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5月 16 2022

■ 適合性原則違反とは?

・ 適合性原則違反

裁判例を紹介する中で、「適合性原則違反」と書いていました。少し、「適合性原則違反」について紹介していきたいと思います。

適合性の原則とは、米国の証券取引の中で生まれた「証券会社が、その顧客の投資目的および財政上のニーズについての情報を聞き出し、また発行者を調査したのちにその目的およびニーズに一致するものと信ずる証券のみを勧誘しうる」というルールで、わが国では、証券取引分野以外にも拡大していると言われています。

・ 認識する手がかり

金融商品取引法(「金商法」と略します。)40条1号は、「金融商品取引業者等は、業務の運営の状況が」「金融商品取引行為について、顧客の知識、経験、財産の状況及び金融商品取引契約を締結する目的に照らして不適当と認められる勧誘を行って投資者の保護に欠けることとなっており、又は欠けることとなるおそれがある」「ことのないように、その業務を行わなければならない。」としています。また、商品先物取引法(「商先法」と略します。)215条も、「商品先物取引業者は、顧客の知識、経験、財産の状況及び商品取引契約を締結する目的に照らして不適当と認められる勧誘を行って委託者等の保護に欠け、又は欠けることとなるおそれがないように、商品先物取引業を行わなければならない。」としています。これらは業法ですので、直ちにその違反が損害賠償と結びつくものではありません。

・ 判例法理

しかし、最高裁平成17年7月14日判決が、事案の解決としては否定した判決ですが、「証券会社の担当者が,顧客の意向と実情に反して,明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘するなど,適合性の原則から著しく逸脱した証券取引の勧誘をしてこれを行わせたときは,当該行為は不法行為法上も違法となると解するのが相当である。そして,証券会社の担当者によるオプションの売り取引の勧誘が適合性の原則から著しく逸脱していることを理由とする不法行為の成否に関し,顧客の適合性を判断するに当たっては,単にオプションの売り取引という取引類型における一般的抽象的なリスクのみを考慮するのではなく,当該オプションの基礎商品が何か,当該オプションは上場商品とされているかどうかなどの具体的な商品特性を踏まえて,これとの相関関係において,顧客の投資経験,証券取引の知識,投資意向,財産状態等の諸要素を総合的に考慮する必要があるというべきである。」と述べて、適合性原則違反が不法行為に基づく損害賠償の理由になることを示しました。

ちなみに、消滅時効との関係で、起算点を何時にするかという論点もありますが、不法行為は起算点から3年と短いため、債務不履行と構成して損害賠償を請求することがあります。その場合に、適合性原則違反は、証券会社の債務不履行となることをハッキリ述べた裁判例は少なく、岐阜地裁令和4年3月25日判決が適合性原則違反が証券会社の債務不履行となることをハッキリと言及してくれました。

・ 法律要件の捉え方

適合性原則は、上記最判により「具体的な商品特性を踏まえて,これとの相関関係において,顧客の投資経験,証券取引の知識,投資意向,財産状態等の諸要素を総合的に考慮する必要がある」とされていますので、一般的な法律要件とは異なります。

一般的な法律要件では、条文で書かれている要素が満たされると、決められた効果が発生すると扱われるように、スイッチみたいなものです。例えば、例えば、消費者契約法4条5項1号は、「物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容であって、消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきもの」が、同法4条1項、2項の「重要事項」だと定義しています。そして、同法4条1項1号は、事業者が「重要事項について事実と異なることを告げること」「により」、消費者が、「告げられた内容が事実であるとの誤認」「をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたとき」は、「これを取り消すことができる。」としています。

これを、①事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、②事業者が重要事項にあたる事柄について事実と異なることを告げたこと、③消費者が告げられた内容を事実であると誤認したこと、④消費者が当該消費者契約についての意思表示をしたこと、⑤上記②と③との間、及び、上記③と④との間の2つの因果関係という要素に分解でき、これらを満たせば、取消権という権利が発生すると考えるのです。

・ 適合性原則の総合判断

これに対して、投資取引分野での適合性原則では、先に述べましたように、顧客の投資意向や財産状態等に合致しているかについて、「具体的な商品特性を踏まえて,これとの相関関係において,顧客の投資経験,証券取引の知識,投資意向,財産状態等の諸要素を総合的に考慮する」というのですから、書かれている要素を斟酌して、価値判断を下すということを意味しています。そのため、損害賠償という法律効果を1対1で発生させるものではないのです。

これは、「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。」とする信義誠実の原則(民法1条2項)といった一般条項に似て、この人に、この状況下で、この商品を勧誘することが、果たして適合的なのか?という判断過程に資するような着眼点を、例示しているものなのです。「社会的相当性」を逸脱しているといった評価に近く、その考慮要素を示しているともとれます。


4月 27 2022

■ 仕組債の被害事案で勝訴しました(ノックイン条項付き豪ドル建日経平均連動債)

・ 長年手掛けてきた証券取引被害事案で、岐阜地方裁判所より、令和4年3月25日、一部勝訴判決をいただきました。

外貨建債券や投資信託については違法とまでは認められませんでしたが、ノックイン条項付き豪ドル建日経平均連動債(仕組債)については、原告両名とも、適合性原則違反と説明義務違反の債務不履行による損害賠償が認められました。

