントしています。

③ストラングルの売り

ストラングルの売りとは,同一限月で権利行使価格の違うアウト・オブ・ザ・マネーのコールとプットを同枚数売る戦略のことをいいます。

損益図は次のとおりとなります。

ストラングル売

株価が,ストラドルの売りと同じく,権利行使価格のレンジ内に収まった場合に,最大利益となります。

先の京都地裁平成11年9月13日判決では,「株価の変動が小幅になると予想したときの戦略であり,株価が二つの権利行使価格の間に入ると利益(プレミアム分)が出るが,逆にこれを超えて株価が大きく変動すると,大きな損失を被ることになる。」とコメントされています。

④ストラングルの買い

ストラングルの買いは,同一限月で,権利行使価格の異なるアウト・オブ・ザ・マネーのコールとプットを同枚数買う戦略のことをいいます。ストラングル(strangle:首を絞めるという意)とは,次の買いの損益図が,ひもで首を絞め付けているようにみえることから,こう呼ばれているそうです。

損益図は次のとおりとなります。

ストラングル買

京都地裁平成11年9月13日判決は,「上昇するか下落するかは判断がつかないがいずれにせよ株価が大幅に変動すると予想したときの戦略であり,株価が二つの権利行使価格の間に入ると損失(プレミアム分)が出るが,逆にこれを超えて株価が大きく変動すると,大きな利益が出ることになる。」とコメントしています。


12月 18 2016

■ オプション取引の判例(裁判)

・相場を張るのはプロでも難しい?(事案の概要)

少し古い裁判例ですが,証券外務員Aが,損失を抱えた一般投資家Xに対し,株価は下がる可能性が高く,Xの保有株についても値下がりが予想されるとして,プットオプションの買による株価値下がりの回避を提案して,オプション取引を行わせ損を拡大させたという事案があります。この事件で,東京地裁平成6年6月30日判決は,Aの説明が,概要,オプションとは日経平均株価を買い付け又は売り付ける権利であること,オプションの買の場合には投資金額がリスクの最大限になるが,売の場合にはリスクの限定は不可能であること,買にはコールとプットがあり,コールは株式市場が上昇したときに利益が出て,プットは下落したときに利益が出ること等に留まるものであったと認定し,次のように,述べています。

・東京地裁平成6年6月30日判決

「日経平均株価指数オプション取引は,株式市場全体の動向を膨大な情報をもとに正確にかつ短時間のうちに判断することを必要とするものであり,それでも判断を誤る危険性も極めて大きく,一般投資家がたやすく行い得るものではないと考えられる。また,その内容についても,一般投資家が理解することは容易ではなく,現に証人Tの証言によれば,被告の支店長であるTですら,オプション取引はよく分からないと自認しているところであるにもかかわらず,Aは,説明書を示すでもなく,単に実例を示して口頭で値動き等について概括的な説明をしたにとどまるのであり,説明の内容において不十分というべきである。」

「2000万円もの損失を生じたXが,その損失をカバーするために始めた被告における取引においても,逆に1億5000万円を超える巨額の評価損を上積みしてしまっていたというのであるから,Xがこれを取り戻す方法はないかと強く迫ったからといって,また,その了解を得たからといって,更に損失を拡大する危険も大きいオプション取引を勧めること自体,不適当といわざるを得ない。もっとも,Xは,500万円から1000万円の範囲内では失敗してもやむを得ないと考えて,本件オプション取引に踏み切ったとも見られるのであるが,たとえそうであっても,巨額の損失に動揺していた時期にあるXは,損失を取り戻すための賭ともいうべき行動に出たと評価すべきであって,それを勧めて行わせた被告の責任は否定し難いところである。」と。

・オプション取引の受託業務と具体的な注意義務(的を射た洞察)

紹介した平成6年6月30日判決で,裁判所は,オプション取引が,当時の証券会社の一支店長ですら理解できない取引であることを指摘して,一般投資家に勧誘することを問題としました。しかも,「巨額の損失に動揺していた時期にあるXは,損失を取り戻すための賭ともいうべき行動に出たと評価すべき」と指摘しています。

この指摘は,平たく言えば,金額が大きくなって損得の感覚がまひしてしまう傾向があるということ,損が拡大した状況で損失が更に拡大するインパクトは小さく感じられる傾向にあるということ(価値関数・感応度逓減性)や,損失局面では損失の回復可能性を過大評価する傾向にある(確率加重関数)といった行動経済学のプロスペクト理論の考え方にも裏付けられます。

