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2016年2月

2月 26 2016

■ 小麦ととうもろこしと大豆の価格の関係は?

・タイトルに掲げた農産物は,いずれも国際商品であり,相場の指標を形成しているのは,米国のシカゴ商品取引所(Chicago Board of Trade)です。そこでは,主に米国産の穀物が取引されています。

・小麦やとうもろこし,大豆の産地は,米国の中西部に広がる穀倉地帯であり,農地の開発は終わってますから,一定の農地面積を,競合する作物で配分していると考えてもよいでしょう。そして,農地を何の作付に割り当てるかは,年によって変動があります。

・農家が今年は何を作付けしようかと考えるとき,儲けが気になりますよね?
今では,米国シェールガス開発の進展後の過剰供給や,サウジアラビアの財政難を背景とした原油産出量の維持,イランの制裁解除による原油輸出量の増加など,原油価格が低迷していますので,想像し難いことかも知れませんが,平成19年当時は,原油価格は高騰し,シェールガス開発も進展しておらず,むしろ環境保護の観点から,米国は,バイオエタノールの使用量を法律で数値目標を定めようとしていた時期でもありました。
そのような社会情勢の中,例えば,バイオエタノール需要が伸びて,高値でとうもろこしが売れると思えば,とうもろこし農家が増えます。すると,大豆や小麦を作付けする農家が減り,その年の大豆や小麦の生産が減少します。商品が少なくなれば,高い値段であっても買いたいという人が出てきますので,大豆や小麦の値段も上がります。逆に,とうもろこしが生産過剰で安くしか売れなくなってくれば,小麦や大豆を作ろうという農家の動きにつながります。

・要は,農家にとって強い動機がある作物が作付面積を拡大し,そのほかの作物は追いやられる。そのため,不作・豊作を無視しても,追いやられた作物は数が少なくなるから値上がりする傾向がある,ということがいえます。

・こうした需給バランス,とくに在庫量が,CBOTでの先物価格形成に影響を及ぼしています。なお,米国農務省は穀物等需給報告を毎月発表していますし,わが国の農林水産省も,毎月,米国農務省の穀物等需給報告に解説を加えて公表しています。N本経済新聞でも,米国穀物需給報告は毎月10日前後に掲載されています。


2月 19 2016

■ 壮大な背信行為の主張・立証

・当コラムは,今回からしばらくの間,業者による,農産物の価格形成要因を逆手にとった,背信的な推奨・勧誘がなされた商品先物被害事案を題材に,私たちの研究成果を分かり易く解説していく予定です。

・これからこのコラムに数回に分けて解説していく予定の研究成果は,N刊工業新聞,N本経済新聞などの記事を,事件に携わった複数の弁護士が,手分けして,小まめに読み,事件の当時の政治・経済状況がどのようなものであったかを把握・理解して,そして,権威のありそうな論文を探し当てて,主張・立証しています。ですので,商品先物取引の被害事件や証券取引の被害事件に,被害者側代理人弁護士として携わられる際には,地道な作業も厭わずにやるという粘り腰も必要な資質だと心得ておくべきでありましょう。

・さて,問題とした業者の違法勧誘は,現象面でいうと,どのようなものであったか?
一つは,【次の図】のように,業者は,平成19年秋に東穀の大豆(N大豆,一般大豆)の売を建てさせて,放置し(全玉決済するまでの間に順次損切り決済をしながら,別に建て落ちを繰り返えさせる)ほぼ確実に大きな損失を被らせることができた点。
もう一つは,【次の次の図】のように,売と買を同時に建てて,同時に落とすという取引手法で,ほぼ確実に委託者に損失を被らせることができた点,の2点にあります。

・上記主張・立証の結論は,予備知識がないと,直ちには理解が難しいと思いますので,次回以降は,分かり易く,農産物の価格形成要因と平成19年~20年初頭にかけての経済情勢を踏まえた「カラクリ」を順次解説していきますので,ご安心下さい。

【次の図】

大豆相場の逆

【次の次の図】

トウモロコシ相場グラフ(スプレッド悪用)


2月 14 2016

■ 大陸移動説(海外経由の隠された向かい玉)

・ヴェーゲナーさんという人は,1912年に,平たく言えば,世界地図をつなぎ合わせると形が一致することや,海を越えて渡ることができない生物の化石の離れた分布などから,昔は大陸がつながっていたという,大陸移動説を公表しましたが,長く受け入れられませんでした。今回のコラム・タイトルは,この「形が似ている」という着眼点と分析にあやかっています。

・売り買いの差額で利益を得ようとすると,安いときに買って高くなったら売る(転売する)という方法が,日常生活で行う買い物の延長で,まず思い浮かびますよね。同じように,商品先物取引の世界でも,個人を勧誘して受託する商品取引員(専業型商品取引員)では普通,買の取組高の方が売の取組高より数倍多くなります。

・リーマン・ショックが発生した9月15日を含む,平成20年6月~10月の期間について,1限月300枚以上の取組高がある業者という条件で抽出すると76社あり,さらに,買取組高が売取組高より多い業者という条件で絞り込むと32社で,この32社は,専業型商品取引員だと推測がつきます。
自社の顧客に向かう反対ポジションである売取組高を持てば,リーマン・ショックで値が下がった際に,損失を確定していく委託者の損を自社の益として取り込むことになります。しかし,あからさまな向かい玉は,行政処分の対象とされ,また,民事裁判でも違法とされる判決が出ていましたので,実質的に自己の売取組高であっても,他業者の取組高とみえるように工夫する必要があります。そこで,別の商品取引員に,取り次ぎをしてもらうことが考えられます。

