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2016年1月

1月 27 2016

■ 業者と取引所との間の清算方法が意味するところ

・さて,差玉向かいを行って取組高を均衡させていると業者が,自社顧客の取引損失を利益として取り込むことができるか,それを狙って相場動向に反する推奨をするのかを理解するためには,ゼロサム取引であることとともに,取引所との清算方法を理解する必要があります。

・業者は,毎日,取引所との間で,その日に行われた取引で発生した損益を清算しています。その清算方法は,前日の帳入値段と当日の帳入値段との差額である帳入差金によって計算します。ここでいう帳入値段とは,委託者の値洗い計算の基となる値段で,普通は,大引値が帳入値とされます。

・具体的な帳入差金による清算の方法は,当日に建て落ちがあった玉については、約定値段と帳入値段との差分の損益を,当日,ポジションを持ち越しただけの玉については,前日の帳入値段と当日の帳入値段との差分の損益を,それぞれの枚数分計上する,というものです。

・具体例でみてみましょう。ある委託者Aさんが,1日目に100円で買建しましたが,終値(帳入値段)が110円でその日の取引が終わりました。このとき,Aさん分として,業者が取引所との間で清算するべき額は,次の図のように,「(帳入値段-約定値段)×枚数」であり,+10円×枚数の受け取りが生じることになります。
翌日Aさんは,ポジションを持ったままでした。帳入値段はさらに20円上がって130円となりました。この日のAさんに関する分の業者と取引所との清算は,「(当日帳入値段-前日帳入値段)×枚数」であり,(130-110)×枚数の受け取りが生じることになります。

買一枚の清算

・こうした建落のときと,保有中のときの清算の計算を,全銘柄,全限月,委託玉と自己玉とを問わず行って,業者は取引所との間で,その差額の清算を毎日行っているのです。約定差金は当日の建値との差で発生しますが,帳入差金は,建てたか落としたかに関係なく,値動きだけで計算されます。大まかにみれば,翌日に持ち越した未決済残玉(未決済ポジション)の数量と終値の日々の変化で,業者が取引所との間で行う清算の支払・受取をつかむことができます。また,売と買の違いによって,清算のプラス・マイナスが違ってきますので,売と買の未決済残玉の数が同数に近ければ近いほど,業者は,預かった証拠金等はそのまま保管を継続し,取引所との清算という形で流出させないで済みます。委託者の損を自己の益に取り込むほかに,売買を繰り返せばいずれ手数料として収受するべき預かり金をほかへ逃さないようにするという,差玉向かいを行う動機付けがあるのです。
・こうした業者と取引所で行う清算のイメージを,図にすると,次のように考えることができます。

業者の収益の最大化と従業員

・自社の顧客と自己の合計した売と買の取組高を均衡させることによって,預かり証拠金が取引所を介して,他人の利益として持って行かれなくなる,ということがお分かりいただけましたか? こうした状況を作っておけば,預かり証拠金は,取引を繰り返すうちに,手数料に転化して細り,無くなってしまいます。

・ゼロサムの差金決済取引においては,業者としての毎日の売と買のポジションの清算金額が小さければ小さいほど,たとえ向かい玉をしていなくても,預かり証拠金は,取引所との清算を介した他人への流出は小さくなり,顧客が取引を繰り返すうちに,手数料収入に転化して無くなります。 こうした業者と取引所との間の清算を分析することは,商品先物取引に限らず,分別保管が義務づけられ信託銀行などに預かり証拠金の管理をさせているFX取引業者やCFD取引業者においても,毎日の清算の計算方法は違いますが,手数料へ転化する過程の原理は同じですので,発想を応用することができます。


1月 18 2016

■ 差玉向かいという業者の取引方法を知っていますか?

・今回からは,価格形成の観点から離れて,顧客に取引の推奨を行う業者(商品取引員)が,平成21年の最高裁判決まで,どのようにして,顧客の損失を利益として吸い上げていたかを解説していきます。

・商品取引員は,自己取引部門を持っています。もし業者が,顧客に対しては相場に反する取引を推奨して,業者自身は,その反対側に回れば(売買の反対当事者となれば),顧客の損した分を取引上の利益として得ることができます。ここでは,顧客の取引の直接の相手方となることを,(完全な)向かい玉とでも呼ぶことにしましょう。(完全な)向かい玉は,顧客は,意図的に,取引損をさせられ,取引益名目でお金が業者に移転するよう仕組まれているから明らかな詐欺です。

・では,顧客の直接の取引の相手方にさえならなければ,業者は,詐欺あるいは民事上の不法行為責任を問われないのでしょうか?……答えはン,ノーです。

・「相場の動向に反する取引」という点を,1日ごとの終値の騰落(前日比での上昇・横ばい・下落)というレベルで抽象化して考えてみます。また,業者にとっては,特定の顧客を狙い撃ちする理由はありませんから,その業者に委託している顧客全員として考えてみます。1日の取引が終了した時点で,その業者に取り次ぎを委託している顧客の取っているポジション(委託売取組高,委託買取組高)と,その業者が取っているポジション(自己売取組高,自己買取組高)と,それぞれの合計をみてみましょう。

・委託売取組高と自己売取組高の合計(次のグラフで「売総取組高」)と,委託買取組高と自己買取組高の合計(次のグラフで「買総取組高」)とがほぼ一致している場合のことを差玉向かい玉(さぎょく むかいぎょく)と言います。

取組高推移(向かい玉典型)

・終値の推移(騰落)の分析ですが,多少の違いはあっても,数日~1週間くらいの相場動向に関する顧客と業者の損益を大まかに掴むことができます。先物取引はゼロサムの仕組ですから,業者が自己の注文で益を得ようとすると,他の誰かが損しなければなりません。そして,ある業者の売総取組高(委託売+自己売)と買総取組高(委託買+自己買)とがほぼ一致していれば,その業者は,取引所(もしくは清算機構・クリアリングハウス)との清算をほぼしなくて済み,預かり証拠金から自社顧客の取引損失分を差し引いて,それをほぼ自社の取引利益として得ることができるのです。これが,ポジションの存続中(未決済残玉:ミケッサイ ザンギョク)の損益の発生状況の分析から言えることです。

・こうした差玉向かいは,マルキ商事事件や同和商品事件では,他の要素と相まって詐欺罪が成立するとされていますし,平成21年最高裁判決でも違法とされています。


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