3月 22 2022
■ 無意味な反復売買・乗換売買
・ 年次回転率の少なさを補強する勧誘の悪性
もう一つ、適合性原則違反、説明義務違反を認めるほかに「乗換売買」について言及した判決を紹介します。大阪高裁平成25年2月22日判決(判例時報2197号29頁、金融法務事情2004号149頁)です。
かつての商品先物取引業者の「客殺し商法」は、顧客から預かった証拠金を、差玉向かいといった手口を使い、取引所との間の日々の清算という形で流出することを防ぎつつ、取引を頻繁に行わせ手数料に転化させていくというものでした。
なお、現在では、カバー取引先との清算を極小化して預り証拠金が流出するのを防ぎつつ、相場観に従わない業者都合の取引に誘導することによって顧客の損を業者の収益として取り込んでいく「客殺し」を行うCFD取引業者もあります。
こうした商品先物取引の被害救済訴訟では、「転がし、無意味な反復売買(いわゆる特定売買)」という違法性の立て方はメジャーでした。これは、無定見に勧誘・推奨し、取引を重ねさせる点が「手数料稼ぎ」に結びついており違法と評価されるというものです。
かつて、商品先物取引に関しては、主務省がチェックシステム、MMT(ミニマムモニタリング)といって特定売買の割合、回転率、手数料化率を数値で示したと報道されたことがあり、裁判でも、取引の客観的状況を違法性判断で考慮する流れがあります。
証券取引の被害救済訴訟では、その「無定見」、つまり相場状況などに鑑み「合理性のない勧誘・推奨」という側面に焦点をあてて、業者の悪性を指摘するものといえます。売買回転率がある程度低くても、勧誘に合理的根拠がない、すなわち、必要性のない取引をさせたという評価をもって、個々の取引を一体のものとして違法と評価するものです。
・ 大阪高裁平成25年2月22日判決
判決の事案の控訴人は、後見開始決定取消審判から2か月も経たない1人暮らしの女性(取引当時76歳)です。判決の認定によると、不動産は持っていたものの、預貯金は1000万円程度、年金と不動産収入を合わせて年収294万円程度で、取引開始時に売却した株式も、必ずしも余裕資金とは評価できないとされ、株を売った代金約1400万円のほぼ全額が投資資金に充てられ、しかも、リスク分散が全く考慮されていないとされています。
・ 適合性原則違反
判決は、控訴人の判断能力は未だ回復途上で、日常生活を自力あるいは介助を受けて何とかこなすことで精一杯の状況で、主体的な判断で証券取引等を行うことが不可能な状態であったとしました。このような控訴人にとって、RC3以上の基準価額の変動が大きい投資信託、ランド建債、EBといった商品は、その内容の理解が困難であるとし、控訴人は、慎重な投資意向であったと認め、本件問題取引は、従前の取引とは質的・量的に大きく異なっていることを指摘して、適合性原則違反を認めました。
・ 説明義務違反・助言義務違反
判決は、担当者の勧誘によって、相当リスクを有する投資信託やEB債等を買い付け、しかも比較的短期間の保有日数で投資信託の乗換売買が繰り返されるなど、相当に積極的な投資判断に基づく取引が行われている。担当者は、控訴人に対し、新たに取引の対象とする商品の内容、仕組み、投資方針、リスクの質と程度についてはもちろん、乗換売買を行うに当たっては、売却する各商品の状況及び通算の損益状況、手数料等の顧客が負担する内容等、乗換売買を行うことのメリット並びにデメリット及びリスクについても、控訴人の属性等を踏まえ、控訴人の取引意向に沿うべく十分に説明して理解させる義務があったとしました。そして、結論として説明義務違反を認めました。
・ 合理性のない反復売買・乗換売買