・1限月300枚以上の取組高のある76社のうち,買の取組高はほとんど無く,明らかに売の取組高が多い業者は7社あり,商社を除くと,投資銀行2社であることまで分かりました。この2社の取組の中に,向かい玉が隠されていると考えられます。そして,向かい玉であるならば,委託玉が損を確定して仕切られると同時に,向かい玉は益を確定させて仕切られる,といえます。

・買の取組高が多い32社の取組高と,売の取組高に偏っている7社(うち5社は商社)の時点ごとの取組高は,次のグラフのとおりです。

大陸移動説グラフ②(買の損の転化)

・平成20年7月から10月末までの約4か月間に,リーマン・ショックの影響で,金の価格は(上下はありますが)大きく下落しました(1000円,約3分の1)。
上のグラフで赤線で示された買の取組高の多い32社の買取組高は,約16万枚(7月1日)から約6万枚(10月31日)まで,4か月間で約10万枚減少しました。これに対し,上のグラフで水色で示された買の取組高の多い32社の売取組高は,4万枚前後で横ばいに推移しています。
この違いは,値下がりの状況ですから,売建玉は評価益を抱えて追加の証拠金は要らず仕切る必要がないのに対し,買建玉は評価損を抱えて,一般の委託者が,追加資金を入金できなくなり取引を仕切っていったからだと考えられます。

・注目すべきは,上のグラフで青線で示された売の取組高に偏っている7社の売取組高が,同じ期間に約10万枚から約2万枚まで8万枚の減少を見せており,しかも,買の取組高の多い32社の買取組高の減少とほぼ歩調を合わせていることです。
値下がりの状況では,売建玉は,評価益をどんどん積み上げてゆくだけですので,利食いしても再度建てるなどして,仕切っても,売ポジション自体を減らしてしまう必要はない筈です。それでも,こうした高い相関が生じているのは,売の取組高に偏っている7社の売取組高が,経済合理性に反する別の動機に強い影響を受けていることを意味しています。
このように,①買が多い業者の買取組高の減少と,③売が多い業者の売取組高の減少とが,よく似た形であって,相関(相似)性が高いことから,売が多い業者の売取組高の中に買が多い業者が隠そうとした向かい玉が含まれていると考えられます。
暴力団対策法の制定と同時に,暴力団員は外見からは普通の人と区別できなくなりました。服装などを目立たなくしたのです。これと同じように,向かい玉は,最高裁判決(H21.7.16)と同時に上手に隠されるようになったのです。向かい玉もなくなった訳ではないと思います。


2月 04 2016

■ プロップって?

・商品先物取引への取引参加者は,かつては主婦や高齢者を狙った訪問販売により,個人の委託者が大半を占めていました。自殺に追い込まれるなど余りに悲惨な消費者被害を多発させていたため,規制強化が叫ばれ,平成16年の商品取引所法の改正で勧誘に規制がかけられるようになり,平成21年の法改正によって不招請勧誘が禁止されました。

・国内公設市場の商品先物取引の出来高は,平成15年度の1億5500万枚をピークに,大きく減少してきました。規制強化の流れの中で,許可がおりない業者は廃業し,職を失った外務員らは,顧客との相対取引で行うFX取引業者や(商品やCO2排出権など時代の注目を集めたモノを取引対象に掲げた)CFD取引業者,未公開株の販売業者などに流れていったと目されています。

・平成17年当時,TOCOMにおける取引シェアは,対面営業にかかる個人委託者と,業者の自己取引で75%くらい,商社の取引が20%くらいを占めていました。
では最近の先物取引の参加者はどうなっているのでしょうか? 5年ほど前から,ネット取引中心の業態の会社や,国内プロップ・ハウスが台頭してきました。ここで「プロップ」とも呼ばれるプロップ・ハウスとは,自己資金で運用する投資会社(運用業者)のことをいいます。平成26年時点では,海外プロップ・ハウスや海外業者(海外ファンドや当業者)の取引が増えて,シェア約50%を占めるに至っています。

・先物業者の自己取引は,規制強化により大きく減りましたが,一部では自己取引部門を別会社化するなどして行われていると言われています。また,商社のディーリングも,海外プロップ・ハウスとの競合や,コンプライアンスの強化などにより減り,商社の現物ヘッジ取引も,リスクの引受け手(≒損失を被る人)であった個人委託者の取引が減った結果,大きく減ったと言われています。国内プロップ・ハウスも海外プロップ・ハウスとの競合で,いまではほとんどいなくなったようです。
委託注文の内訳をみると,海外取引やネット取引が拡大したことにより,その点に強みがある外資系証券会社やネット証券会社のシェアが大きく拡大しました。例えば,TOCOMのホームページをみると,2016年01月08日の売買高上位10社の中には,N産センチュリー証券,ニューエッジ・J証券,F証券,R天証券といった「証券会社」が上位を占めています。平成17年度では,2%程度に過ぎなかったプロップ・ハウス(当時は国内プロップ・ハウス中心)のマーケット・シェアは,現在では,約30%に上昇した。海外取引高における海外プロップ・ハウスのシェアも,60%から80%で推移しています。

・では,取引方法はどう変わったのでしょうか? 個人や当業者などは,自分の相場観やヘッジ目的や投資方針に基づいて取引を行いますが,こうした取引は,他の限月や他の市場との価格差(乖離)をもたらす傾向があります。こうした個人や当業者の取引から生まれる限月間,市場間の価格差(乖離)を利用した裁定取引を中心に行うのが,商品先物取引業者の自己取引,商社のディーリング,国内・海外のプロップ・ハウスなどで,予め自動売買のプログラムを組んだシステム取引で,(超)高速取引とか高頻度取引(HFT)とも呼ばれる,アルゴリズム取引とよばれるものの一種です。


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