 

・ 証券会社や銀行を相手方とする訴訟事件等は、いわゆる専門訴訟です。弁護士には、医師と違って、専門家という制度がないので、弁護士という資格があれば誰でも「受任します。」とはいうことはできます。しかし、専門訴訟は、相当な学習・研究を要する分野です。筆者も、当コラムでも解説している金融工学、金融知識、経済知識や、これまでの被害者側代理人として活動してきた経験をもって、裁判所を説得することが出来ました。

 

・ そこで、この手の専門訴訟に携わる弁護士の学習・研究の素材となるように、岐阜地方裁判所令和4年3月25日判決の解説と判旨をまとめましたので、以下に掲載します。

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(上に表示されているのは全20ページのPDFファイルです。次ページ以降は、上の表示上にマウスを置いていただくと表示される矢印ボタンをクリックして次ページへ進んでいただけます。なお、あくまで学習・研究の素材として提供する限りで、「これをコピペすれば勝てる」なんて安易な使われ方をされると、世の中の人のためにも良くないので、PDFの編集・印刷は禁止してあります。あしからず。)


4月 06 2022

■ 乗換売買の違法評価の本質は?

・ 発端

途中から携わるようになった証券事件で、前任の弁護士さんが適合性原則違反、説明義務違反、過当取引という主張をしていたことから、依頼人のお身内から強く過当取引の違法性を主張して欲しい、乗換売買の違法性を主張して欲しいと言われたことがありました。

私は、年次回転率も低く、適合性原則違反、説明義務・情報提供義務の違反という主張を補充していく方針であったこと、乗換売買について言及した裁判例を調べ、違法性の本質は手数料稼ぎなどの背信的行為、あるいは、合理的根拠に基づかない勧誘行為であることから、過当取引の主張を掘り下げていくことは難しいとお伝えしました。

こうしたことがあったので、このコラムで、過当取引の違法性を題材に取り上げてみたのです。

保有商品を売って新たな商品を買うこと自体は、価値判断としてニュートラルなので、乗り換えを行わされた場合に、違法という評価(価値判断)がどこにあるのかみていきましょう。

 

・ 横浜地裁平成21年3月25日判決

横浜地裁平成21年3月25日判決(証券取引被害判例セレクト35巻1頁)は、投資信託の乗換売買に関する違法性に関して、証券会社の誠実公正義務を指摘して「証券会社の担当者が、手数料稼ぎなどの自己又は証券会社の利益を図るため、顧客にとって合理性及び必要性がなく又はそれらが乏しい取引を勧誘した場合に」不法行為として違法となるとしました。

なお、判決は、「証券会社の担当者において、顧客の投資経験等に応じ、新たに買い付ける投資信託について通常要求される説明のほか、売り付ける投資信託の損益状況、手数料等、乗換売買を行うことのメリット及びデメリットについて十分に説明し、顧客がそれを理解した上で取引をしたなどの場合」は、自己責任原則のとおり、違法ではないと述べています。判決でどのような事実関係が「乗換え」として違法と評価されたのか、みていきます。

 

・ 違法との評価は、合理性や必要性が乏しい乗換売買

(1)同種投資信託間での乗換えで、保有期間が短く利益の5倍の手数料負担

判決は、同種投資信託(国際株式型の株式オープン型投資信託)で信託報酬の高い方に乗換えさせることに関し、「わずか1か月余りの保有期間しか経過しておらず、損益も極めて小さい段階で、利益額の5倍以上もの手数料を負担してまで、いわば同種でかつ信託報酬の高い投資信託に乗り換えることには、特段の事情がない限り、合理性、必要性が乏しい」として違法としました。

 

(2)難平(ナンピン)とは

ところで、「難平(ナンピン)買い」とは、保有している商品の価格が下落したときに、相場の反転上昇を狙って、平均買付単価を下げるために、さらに買い増しすることです。

価格の下落トレンドの中で、「難平」を行うと、相場が反転しなかった場合、損失をさらに拡大させることにもなりかねません。評価損だけをみると、改善するようにみえますが、株価が下がるたびに「難平買い」を入れていくと、気づいたときには、1つの銘柄の保有数量が大きくなり過ぎ、かつ、含み損を抱える状態になってしまうことがあり、一般的に危険性が高いと言われています。

 

(3)価格下落局面で、損失確定かつ高額な手数料の同種投信間の「難平買い」乗換え

判決は、同種投資信託(IT系企業の株式を主要な投資対象とする投資信託)での乗換えに関し、平成12年3月のNASDAQ市場におけるITバブル崩壊後、乗換えの当時は国内株式市場に明確な上昇の気配がなく、IT系企業の株価は下落局面にあったこと、乗換えの際の買付けが一般的にリスクが高いとされる「難平買い」であることを指摘して、「株式市場に明確な上昇気配がない状況で、約29万円の損失を出した投資信託と同種の投資信託を約12万円の買付手数料を負担し、かつ、リスクの高いナンピン買いをしてまで買い付ける合理性、必要性には疑問がある」として違法としました。

