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2016年3月

3月 24 2016

■ 期先の上昇幅が期近よりも大となる理由

・さて,平成19年~20年にかけての穀物相場は概して値上がり基調だったことは前々回までに解説しました。では,期先と期近では,どちらの値上がりの方が勢いがあったか?ヒントは,すでに当コラムに出かかっています。

・そう,先物の理論価格として紹介したように,商品の保管等にかかるコストの影響です。具体的には,平成19年当時は,OPECが減産し,原油が高騰し,ガソリンや灯油が,とても値上がりしていました。当然,米国のシカゴで取引され船積みされて日本の港に到着するまでに,ばら積み船が消費する燃料(重油)も高騰していたのです。

・船賃が高騰している最中では,東京穀物取引所で取引される穀物価格も,次のグラフのように,平成20年1月ころから期近よりも期先の方が高値になる現象がおきます。そして,同年2月にはいると,明らかに期先が著しく高くなります。

東京トウモロコシ

・ちなみに,同時期のシカゴの相場では,期先の上昇幅が期近の上昇幅より大きくなるという現象は起きていません。

CBOTトウモロコシ

・このように,原油高を背景として,期近よりも期先の値上がり幅が大きくなった相場状況では,サヤ取り(スプレッド)をするなら,「期先を買って,期近を売る」のが合理的です。ところが,2月19日のコラムの【次の次の図】のように,逆に,「期先を売って,期近を買う」ようにと勧めてくる業者がいたのです。


3月 14 2016

■ サヤ取り

・同じ商品で,売と買を同時に建てて,同時に落とすという取引手法をする場合には,どういった点を注意すべきでしょうか?

・法律家である皆さんは,きっと「両建」だ,だから違法だ,と思われるかも知れません。でも,同時建て落ちで全面禁止とされているのは,同一限月・同一数量の両建の場合に限られますよね。
「8 商品市場における取引等につき,顧客に対し,特定の上場商品構成物品等の売付け又は買付けその他これに準ずる取引とこれらの取引と対当する取引(これらの取引から生じ得る損失を減少させる取引をいう。)の数量及び期限を同一にすることを勧めること。」(商品取引所法(平成21年改正前)214条8号)

・異限月両建の場合は,「原則禁止」であり,全面的な禁止ではありません。
「9 商品市場における取引等につき,特定の上場商品構成物品等の売付け又は買付けその他これに準ずる取引等と対当する取引等(これらの取引等から生じ得る損失を減少させる取引をいう。)であってこれらの取引と数量又は期限を同一にしないものの委託を,その取引等を理解していない顧客から受けること。」(同法施行規則103条9号)
異限月両建は,「意味を理解した委託者」であれば,禁止されるとはいえないのです。

・こうした両建・両落しの取引は,古くからサヤ取り(裁定取引)の一つとして,行われている手法です。サヤ取りには,どのような種類の価格差(の伸縮)を対象とするかによって,①同一商品の異市場間サヤ取り(アービトラージ),②類似商品間のサヤ取り(ストラドル),③同一商品同一市場の異限月間サヤ取り(スプレッド),④同一商品の現物・先物市場間のサヤ取りなどがあります。
サヤ取りという手法が合理的に妥当するような相場状況であって,その建て落ちの意味を理解している人に対してまでも,違法視する必要はないから,異限月両建ては,法律上,上記のような「制限」に留められているのです。とすれば,逆に,サヤ取りの手法を採ることが合理的だといえるような相場状況にあり,かつ,その意味を委託者が理解しているということまで言えなければ,適法とはならない筈なのです。


3月 06 2016

■ たかが数%,されど数%

・米国農家の作付意向といった生産動向が農産物の供給に影響するということは,先のコラムで解説しました。今度は,需要の方を見ていきましょう。平成19年~20年当時,最も影響力が強かった需要家は,どこの国でしょうか? ・・・答えは,中国です。