(1)判決は、商品Bは、商品相場に連動するような複雑な投資信託であり、控訴人の投資判断能力からして不適合な商品であるとし、毎月分配型の商品Aは、控訴人が購入した平成20年1月以降も毎月80円~100円の分配金が発生していたため、評価価額は下がっているものの、分配金を加味した運用ではほとんど損失が出ていない状況であったが、担当者は、その内容を説明せずに商品Aから商品Bへ乗換えを勧めたと認定し、合理的な乗換えとはいえないとしました。
(2)判決は、商品Aの運用が失敗したわけではないし、控訴人は、商品Aを購入する時点で株式投資に対して消極的な考えを持ち、株式を全て売却してその売却代金で商品Aを購入したこと、控訴人は、当初、分配金の取得できる投資信託を希望していたのに、商品Cは、分配金がなく、株式を投資対象とするものであったことから、商品Aから商品Cへの乗換えは、控訴人の希望した取引とは考え難く、合理的な乗換えとはいえないとしました。
(3)判決は、ランド建の商品Dを売却し、商品Aに乗り換えた点について、商品Aは、新興国の通貨建ての債券に投資する投資信託であり、投資対象には南アフリカランドも含まれていること、当時、リーマン・ショックの影響で、新興国の通貨は軒並み不安定な状況になっていたことから、上記乗換えは、合理的な乗換えとはいえないとしました。
(4)判決は、商品Bからオーストラリアや香港などの株式に投資する投資信託である商品Eへの乗換えについて、商品Bをあと1週間保有していれば3万4000円の配当を受けることができたこと、当時商品Eの基準価額はあまり動いていなかったし、商品Bの評価損にも大きな変化は認められなかったこと、商品Eが控訴人が消極的であった株式を投資対象としており、リーマン・ショック後の為替相場が不安定な時期で、新興国の為替リスクも負担することになることから、上記乗換えは、合理的な乗換えとはいえないとしました。
(5)判決は、商品Fと商品GからのEB債への乗換えについて、担当者は、一旦は、値上がり益を追求するような商品を控訴人に勧誘していたにもかかわらず、EB債については高い利回りを目的として提案しており、勧誘方針に一貫性が認められないこと、そもそも商品Fを勧誘したのは、先進国の債券が投資対象となっており、低い利回りであっても、信用性を重視していたはずであるのに、今度は、利回りの低さを理由に売却するというのであり、勧誘方針が矛盾していること、為替リスクを回避する目的であれば、より大きな資金を投入している商品Eの保有の継続の有無を優先的に検討されるべきであるのに、これを検討対象としていないことから、上記乗換えは、合理的な乗換えとはいえないとしました。
(6)そして、判決は、取引が平成20年1月10日から平成21年4月15日までの間の約1年3か月間の比較的短期間の取引で、取引回数は29回(17回の買付と12回の売付)、総買付金額は4000万円を超え、回転率(=年間投資額/平均月末投資残高)は2.16(1年間に投資資金の2.16倍の買付を行うこと)、手数料率13.2%(全損失に占める手数料の割合)であり、投資信託等の保有日数は、最も長いものでも365日、最も短いものが68日で、6、7か月程度しか保有されていない商品が多いと指摘しました。その上で、投資信託の取引は、基本的には、長期保有がされることを前提としており、比較的短期間の保有日数は、控訴人の知識・経験、投資目的、資金の量に照らして適合的とはいえないと評価しました。また、合理性のない、投資信託等の反復売買、乗換売買を繰り返し、その結果、1度を除き、全て控訴人が損失を被っている上、手数料率が比較的高率であることを考え併せて、担当者は、控訴人の利益を犠牲にして、自己の業績を上げ、あるいは被控訴人の利益を図ったものと推認するのが相当である、として不法行為の成立を認めました。
・ 注意点(射程)
紹介した大阪高裁平成25年2月22日判決は、(1)~(5)の認定をして、合理性のない反復・乗換売買について違法だとしました。ですが、事案の控訴人は、後見開始決定が取消されて2か月も経たない高齢女性であったという事情を踏まえた判断です。