 

(4)相場状況に反した勧誘・虚偽説明

判決は、乗換えのころ(平成13年1月12日現在)のNASDAQ株式市況は、アメリカ景気の失速による企業業績悪化懸念を嫌気して大幅な調整を続けていたと認め、そのような状況下での、アメリカのNASDAQ市場に登録されている株式を投資対象とする投資信託への乗換え勧誘の合理性について疑問を差し挟み、かつ、担当者がアメリカは年初の利下げが奏功したのか好調であるとか、NASDAQ市場も活況であるなどと説明していた点をとらえて、当時の客観的な株式市況とかけ離れた不適切な説明であるとし、合理性の乏しい乗換売買の勧誘だとして違法としました。

 

・ 本質は、勧誘の背信性・取引の不合理性

売った商品とその次に買った商品のペアで主張することが分かり易い場合もあろうかと思います。しかし、紹介した横浜地裁判決のように、裁判で違法と評価されうる乗換えは、①短期間しか保有していないのに、利益の5倍もの手数料を負担させて同種投資信託へ乗り換えさせたとか、②相場状況に反した虚の説明をしたなど、乗換えの必要性・合理性を欠いている場合です。

そうだとすると、顧客の投資目的・投資意向に反していれば、適合性原則の枠組みでとらえることもできますし、嘘の説明、商品の特性や手数料に関する理解が不十分であった場合には、説明義務の枠組みでとらえることができると思います。


3月 22 2022

■ 無意味な反復売買・乗換売買

・ 年次回転率の少なさを補強する勧誘の悪性

もう一つ、適合性原則違反、説明義務違反を認めるほかに「乗換売買」について言及した判決を紹介します。大阪高裁平成25年2月22日判決(判例時報2197号29頁、金融法務事情2004号149頁)です。

かつての商品先物取引業者の「客殺し商法」は、顧客から預かった証拠金を、差玉向かいといった手口を使い、取引所との間の日々の清算という形で流出することを防ぎつつ、取引を頻繁に行わせ手数料に転化させていくというものでした。

なお、現在では、カバー取引先との清算を極小化して預り証拠金が流出するのを防ぎつつ、相場観に従わない業者都合の取引に誘導することによって顧客の損を業者の収益として取り込んでいく「客殺し」を行うCFD取引業者もあります。

こうした商品先物取引の被害救済訴訟では、「転がし、無意味な反復売買(いわゆる特定売買)」という違法性の立て方はメジャーでした。これは、無定見に勧誘・推奨し、取引を重ねさせる点が「手数料稼ぎ」に結びついており違法と評価されるというものです。

かつて、商品先物取引に関しては、主務省がチェックシステム、MMT(ミニマムモニタリング)といって特定売買の割合、回転率、手数料化率を数値で示したと報道されたことがあり、裁判でも、取引の客観的状況を違法性判断で考慮する流れがあります。

証券取引の被害救済訴訟では、その「無定見」、つまり相場状況などに鑑み「合理性のない勧誘・推奨」という側面に焦点をあてて、業者の悪性を指摘するものといえます。売買回転率がある程度低くても、勧誘に合理的根拠がない、すなわち、必要性のない取引をさせたという評価をもって、個々の取引を一体のものとして違法と評価するものです。

 

・ 大阪高裁平成25年2月22日判決

判決の事案の控訴人は、後見開始決定取消審判から2か月も経たない1人暮らしの女性(取引当時76歳)です。判決の認定によると、不動産は持っていたものの、預貯金は1000万円程度、年金と不動産収入を合わせて年収294万円程度で、取引開始時に売却した株式も、必ずしも余裕資金とは評価できないとされ、株を売った代金約1400万円のほぼ全額が投資資金に充てられ、しかも、リスク分散が全く考慮されていないとされています。

 

・ 適合性原則違反

判決は、控訴人の判断能力は未だ回復途上で、日常生活を自力あるいは介助を受けて何とかこなすことで精一杯の状況で、主体的な判断で証券取引等を行うことが不可能な状態であったとしました。このような控訴人にとって、RC3以上の基準価額の変動が大きい投資信託、ランド建債、EBといった商品は、その内容の理解が困難であるとし、控訴人は、慎重な投資意向であったと認め、本件問題取引は、従前の取引とは質的・量的に大きく異なっていることを指摘して、適合性原則違反を認めました。

 

・ 説明義務違反・助言義務違反

判決は、担当者の勧誘によって、相当リスクを有する投資信託やEB債等を買い付け、しかも比較的短期間の保有日数で投資信託の乗換売買が繰り返されるなど、相当に積極的な投資判断に基づく取引が行われている。担当者は、控訴人に対し、新たに取引の対象とする商品の内容、仕組み、投資方針、リスクの質と程度についてはもちろん、乗換売買を行うに当たっては、売却する各商品の状況及び通算の損益状況、手数料等の顧客が負担する内容等、乗換売買を行うことのメリット並びにデメリット及びリスクについても、控訴人の属性等を踏まえ、控訴人の取引意向に沿うべく十分に説明して理解させる義務があったとしました。そして、結論として説明義務違反を認めました。