・昨年8月下旬は,中国ショックがありましたが,わが国において「爆買」という言葉は2014年頃から定着しつつありました。私たちの研究対象であった平成19年(2007年)は,中国が農産物輸出国から輸入国に転じつつある時期であったかと思います。ちょうど,かつての日本が,明治維新を経て,スキヤキを食べるようになったと同じように,中国でも食生活の欧米化が浸透し,(牛)肉食が普及していったのです。人口比だけをとっても,日本の13倍ですから,影響の度合いはすごいものでしょう。日本の商社が牛肉や刺身(のもととなる鮮魚)などを中国人バイヤーにもっていかれてしまうことを取り上げたドキュメンタリー番組などを見たことがあります。中国のみならず,インドや東南アジア諸国でも,食の欧米化は浸透しつつあり,小麦や牛肉(飼料としての大豆やトウモロコシ)の需要はとても旺盛となっていたといえましょう。

・再び,供給側に目を向けると,平成19年当時,オーストラリアの2年連続の大規模な干ばつの影響が残っていました(豪州の小麦生産量は,当初見通しと比較して,2006年には約6割減,2007年には約4割減。)。また,2007年は,ウクライナで干ばつ,欧州東部で熱波,欧州北西部で大雨が発生し,穀物生産量は減少していました。オーストラリアやウクライナといった小麦生産地域で不作が続いていた状況の中では,農産物(穀物)は概して値上がりするだろうと見込まれるでしょう?

・では,平成19年当時,小麦,大豆,トウモロコシの3品を比較して,どれが一番値上がりしそうだと思いますか? バイオエタノール需要からトウモロコシの作付に乗り換える農家が増えて,干ばつの影響で品薄となった小麦を作ろうとする動きが出て,農地がほぼ一定のアメリカでは,大豆を作ろうとする農家が減り,大豆の品薄が予想されます。

・そして需要家の動向からしても,トウモロコシや大豆の需要が伸びています。値が一番上がり易いのは,大豆とトウモロコシのうち,大豆だったのです。それは,米国農務省の穀物等需給報告にある在庫量をみると納得です。
平成19年8月から平成20年2月にかけての小麦,大豆,トウモロコシの統計をみると,次のとおり,大豆の期末在庫量は,前年度比で,▲20.0%,▲20.2%,▲19.4%,▲20.5%,▲22.6%,▲24.9%,▲25.7%と,マイナスが20%を上回る水準で推移しています。

在庫量推移

・たかが20%と思われるかも知れませんが,実は,とても逼迫した状態だといえるのです。スケール感を出すために,たとえるなら,100%でぎりぎり100日分のご飯が作れる量を表すとすると,この▲20%というのは,80日分のご飯しか作れないのです。健康を維持するにぎりぎりの量という前提で80日分しかないのですから,不足する20日で健康を害することになります。
わが国の主食はコメなので,コメの作況指数のスケールを紹介しましょう。これは,10a(アール)当たりの平年収量(平年値)を100とした場合の当該年度産の収量を表す指数です。指数の意味は,106以上が良,102~105がやや良,99~101は平年並み,95~98でやや不良,94~91は不良,90以下は著しい不良と区分されています。ここで平年並みとされる範囲はわずか3%しかありません。これで▲20%という前年比在庫率がいかにインパクトのあるものなのか,おわかりいただけたでしょうか?
コメの不作で平成のはじめ頃,政府がタイ米を緊急輸入したことやタイ米がパサパサだったことを覚えている人もいるでしょう。食糧はわずかな減産が直ちに価格にひびくのです。
上記表のように,小麦やトウモロコシはそれほどでもないのに,大豆の逼迫は著しい。当然,小麦やトウモロコシの値上がりよりも,大豆の値上がりの方が強烈になります。しかも,その兆しは,グラフを見るとはっきり理解できるように,平成19年夏ころから現れています。この兆候は,専門的な知識のある当業者なら分かるでしょう。

・前々回のコラムで,【次の図】として,大豆を売らせた背信的な勧誘と指摘した意味がおわかりにいただけるかと思います。


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