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3月 02 2017

■ “ロールオーバー”って知っていますか?(オプション取引の判例(裁判:その2の続々編))

前回コラムに引き続いて京都地裁平成11年9月13日判決を取り上げます。その準備として,今日は,ロールオーバーという用語について触れたいと思います。 

・ロールオーバー=乗り換え

先物取引やオプション取引で,保有している建玉(たてぎょく=ポジション)を,いったん決済し,次の限月以降のポジションを作ることをロールオーバーと言います。

当限(とうぎり)の最終取引日である納会日(のうかいび)やSQ(Special Quotation)算出日の前日までに決済しないでいると,保有しているポジションは,現物の受渡やSQによる清算によって消滅してしまいます。ポジションを維持しようとするなら,当限の取引最終日までに次の限月以降の期先のポジションに乗り換えなくてはなりません。このように,投資家側の取引の手仕舞いと新規建玉という行動により,期先ポジションに乗り換えるという意味でロールオーバーという言葉が使われることがあります。

・ロールオーバー=決済期限の繰り延べ

また,外国為替証拠金取引(FX証拠金取引)や株価指数を原資産としたCFD取引において,限月(取引期限)がない代わりに,毎日,自動的に,そのポジションから発生する評価損益や配当・金利などの清算を,クリアリング・ハウス(清算機関)との間で行われて,投資家のポジションが翌日の取引開始時に繰り越されることを指して,ロールオーバーという言葉が使われることがあります。ここでは投資家側の行動という意味合いは薄く,自動的になされるポジションの持ち越し,決済期限の繰り延べという意味合いが強いといえます。

次回は,こうした前提知識を踏まえ,判決についてコメントします。


2月 26 2017

■ オプション取引は素人がやるものじゃない!(オプション取引の判例(裁判:その2の続編))

・オプション取引の判断は難しい

当コラムでも「オプション代金の決まり方」「オプション代金の決まり方(その2)」で指摘したように,オプションのプレミアムの変動特性は,現物の資産の価格変化とは異なり,特殊です。ストラドルの買いのところで説明しましたが,時間的価値の減価などを考慮して手を打つというのが,オプション取引の世界では,ふつうのことなのです。オプション取引は,その特殊な損益を理解できる機関投資家が主な参加者なのです。

 

前回このコラムでご紹介した京都地裁平成11年9月13日判決も,「オプション取引を理解するためには,プレミアムの形成要因を把握する必要がある。プレミアムは,本質的価値(市場価格と権利行使価格との差)と時間価値との合成である。時間価値は,満期までの原証券価格の変動性の大きさ(ボラティリティ),満期までの残存期間,短期金利,配当率等が要素となっている。」と指摘しています。

しかし,こうした専門用語の持つ意味を理解して,頭の中で,損益曲線をイメージして,その変化を次々と描いていくことができるかというと,かなりの知識と経験を積まなくてはならないでしょう。多少の説明を受けたからといって,素人がすべき取引とは言い難いのです。

 

オプション取引は素人がやるものではない!

この点,京都地裁平成11年9月13日判決も,「長い投資経験と深い知識を有する者でない限り,多くの個人投資家には適合しないというべきである。」と述べています。要するに,分からないまま,素人が手を出すものではない,と。少し長くなりますが,判決文から該当する箇所を引用します。

「(1)投資判断の困難性

オプション取引は,その仕組みが難解である。『売る権利』『買う権利』の売買という概念自体の理解が容易でない。使われている用語も聞き慣れない。対象となる商品が『株価指数』という抽象的なものであり,その値動きの分析には高度の専門性と情報力を要する。また,プレミアムの形成要因の理解,その変動の予測も真に困難である。オプション取引市場の投資主体は,証券会社,機関投資家及び海外投資家が大部分を占めており,日経平均株価オプション取引の平成8年における国内の個人投資家が占める割合は,コールの取引において約8.5パーセント,プットの取引において約6.6パーセントにすぎない。オプション取引をする個人投資家は,豊富な情報を基に株価指数やボラティリティを統計的に予測しながら取引を行っている機関投資家らと取引を行わなければならないのである。