 

・ 合理性のない反復売買・乗換売買

(1)判決は、商品Bは、商品相場に連動するような複雑な投資信託であり、控訴人の投資判断能力からして不適合な商品であるとし、毎月分配型の商品Aは、控訴人が購入した平成20年1月以降も毎月80円~100円の分配金が発生していたため、評価価額は下がっているものの、分配金を加味した運用ではほとんど損失が出ていない状況であったが、担当者は、その内容を説明せずに商品Aから商品Bへ乗換えを勧めたと認定し、合理的な乗換えとはいえないとしました。

(2)判決は、商品Aの運用が失敗したわけではないし、控訴人は、商品Aを購入する時点で株式投資に対して消極的な考えを持ち、株式を全て売却してその売却代金で商品Aを購入したこと、控訴人は、当初、分配金の取得できる投資信託を希望していたのに、商品Cは、分配金がなく、株式を投資対象とするものであったことから、商品Aから商品Cへの乗換えは、控訴人の希望した取引とは考え難く、合理的な乗換えとはいえないとしました。

(3)判決は、ランド建の商品Dを売却し、商品Aに乗り換えた点について、商品Aは、新興国の通貨建ての債券に投資する投資信託であり、投資対象には南アフリカランドも含まれていること、当時、リーマン・ショックの影響で、新興国の通貨は軒並み不安定な状況になっていたことから、上記乗換えは、合理的な乗換えとはいえないとしました。

(4)判決は、商品Bからオーストラリアや香港などの株式に投資する投資信託である商品Eへの乗換えについて、商品Bをあと1週間保有していれば3万4000円の配当を受けることができたこと、当時商品Eの基準価額はあまり動いていなかったし、商品Bの評価損にも大きな変化は認められなかったこと、商品Eが控訴人が消極的であった株式を投資対象としており、リーマン・ショック後の為替相場が不安定な時期で、新興国の為替リスクも負担することになることから、上記乗換えは、合理的な乗換えとはいえないとしました。

(5)判決は、商品Fと商品GからのEB債への乗換えについて、担当者は、一旦は、値上がり益を追求するような商品を控訴人に勧誘していたにもかかわらず、EB債については高い利回りを目的として提案しており、勧誘方針に一貫性が認められないこと、そもそも商品Fを勧誘したのは、先進国の債券が投資対象となっており、低い利回りであっても、信用性を重視していたはずであるのに、今度は、利回りの低さを理由に売却するというのであり、勧誘方針が矛盾していること、為替リスクを回避する目的であれば、より大きな資金を投入している商品Eの保有の継続の有無を優先的に検討されるべきであるのに、これを検討対象としていないことから、上記乗換えは、合理的な乗換えとはいえないとしました。

(6)そして、判決は、取引が平成20年1月10日から平成21年4月15日までの間の約1年3か月間の比較的短期間の取引で、取引回数は29回(17回の買付と12回の売付)、総買付金額は4000万円を超え、回転率(=年間投資額/平均月末投資残高)は2.16(1年間に投資資金の2.16倍の買付を行うこと)、手数料率13.2%(全損失に占める手数料の割合)であり、投資信託等の保有日数は、最も長いものでも365日、最も短いものが68日で、6、7か月程度しか保有されていない商品が多いと指摘しました。その上で、投資信託の取引は、基本的には、長期保有がされることを前提としており、比較的短期間の保有日数は、控訴人の知識・経験、投資目的、資金の量に照らして適合的とはいえないと評価しました。また、合理性のない、投資信託等の反復売買、乗換売買を繰り返し、その結果、1度を除き、全て控訴人が損失を被っている上、手数料率が比較的高率であることを考え併せて、担当者は、控訴人の利益を犠牲にして、自己の業績を上げ、あるいは被控訴人の利益を図ったものと推認するのが相当である、として不法行為の成立を認めました。

 

・ 注意点(射程)

紹介した大阪高裁平成25年2月22日判決は、(1)~(5)の認定をして、合理性のない反復・乗換売買について違法だとしました。ですが、事案の控訴人は、後見開始決定が取消されて2か月も経たない高齢女性であったという事情を踏まえた判断です。


3月 06 2022

■ 年次回転率が低くて(3.17回)過当取引の違法が認定された事案

・ 大阪地裁平成18年4月26日判決

大阪地裁平成18年4月26日判決(判タ1220号217頁、金商1246号37頁、判時1947号122頁)の事案の原告らは、取引開始当時66歳の就業経験のない主婦と、脳出血後遺症等のために、特にうつ病の症状が強く、精神的に不安定で混乱した状態にあり、集中力低下や抑うつ状態を繰り返し、判断能力が低下することが度々あった息子でした。

・ 適合性原則違反、説明義務違反

判決は、株式相場の全体的下落傾向の下、次々と取引損が拡大する中で、一貫して、ハイリスク型の株式投資信託に全取引資産を集中投資させ、全取引資産をリスクの高い金融商品に集中投資させたまま、短期間の乗換売買の勧誘を繰り返した担当者の行為を、適合性原則違反だと断じています。