当コラムでも,実需に基づいた必要から,ヘッジ手段としてのプットオプション買が行われることを指摘したことがあります。裁判官は,フットインザドアーテクニックと呼ばれる,コミットメントと一貫性という人間心理を利用した勧誘と同じく,とにかく取引を始めさせてしまえというやり方がよくないと考えたのでしょう。

取引開始の動機が,プットオプションの買による株価値下がりの回避の目的であっても,投資家側が真に理解していなければ,一般投資家には不向きであると洞察したのです。

判決時期からして,考え抜いた結果の判断を示されたものとして敬意を表すべきだと思います。

 

・最高裁平成17年7月14日判決の2つの弊害

小見出しの最高裁判決は,この業界一般には,適合性原則違反が,民事の不法行為に基づく損害賠償請求の原因になりうることを認めたものとして理解されています。しかし,その理由付けや判示内容からは,次のような2つの弊害が生じていることも否めません。

・オプションの習熟の程度は?(取引回数のみに目を向けてしまう誤解の原因)

最高裁の平成17年判決の事案は,法人である一般投資家側が,プレミアム獲得目的で選択したプットオプションの売取引による損失が,複数回成功した後の失敗であった事案です。

1つめの弊害としては,最高裁が,上場市場が存在することや,「基礎商品となる日経平均株価やオプション料の値動き等は,経済紙はもとより一般の日刊紙にも掲載され,一般投資家にも情報提供されているなど,投資者の保護のための一定の制度的保障と情報環境が整備されている」と指摘し,新聞やテレビで日経平均株価の値段という情報に接し易いことを投資家側を負かす理由に掲げた点です。

値段が「上がる・下がる」ということくらいは,日々のニュースで報じられる数値をノートすれば追えるのでしょうが,オプション取引の難しさというのは,単に,プレミアムの大小や対象指標の上げ下げだけではないのです。

最高裁は,「投資者の保護のための一定の制度的保障と情報環境が整備されている」ことを指摘していますが,事案の投資家の請求を排斥する理由として,「1回目及び2回目のオプション取引では,専らコール・オプションの買い取引のみを,数量的にも限定的に行い,その結果としての利益の計上と損失の負担を実際に経験していること,こうした経験も踏まえ,平成3年2月に初めてオプションの売り取引(3回目のオプション取引)を始めたが,その際,オプション取引の損失が1000万円を超えたらこれをやめるという方針を自ら立て,実際,損失が1000万円を超えた平成4年4月には,自らの判断によりこれを終了させるなどして,自律的なリスク管理を行っていること,その後,平成4年12月に再び売り取引を中心とするオプション取引(4回目のオプション取引)を始めたが,大きな損失の原因となった期末にオプションを大量に売り建てるという手法は,決算対策を意図する被上告人の側の事情により行われたものである」などと指摘して,事案の投資家が玄人に近いとみるべきことを裏付ける事実を,いろいろと述べています。

しかし,規範のみが一人歩きを始めると,新聞やテレビで報じられており馴染みがある,というだけで,請求を否定しにかかる裁判官が出てくるように,金融知識の不足する法律家にとっては,重要度の濃淡を誤解してしまう原因にもなっているのです。

・投資の意思を決定したときの情報は?(具体的な危険性について問題の所在を誤解させる原因)

2つめの弊害としては,最高裁平成17年判決が「確かに,オプション取引は抽象的な権利の売買であって,現物取引の経験がある者であっても,その仕組みを理解することは必ずしも容易とはいえない上,とりわけオプションの売り取引は,利益がオプション価格の範囲に限定される一方,損失が無限大又はそれに近いものとなる可能性があるものであって,各種の証券取引の中でも極めてリスクの高い取引類型であることは否定できず,その取引適合性の程度も相当に高度なものが要求される」と指摘した点です。

現在では,投資家側の代理人も,強調して指摘することが多いであろう危険性の指摘ではありますが,具体的な事案の経緯から離れて,理論上の危険性を指摘するだけで裁判に勝てる訳ではないと思います。

仕組みからプットオプションの損が無限であることは明らかです。この点は,ドイツの有名な最高裁判決も指摘しています。

しかし,真に重要なのは,投資の意思を決定するときに,具体的な経済情勢を含めた価格変動要因などを,どの程度投資家側に知らされていたか?という問題です。

今後は,どのような情報を提供されたから,プットオプションの売りを選択した,という意思決定の問題になっていくと考えています。


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