(2)満期日の存在

オプション取引には満期日があり,その日までに,反対売買するか,権利行使するか放棄するかを決断しなくてはならない。このことがより適切な投資判断を困難にしている。

(3)ハイリスク

現物投資と比較して,使用する資金に対する損益の比率が大きくなる(レバレッジ効果)。即ち,ハイリターンが期待できる反面,ハイリスクの可能性があるのである。とりわけ,コール,プットの売り手は,損失額が無限定である。

(4)もっとも,オプション取引には,右のレバレッジ効果の外にも,リスクヘッジ効果(保有株式の値下がりのリスクのヘッジとしてプットを買ったり,購入予定株式の値上がりのリスクのヘッジとしてコールを買う等の方法でリスクの分散を図ることができる)や多種多様な投資戦略が可能になる(例えば,相場が動かなかった場合でも利益を得ることができる)等,現物投資にはないメリットがある。しかし,リスクヘッジが必要なのは大量且つ広範な種類の銘柄を保有している機関投資家であって,個人投資家にとってはその必要性は一般的には乏しいと考えられる。

(5)そうすると,個人投資家でオプション取引に適合するのは,投資家の方からハイリスクを承知で積極的にこれを希望する場合を除き,資金力と長い投資経験があり,証券取引,取り分けオプション取引についての深い知識と理解を有し,他の取引ではできない投資戦略をとる必要がある場合に限られるというべきである。」と。


2月 24 2017

■ オプション取引の投資戦略(オプション取引の判例(裁判:その2))

京都地裁平成11年9月13日判決(大阪高裁平成12年8月29日判決)

これもまた少し古い裁判例ですが,オプション取引の判例(裁判)のその2として,大阪高裁平成12年8月29日判決で維持された京都地裁平成11年9月13日判決を紹介したいと思います。

・オプションの様々な取引手法

上の裁判でも,書店に並ぶオプション取引の概説書同様,オプション取引における取引手法(建玉の仕方)について,①ストラドルの売り,②ストラドルの買い,③ストラングルの売り,④ストラングルの買いの4つが紹介されています。

①ストラドルの売り

ストラドルの売りとは,同一限月,同一権利行使価格のコールとプットを同枚数売る戦略のことです。

株価が上昇しても下落しても損を被ることになりますが,変化幅が一定の範囲内であれば利益を狙えるということからストラドル(straddle:二股をかける,どっちつかずの態度をとるという意)と呼ばれます。損益図は次のとおりです。

ストラドル売

上記京都地裁平成11年9月13日判決は,「株価の変動が小幅になると予想したときの戦略であり,株価の変動が小幅であれば利益が出るが,逆に株価が大きく変動すると,大きな損失を被ることになる。」とコメントしています。

②ストラドルの買い

ストラドルの買いは,同一限月,同一権利行使価格のコールとプットを同枚数買う戦略です。

株価が,上昇か下落かのいずれかの方向に大きく動くと予想される場合にとるべき戦略で,どちらかに大きく動けば利益となりますが,満期時の株価が権利行使価格からコールとプットのプレミアム合計を加減した価格を上回るか下回るかしなければ,オプションを買う際のプレミアムの分だけ損となります。

ストラドルの買いは,短期的には,ボラティリティーの上昇でプレミアムが上昇することを狙った戦略です。つまり,買ったオプションを売って処分する際にプレミアムが高く貰えれば,差額が手元に残ることを狙った戦略なのです。しかし,アト・ザ・マネーのオプションには,時間価値が大きく含まれていますから,時間の経過による減価もまた大きく,売ってプレミアムの差分だけ手元に残すということも,簡単なことではないと思います。

損益図は次のとおりです。

ストラドル買

 

上記京都地裁平成11年9月13日判決は「上昇するか下落するかは判断がつかないがいずれにせよ株価の変動が大幅になると予想したときの戦略であり,株価の変動が小幅であれば損失が出るが,逆に株価が大きく変動すると,大きな利益が出ることになる。」とコメントしています。

③ストラングルの売り

ストラングルの売りとは,同一限月で権利行使価格の違うアウト・オブ・ザ・マネーのコールとプットを同枚数売る戦略のことをいいます。

損益図は次のとおりとなります。

ストラングル売

株価が,ストラドルの売りと同じく,権利行使価格のレンジ内に収まった場合に,最大利益となります。

先の京都地裁平成11年9月13日判決では,「株価の変動が小幅になると予想したときの戦略であり,株価が二つの権利行使価格の間に入ると利益(プレミアム分)が出るが,逆にこれを超えて株価が大きく変動すると,大きな損失を被ることになる。」とコメントされています。