また、判決は、説明義務に関しても、原告らに対し担当者が勧誘する取引について自らの証券取引の知識、経験、財産状態、投資意向等に適しているか否かを自ら判断できる機会を与えるため、「新たに取引の対象とする商品の内容、仕組み、投資方針(元本重視の取引か、利子・配当重視の取引か、値上がり益重視の取引か等)、リスクの質と程度についてはもちろんのこと、乗換売買を行うに当たっては、売却する各商品の状況及び通算の損益状況、手数料等の顧客が負担する内容等、乗換売買を行うことのメリット並びにデメリット及びリスクについても、原告らの属性等を踏まえ、原告らの取引意向に沿うべく十分に説明して理解させる義務」があったとし、事案において説明を十分尽くしたものとは認め難いと、説明義務違反を認めています。

・ 過当取引の認定過程

判決は、「証券会社が、顧客の利益よりも自らの手数料収入の獲得等という利益を優先させ、顧客を不適切に多量・頻繁な取引を勧誘することは許されない」。「証券会社及びその従業員は、信義則上、一般の投資家を顧客として証券取引に勧誘する場合、当該顧客の知識・経験、投資目的、資金力に照らして、不適切に多量・頻繁な投資活動に勧誘し、自己の利益を図ってはならないという義務を負っているというべきであり、証券会社がこの義務に違反して証券取引を行い、社会的相当性を欠く場合には、私法上も違法として不法行為を構成する」とし、次のように、年次資金回転率3.17回でも過当取引の違法性を認定しました。

つまり、「ハイリスク型の株式投資信託(21種類)、EB債(3種類)、バスケット債(2種類)、IT関連外国株(5種類)、外債(2種類)の他、多数の国内株、国債、公社債を対象として、原告らの全取引資産(約2600万円相当)を、主に申込手数料等が高率なハイリスク型の株式投資信託、EB債、バスケット債、外国株等に集中投資した状態で、…短期間(長くて7か月強、大半が2ないし4か月で、1か月未満のものも多数存する。)の保有日数で、…株式投資信託等の間での乗換売買が繰り返された」。本件取引は、「原告らの知識・経験、投資目的、資金の量に照らして適合的であるとは到底いえず、過当なものである。」とし、取引の過当性要件を認め、担当者が主導していた点から口座支配性要件を認めました。そして、判決は、顧客の被害に対する故意要件(証券会社の背信性=手数料稼ぎ目的)については、次の点を指摘して、担当者は、「原告の利益を犠牲にして、自己の業績を上げ、あるいは■証券の利益を図ったものと推認せざるを得ない。」としています。

① 「本件取引においては、国内株、公社債、公社債投信と比べて手数料率が高率なハイリスク型株式投資信託、EB債、バスケット債、外国株、外債等を対象として、短期間での乗換売買が繰り返され、■証券は、申込手数料、信託報酬等により、通常の証券取引と比べて多大な収入を得たものと認められる。」

② 「取引開始から約3か月後に原告らの全取引資産が2種類の株式投資信託(「日本グロースオープン」、「I―TECH」)に集中投資されている」

③ 「その後、「日本グロースオープン」につき、高額の配当が得られる配当日の直前(18日前)に売却され、4種類の株式投資信託(「21世紀グロースオープン」、「日本株式アクティブオープン」、「ベストエクイティオープン翼」、「住信ジャパングロースファンド・得意技」)に乗り替えられているが、同4種類の株式投資信託は、「日本グロースオープン」と投資対象・投資方針等を大きく異にするものではなく、乗換売買を行う格別の理由に乏しく、その後、上記株式投資信託も短期間の保有日数で売却され、別の株式投資信託等に乗り換えられている」

④ 「一般的に中長期的に保有することが想定されている株式投資信託につき、わずか数か月単位での乗換売買が繰り返され、その前提となる相場動向についての判断も短期間の間で二転三転して一貫していない」

⑤ 「特に「日本グロースオープン」については、…平成11年12月に買付後、平成12年3月1日に売却、その後同年8月に再び買い付けられ、その2週間後に売却され、その後平成13年4月から5月に再度買い付けられ、同年8月までにすべて売却されるなど、同一の株式投資信託の間で乗換売買が繰り返されている」

⑥ 「本件株式投資信託の中には新商品が多く含まれている」

⑦ 「本件取引開始から平成13年9月ころまでの間においては、株式投資信託の売却につき、前記の■証券の内部の基準に抵触しないように、3か月以内の損失の売却とならないよう売却日が調整されるなど、取引に作為が窺われる」

⑧ 「株式相場の全体的下落傾向の下、購入した株式投資信託等の評価額が下落し、損失が次々と生じているにもかかわらず、取引終了に至るまで、取引資産のほとんど全てをハイリスク型の株式投資信託、EB債、バスケット債、外国株、外債等といったリスクの高い商品に集中投資したまま、短期間の乗換売買を繰り返していた」

⑨ 「本件取引開始から取引終盤まで原告名義の口座から現金が出金されたことはほとんどなく、取引で利益が生じていても別の商品の買付代金に充てられていたため、本件取引を通じて原告らが手元に現実の利益を取得したことは全くなかった」

