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2016年4月

4月 14 2016

■ つねに,もう一歩前へ

・本コラムは,ここまで,昨年11月に報告させていただきました「専門的な知識と適切な情報の立証による新しい違法性 〔最判(平成21年)後の主張・立証〕― 最前線の更に先へ:商品先物取引の専門的な知識により裁判官を説得する方法 ―」の内容と,その続編を少し,初心者の弁護士さんを念頭に,そのエッセンスを分かり易くお伝えしようと心掛けたつもりで,掲載してまいりました。最後までお読みいただきまして,ありがとうございました。

・さて,これで,一つのまとまった話題を終えましたので,今後は,日ごろ取り組んでいる事件分野に関連して,お役に立ちそうな話題を提供していければと思います。


4月 14 2016

■ 管理部のお役目は?

・各社ごとに詳細は多少異なるのでしょうが,商品先物取引業者には,きまって営業を担当する部署と,営業部署の行き過ぎがないかチェックする部署があります。先物取引業者には,口座開設時や投資可能資金額の増額の際に,顧客の資力・資金の適格性(適合性)を審査する管理部と,一般的な会社にもあるようなコンプライアンス体制を作って守らせてゆく部署があります。

・管理部が,適合性審査を形骸化させていて,営業の違法勧誘を助長していたような場合には,管理部担当の従業員であっても,適合性原則違反を認めた判決として名古屋地方裁判所平成24年5月31日判決があります。
同判決は,いわく,「被告Tの上記調査は,①Aが申告した流動資産に客観的な裏付けがあるか否かを調査することなく,面談時の主観に頼った判断をするにとどまっていた点,②AがN商品との取引により被っていた損失の規模(本件取引開始当時,既に約1656万円)とAの自己資金との関係を吟味しなかった点において,不十分であったといわざるを得ない。」「被告Tは,本件取引開始当時,被告会社の管理部の責任者であったところ,Aと直接に面談して資産の調査を実際に行った者であり,本件委員会の審査も被告Tの調査結果を踏まえて行われていたことは前記認定のとおりである。このように,被告Tは,Aに対して取引の勧誘と受託を行った者ではないものの,本件取引の継続につき直接の影響を与えた者であり,その判断に基づいて本件取引が継続されたと評価し得ることからすると,被告Tについても,適合性原則違反にかかる不法行為責任が生じるものというべきである」と,管理部の責任者に対し,取引の継続について直接の影響を与えたことを根拠に,適合性原則違反の責任を認定しています。

・また,商品先物取引業者の社内規則には,管理部の職務,権限として,顧客の適合性審査に留まらず,営業の法令,諸規則の遵守の指導,監督や,顧客の取引内容の分析,取引内容に異常な兆候が認められた場合に適切な措置をとることなどがうたわれています。このように商品先物業者の管理部には,顧客の取引内容や資金力などを観察し,営業の行き過ぎを防止する役割が期待されているのだといえます。

・このコラムでも紹介しました,力強く値上がりしている相場状況が長らく続いているのに,売を放置して,売を決済するまでの間に,利益の少ない建て落ちを短期間に繰り返し行わせる営業を放置した管理部は,明らかな因果玉の放置と頻回売買をチェックすべき立場にいながら,それをしなかったのですから,職務懈怠といえるでしょう?


4月 08 2016

■ 管理部・・・かつての名を「特別班」

・今回は,適合性原則等の遵守を履行させるために,商品先物業者の内部に設置されている「管理部」の歴史をたどってみましょう。

・昭和30年代半ばころ,主婦や高齢者を狙った訪問勧誘で,商品先物取引という仕組みを悪用してお金を取って行ってしまう被害が九州でおこり,その後,こうした営業手法が全国的に広がりました。先物取引をしたが故に全財産を失い多額の借金まで負わされて,自殺に追い込まれてしまう被害者も少なくありませんでした。

特別担当班と呼ばれていた,いわゆる管理部は,昭和53年に,主務省の指導で各社に必ず設置されるようになりました。業者団体である全国商品取引員協会は,新規取引不適格者参入防止協定,新規委託者保護管理協定,新規委託者管理改善特別措置基準といった協定を結び,各社は新規委託者保護管理規則という社内規則を設けるようになりました。監督的な立場にあった全国商品取引所連合会は,各社向けに,「受託業務指導基準」を定め,その中で,特別担当班の職務と統括責任者の職務がうたわれています。

・この受託業務指導基準には,特別班の職務として,①受託に先立ってあらかじめ委託者の適格性等を精査確認すること,③毎月1回以上売買内容を精査し,その結果に基づき必要な事項は担当外務員に対し,指導又は指示を行うとともに,その内容を記録整理すること,④上記に係る記録については,責任者が点検し,所見等を記入し,その写しを統括責任者に送付することが挙げられていました。

・そして,受託業務指導基準は,(注解)として,①に関しては,「c 高令者,女性,常時連絡のできない者及び経済的な知識又は理解力に乏しい者等については,安易に認定することのないよう,その適格性を十分精査すること。」と,わざわざ「経済的な知識」や「理解力」が乏しい人を安易に認定してはならないと述べています。
ここでは,商品先物取引が,流通や生産に関する特定の分野に携わる当業者といった業界内部者(専門家)として,勧誘の相手方が,業界内部者と同じように「経済的な知識」を十分に備えているかどうか審査をしなさいというものですから,本来の意味からすれば,とても厳しい基準だといえるでしょう。

・受託業務指導基準の③に関する(注解)では,「精査の内容は,所定の項目のほか,常時両建の有無,利益金の支払い状況,売買の頻度等について留意すること。」と書かれています。常に両建になっている取引があるかどうかという観点は,片建であったときに抱えた評価損を固定するだけの意味しかなく,顧客がそのことを分かってやっているのか,あるいは,このコラムでも紹介しましたが,限月間の価格差に着眼したスプレッド取引や,類似商品間の価格差に着眼したサヤ取り取引があれば,経済的な知識に裏付けられた理解を伴って行われているか否かなどに重点を置いて,月に1度は確認精査しなさいということなのです。
また,利益金の支払い状況や売買の頻度について重点を置いて確認精査しなさいということは,外務員が顧客の利殖をちゃんと優先しているかをチェックするためです。というのも,顧客が取引益を積み重ねても,業者が自己の収入を優先して,顧客の取引益金を証拠金として預り続けて取引を拡大するように仕向けたり(利乗せ),証拠金として預り続けて取引を繰り返し行わせれば(証拠金はいずれ)手数料に転化するのですから,顧客の利殖よりも業者の収入が優先されて,顧客は単なる資金提供者でしかなくなってしまうのです。

・このように現在置かれている管理部の前身である特別班では,顧客の取引状況をチェックして,建前としては,顧客をないがしろにして,外務員が自分の営業成績を上げようとしたり,会社(商品先物取引業者)の収入を優先しようとしたことが疑われる場合には,外務員を指導・指示して是正すること(とその記録化)が職責とされていたのです。


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