④ストラングルの買い

ストラングルの買いは,同一限月で,権利行使価格の異なるアウト・オブ・ザ・マネーのコールとプットを同枚数買う戦略のことをいいます。ストラングル(strangle:首を絞めるという意)とは,次の買いの損益図が,ひもで首を絞め付けているようにみえることから,こう呼ばれているそうです。

損益図は次のとおりとなります。

ストラングル買

京都地裁平成11年9月13日判決は,「上昇するか下落するかは判断がつかないがいずれにせよ株価が大幅に変動すると予想したときの戦略であり,株価が二つの権利行使価格の間に入ると損失(プレミアム分)が出るが,逆にこれを超えて株価が大きく変動すると,大きな利益が出ることになる。」とコメントしています。


12月 18 2016

■ オプション取引の判例(裁判)

・相場を張るのはプロでも難しい?(事案の概要)

少し古い裁判例ですが,証券外務員Aが,損失を抱えた一般投資家Xに対し,株価は下がる可能性が高く,Xの保有株についても値下がりが予想されるとして,プットオプションの買による株価値下がりの回避を提案して,オプション取引を行わせ損を拡大させたという事案があります。この事件で,東京地裁平成6年6月30日判決は,Aの説明が,概要,オプションとは日経平均株価を買い付け又は売り付ける権利であること,オプションの買の場合には投資金額がリスクの最大限になるが,売の場合にはリスクの限定は不可能であること,買にはコールとプットがあり,コールは株式市場が上昇したときに利益が出て,プットは下落したときに利益が出ること等に留まるものであったと認定し,次のように,述べています。

・東京地裁平成6年6月30日判決

「日経平均株価指数オプション取引は,株式市場全体の動向を膨大な情報をもとに正確にかつ短時間のうちに判断することを必要とするものであり,それでも判断を誤る危険性も極めて大きく,一般投資家がたやすく行い得るものではないと考えられる。また,その内容についても,一般投資家が理解することは容易ではなく,現に証人Tの証言によれば,被告の支店長であるTですら,オプション取引はよく分からないと自認しているところであるにもかかわらず,Aは,説明書を示すでもなく,単に実例を示して口頭で値動き等について概括的な説明をしたにとどまるのであり,説明の内容において不十分というべきである。」

「2000万円もの損失を生じたXが,その損失をカバーするために始めた被告における取引においても,逆に1億5000万円を超える巨額の評価損を上積みしてしまっていたというのであるから,Xがこれを取り戻す方法はないかと強く迫ったからといって,また,その了解を得たからといって,更に損失を拡大する危険も大きいオプション取引を勧めること自体,不適当といわざるを得ない。もっとも,Xは,500万円から1000万円の範囲内では失敗してもやむを得ないと考えて,本件オプション取引に踏み切ったとも見られるのであるが,たとえそうであっても,巨額の損失に動揺していた時期にあるXは,損失を取り戻すための賭ともいうべき行動に出たと評価すべきであって,それを勧めて行わせた被告の責任は否定し難いところである。」と。

・オプション取引の受託業務と具体的な注意義務(的を射た洞察)

紹介した平成6年6月30日判決で,裁判所は,オプション取引が,当時の証券会社の一支店長ですら理解できない取引であることを指摘して,一般投資家に勧誘することを問題としました。しかも,「巨額の損失に動揺していた時期にあるXは,損失を取り戻すための賭ともいうべき行動に出たと評価すべき」と指摘しています。

この指摘は,平たく言えば,金額が大きくなって損得の感覚がまひしてしまう傾向があるということ,損が拡大した状況で損失が更に拡大するインパクトは小さく感じられる傾向にあるということ(価値関数・感応度逓減性)や,損失局面では損失の回復可能性を過大評価する傾向にある(確率加重関数)といった行動経済学のプロスペクト理論の考え方にも裏付けられます。