・ 総合判断

過当性の判断は、証券売買の頻度や売買量と顧客の投資目的などの総合判断といわれています。この判決では、顧客の被害に対する故意要件を基礎づける事実(証券会社の手数料稼ぎ目的、背信性の強さ)が取引の過当性の判断で考慮されているように思えます。

とくに、③投資対象・投資方針等を大きく異にしない商品間では乗換売買を行う格別の理由が乏しいこと、⑤同一の株式投資信託の間で乗換売買が繰り返されていることといった指摘は、勧誘・推奨行為が合理的根拠に基づいていないこと(合理的根拠に基づかない勧誘)を指摘しているといえます。


2月 12 2022

■ 頻繁な取引に関する違法事由

・ 過当取引(チャーニング)とは

証券取引で、取引が頻繁というだけでは違法とは評価されませんが、一定の要件をみたした場合には、違法と評価される場合があります。

証券取引被害救済の手引(三訂版)(2001年1月28日、日弁連消費者問題対策委員会編・民事法研究会)によれば、過当取引(チャーニング)とは、証券会社が証券取引における顧客の口座に対し支配を及ぼし、その顧客の証券会社への信頼を濫用して、証券会社の手数料稼ぎ等の利益を図るために、その口座の性格に照らして金額・回数において過当な取引を実行することと言われます。

要するに、取引未習熟者が担当者を信頼して推奨されるままに応じていたが、担当者は顧客のためでなく、自己の成績などのため、その顧客に適合しない金額・回数の取引をさせたような場合です。

この違法性の実質的な根拠は、証券会社の証券取引仲介受託者としての信任義務に求められ、わが国でいう誠実公正の原則(金商法36条)に求められています。

・ 米国の2-4-6ルール

過当性の判断は、証券売買の頻度や売買量と顧客の投資目的などを総合的に判断することになります。米国の裁判所では、判断基準として、回転率、手数料比率、別顧客口座との比較が取り上げられています。また、証券の保有期間も考慮要素でしょう。取引回数が多く証券の保有期間が短い方が、過当性は認定され易い関係になります。その指標として、回転率というものがあります。

回転率は、顧客の資本(投資額)が証券取引で何回転したかという意味で、「証券取引口座の回転率=1年間の買付総額÷各月末の投資残高の単純平均」という形で求められます。

米国には「2-4-6ルール」があり、「年次回転率が2回を超えると過当売買の可能性が生じ、4回を超えると過当売買であるとの推定が働き、6回を超えると過当売買であるとみなされる」と言われています。

・ 過当取引の違法性要件

過当取引として違法であると評価される要件としては、①取引の過当性、②口座支配性、③顧客の被害に対する故意が挙げられています。

③顧客の被害に対する故意は、証券取引における顧客の勘定について支配を及ぼし、顧客の信頼を濫用して、手数料稼ぎ等の自己の利益を図るために、その口座の性格に照らして金額・回数において過当な取引を実行しようとする意思と言われています。

この証券会社の主観的要素の立証は、証券会社の手数料稼ぎの目的で、取引をさせたことを立証することになりますが、手数料稼ぎにノルマを課していたり、手数料獲得について各支店間で競争させていた場合は手数料稼ぎ目的を認定し得るとされています。また、著しく高い回転率、著しく頻繁な取引等の外形的事実があれば、それ自体が証券会社の著しく不合理な行為とされ、故意が認定され得るとされています。

②口座支配性は、証券会社が顧客の口座に対し支配影響力を行使したことをいいます。米国では、a 顧客の証券投資についての知識の有無と程度(知識が浅いほど口座支配が強くなる可能性がある。)、b 投資経験の有無と程度(投資経験が浅いほど証券会社の意見に左右される。)、c 顧客が証券会社においた信任の程度(証券会社を信用すればするほど、一任取引がなされ、顧客の意見が出なくなる。)、d 証券会社の推奨取引率の程度といった考慮要素から判定すると言われています。要するに、実質的に一任取引の状況に陥っていたのかという視点だと思います。

①取引の過当性は、その証券口座での売買数ないし売買金額が投資目的から見て過当であることをいいます。売買頻度が高く、売買額も大きければ証券会社の手数料額が増えますから、証券会社が自らの利益のため、手数料稼ぎのために売買をさせたと見られやすくなります。

・ 裁判例の現状

このように、過当取引という違法性は、取引が頻繁であれば、それだけで違法とされ得るものですが、実際の裁判では、そう単純ではありません。先に示した定義からも、「口座に対し支配を及ぼし」、「その顧客の証券会社への信頼を濫用して」、「証券会社の手数料稼ぎ等の利益を図るために」、「その口座の性格に照らして金額・回数において過当」でなければならないのです。

言い換えれば、実質的一任売買の状況に陥っており(口座支配、信頼の濫用)、手数料稼ぎ目的があるといえるような取引内容、そして、投資目的等からみて著しく相応しくない取引の頻回性が要件となっているのです。

取引の頻回性、すなわち、年次回転率だけからでは評価されないのです。

デイトレードという超短期売買を敢えて行う人もいますし、パソコンやスマートフォンの普及から、的確な情報収集を個人でも、設備と時間的余裕と操作能力があれば、できなくはないという世の中になっています。ですので、取引が多いからという理由だけでは、過当取引とは評価されにくくなっていると思います。

実際、平成7年7月24日の大阪地裁判決から令和3年1月20日の名古屋地裁判決までの44件の裁判例をみると、ここ10年は過当取引の違法を認めた裁判例の数も少なく、年次回転率は10を超えるもので占められています。また、10に満たない年次回転率で過当取引が認められた事案では、二人いる原告のうちの一人(家族)が高い年次回転率になっていたりします。

 

過当取引一覧表2022.1.11

 

実質的にみて一任売買の状況に陥っていたかどうかも、評価に影響すると思います。

では、どうしたら一任売買と同視できるといえるのでしょうか。

取引の手法や相場状況から、合理性を欠いた取引をさせられていた事実をいかに指摘し、主張・立証できるかにもよると思います。


1月 30 2022

■ 証券取引被害事件で、はじめにすること

・ 訴状の大切さ

投資に関係する損害賠償請求事件に携わっていると、訴状を完成させるまでのステップがとても大切だと思います。というのも、訴状の作成は、原告が裁判所に対して問題があると訴え、これから立証しようとする命題の設定であり、被告との議論の大枠を設定するものだからです。そして、「客殺し商法」が行われてきた商品先物取引被害やその流れをくむCFD取引被害、あるいは、投資を口実とした詐欺などと比べると、証券会社を相手方とする証券取引被害の場合は、違法とまではいえない取引なのか、違法と認定されるべき取引なのかという区別や、何をポイントに違法性を主張し、裁判所を説得していくかという見立てが、より一層大切になってきます。

 

・ 客観的事実の把握

心がけていることとして、株式や投資信託、債券といった金融商品の取引を問題とする場合、そもそも取引対象の商品がどのような特性をもつものなのかを把握することから始めます。また、こうした商品性の把握をした上で、何時、何を、いくらで、買ったのか・売ったのか、配当や利金が、何時、何から、いくら入ったのか、といった取引の客観的な内容をなるべく正確に把握するようにしています。先にコラムに書いた「1円問題」のように、裁判では客観的取引の内容については、原告被告の双方に争いがないことが理想です。

取引期間が長いと、こうした客観的取引の内容を把握するだけでも相当骨が折れますが、これをしっかりやっておかないと、取引の日時が食い違ったり、当該銘柄では結果的に利益になっていて「損害がない」のに、違法性の主張立証を散々やる羽目に陥りかねません。

裁判では、違法性=相当因果関係=損害という要件が必要ですので、結果として損害がなければ損害賠償請求は成り立ちません。ですので、客観的取引内容は、面倒でもキチンと整理・把握するようにしています。

また、問題点を把握するために、個別の商品ごとに値動きの状況や、相場変動の背景にある経済動向(価格変動要因など)などを調査するようにしています。こうして、客観的事実関係をしっかり把握することで、当事者ご本人でも気付かなかった(見過ごしていた)問題点を認識することもあります。

 

・ 損害(トータル・リターン)

詐欺被害の事案では詐欺の道具として受け取らされた配当金を損害額の計算で控除しないという判例もありますが、証券会社に対する損害賠償請求では、損害は、損益通算を加味した実損害とするのが一般的だと思います。いわゆるトータル・リターンです。式で表すと、「売却代金-買付代金+(保有期間中に受け取った利金・配当・分配金の合計)-負担した売買手数料等」といったイメージです。ここで保有期間中に受け取った利金・配当・分配金を考慮しないと、利金・配当・分配金の受け取りについてだけ取引の有効を前提とするようなことですから、「違法な勧誘行為が無かったならば被らなかったであろう損害」の賠償を求めることと矛盾してしまいます。

 

・ 事情聴取

取引の客観的内容を把握しながら、被害者ご本人から何が問題と思うのか聞いていきます。それに加えて、弁護士としての経験を踏まえて問題がないのか疑問に思ったことを聞いていきます。


1月 19 2022

■ 駆け出しの頃の証券取引の裁判の話

・ 客観的取引内容把握の苦労

初めて証券会社に対する損害賠償請求の相談を受けたのは、平成17年9月のことでした。まずもって面食らったのは、顧客勘定元帳の見方でした。受渡日、約定日、銘柄名とともに、数量、単価と借方金額、貸方金額が書かれ、最後に残高が0と並んでいるものです。特定の商品を買うと借方にその額が記載され、決済に充てられるMRFが貸方に記載されるという具合です。裁判で手数料稼ぎ目的が認められるには、手数料が分からなければならないのに、手数料を表示する欄がなく、途方に暮れたものでした。

しばらくして、数量・単価を掛け合わせたものと、入庫・出庫の欄に表示される金額に差があることを知り、逆算して、手数料や税相当額を認識することを知りました。こうして取引の始めから終わりまで、ソフトに入力したり、エクセルで表を作ってみたりと、何度も取引全体の一覧表を作って、取引損益や手数料額を把握して、訴状を作りました。

・ 商品性理解の苦労

当時は取引対象の商品がどのようなものであるか、ほとんど知識がない状態でしたので、一つずつ、それがどういう商品なのか、実質的投資対象が何であるのか、どのようなリスクがあるのかといったことを、目論見書やリーフレットを見ながら勉強していきました。

・ 1円問題

訴訟を提起してすぐ、比較的経験のある先輩弁護士に一緒に代理人になってもらい、議論をしながら事件を進めました。被告側から取引の具体的な内容、損益計算が出され、当方も取引の一覧表を再度チェックしましたが、食い違いが1箇所1円ズレていることがありました。原因は、外貨建取引の為替換算の四捨五入か切り捨てかによるものでした。

・ 尋問そして和解

担当者の証人尋問と原告の本人尋問を行いました。印象深かったのは、先輩弁護士が、ランド建商品の購入1年ほど前に、ランドの暴落があったことを追及した点です。また、私の質問では、担当者は提案すればほぼ受け入れてもらえたようなことを認めていました。尋問後、裁判所から実損の5割という和解勧告があり、双方応じる形で事件は終了しました。


11月 29 2021

■ 景気サイクル

・ 現在,コロナ禍の最中にあり,テレワークの普及など、生活様式が大きく変わりつつあると感じます。パソコンを使った会議のほか、AIの応用やドローンなど新たな技術が生み出され、社会が変わりつつあると感じます。

・ こうしたイノベーションによる変化は、予見しづらいものですが、投資する期間を考えるにあたっては、一般的に言われている景気サイクルの要因と長さを知っておくと、思惑が外れた際に、どれくらいの期間塩漬けにすることになるのか、その間会社は倒産せずに存続しそうなのかといったことを考えて、下手に損を確定しなくても済みますし、買う前にも、引き受けるリスクの内容や大きさを想起して、買うか・買わないかの判断の材料とすることが出来ます。

・ 景気には,短期,中期,長期のサイクルがあると言われています。短期の景気サイクルは、企業が需要に応じた水準に在庫をコントロールしようとして生産調整することによって発生する在庫循環を要因とするもので、1年半~3年半程度の周期と言われています。中期の景気サイクルは、設備投資を要因とすると考え、10年程度の周期とみる考えや、建設需要を要因とすると考え、15年~20年程度の周期とみる考えがあり、周期の長さや要因についていろいろな考え方があります。長期の景気サイクルは、イノベーション(創造的破壊)を要因とするもので、50年程度を周期とするものと言われてきました。

・ 前々回のコラムに示した中国の株価推移(2005年1月~2015年12月)のグラフをみると、2007年10月をピークとしたバブルの崩壊後、2008年10月のリーマン・ショックの頃まで下落が続き、2009年7月末まで上昇していきました。その後は、3000ポイント~2000ポイントの間を推移し、バブル始まりの1000ポイント台から比べれば高い位置ですが、2009年7月末の3500ポイントを超えるには2015年までの6年超の時間がかかっています。


9月 29 2021

■ 中国株式バブルの制度的要因(2007年秋~2008年)

・ これまでのコラムでは、バブルの生成や崩壊に、人々の期待が関わっていること、バブルの見分け方などについて触れました。

今回は、私が事件を担当した中で知った、外国政府の政策が株価へ影響したケースについて紹介したいと思います。

それは、中国で2005年に行われた株式分置改革と呼ばれる制度改革が、2007年秋~2008年にかけての中国株式市場のバブル崩壊に大きく影響したということです。

・ 中国企業の株式は,もともと流通株と非流通株の2種類があったのですが、株式分置改革と呼ばれる政策は、非流通株主が流通株主へ「対価」を払うことで、流通権を獲得できるようにするという改革です。2005年から本格的に実施され、2006年12月末までに、対象企業の98%が実施したと言われています。

そして、この株式分置改革を経て流通権を獲得した株式は、1年間は市場売買が出来ないとされ、その後も、総株数に対する持株比率によって市場売買可能な量が規制されていました。

・ すると、どうでしょうか? 2006年12月までに大半の中国企業で非流通株から流通株への転換が行われ、1年経過した2008年からは数量規制があるとはいえ、新たに大量の株式が市場に出回ってくることになります。

市場参加者が増加して,買いたいという人が増えれば、価格は上がる筈ですが,市場参加者の増加とともに,新たに流通権を獲得した株が市場に出回るようになり、取引対象の商品も増えていく訳ですから,需給の観点からは、供給が多ければ、株価は下げていくことになります。

こうした現象が起きたことは、需要と供給で価格が決定されるという経済原理を考え,かつ、その国の法制度とその実情を知っていれば,同時代であったとしても,株価下落の予見は出来る筈です。

・ 私が担当したのは、市場に商品(非流通株から流通権を獲得し、据置期間を満了した株式)が次々と発生し、その価格破壊が起き、暴落した後でさえ、株価が「バブル絶頂期の水準まで戻る」といった、およそあり得ないシナリオを前提に、勧誘していた事案でした。

こうしたことから、外国の債券や株式を買う際には、その国の社会制度・法制度、それから実際の経済の動き、経済への影響を知っていないと、思わぬ「落とし穴」もあるということです。


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