当コラムでも,実需に基づいた必要から,ヘッジ手段としてのプットオプション買が行われることを指摘したことがあります。裁判官は,フットインザドアーテクニックと呼ばれる,コミットメントと一貫性という人間心理を利用した勧誘と同じく,とにかく取引を始めさせてしまえというやり方がよくないと考えたのでしょう。

取引開始の動機が,プットオプションの買による株価値下がりの回避の目的であっても,投資家側が真に理解していなければ,一般投資家には不向きであると洞察したのです。

判決時期からして,考え抜いた結果の判断を示されたものとして敬意を表すべきだと思います。

 

・最高裁平成17年7月14日判決の2つの弊害

小見出しの最高裁判決は,この業界一般には,適合性原則違反が,民事の不法行為に基づく損害賠償請求の原因になりうることを認めたものとして理解されています。しかし,その理由付けや判示内容からは,次のような2つの弊害が生じていることも否めません。

・オプションの習熟の程度は?(取引回数のみに目を向けてしまう誤解の原因)

最高裁の平成17年判決の事案は,法人である一般投資家側が,プレミアム獲得目的で選択したプットオプションの売取引による損失が,複数回成功した後の失敗であった事案です。

1つめの弊害としては,最高裁が,上場市場が存在することや,「基礎商品となる日経平均株価やオプション料の値動き等は,経済紙はもとより一般の日刊紙にも掲載され,一般投資家にも情報提供されているなど,投資者の保護のための一定の制度的保障と情報環境が整備されている」と指摘し,新聞やテレビで日経平均株価の値段という情報に接し易いことを投資家側を負かす理由に掲げた点です。

値段が「上がる・下がる」ということくらいは,日々のニュースで報じられる数値をノートすれば追えるのでしょうが,オプション取引の難しさというのは,単に,プレミアムの大小や対象指標の上げ下げだけではないのです。

最高裁は,「投資者の保護のための一定の制度的保障と情報環境が整備されている」ことを指摘していますが,事案の投資家の請求を排斥する理由として,「1回目及び2回目のオプション取引では,専らコール・オプションの買い取引のみを,数量的にも限定的に行い,その結果としての利益の計上と損失の負担を実際に経験していること,こうした経験も踏まえ,平成3年2月に初めてオプションの売り取引(3回目のオプション取引)を始めたが,その際,オプション取引の損失が1000万円を超えたらこれをやめるという方針を自ら立て,実際,損失が1000万円を超えた平成4年4月には,自らの判断によりこれを終了させるなどして,自律的なリスク管理を行っていること,その後,平成4年12月に再び売り取引を中心とするオプション取引(4回目のオプション取引)を始めたが,大きな損失の原因となった期末にオプションを大量に売り建てるという手法は,決算対策を意図する被上告人の側の事情により行われたものである」などと指摘して,事案の投資家が玄人に近いとみるべきことを裏付ける事実を,いろいろと述べています。

しかし,規範のみが一人歩きを始めると,新聞やテレビで報じられており馴染みがある,というだけで,請求を否定しにかかる裁判官が出てくるように,金融知識の不足する法律家にとっては,重要度の濃淡を誤解してしまう原因にもなっているのです。

・投資の意思を決定したときの情報は?(具体的な危険性について問題の所在を誤解させる原因)

2つめの弊害としては,最高裁平成17年判決が「確かに,オプション取引は抽象的な権利の売買であって,現物取引の経験がある者であっても,その仕組みを理解することは必ずしも容易とはいえない上,とりわけオプションの売り取引は,利益がオプション価格の範囲に限定される一方,損失が無限大又はそれに近いものとなる可能性があるものであって,各種の証券取引の中でも極めてリスクの高い取引類型であることは否定できず,その取引適合性の程度も相当に高度なものが要求される」と指摘した点です。

現在では,投資家側の代理人も,強調して指摘することが多いであろう危険性の指摘ではありますが,具体的な事案の経緯から離れて,理論上の危険性を指摘するだけで裁判に勝てる訳ではないと思います。

仕組みからプットオプションの損が無限であることは明らかです。この点は,ドイツの有名な最高裁判決も指摘しています。

しかし,真に重要なのは,投資の意思を決定するときに,具体的な経済情勢を含めた価格変動要因などを,どの程度投資家側に知らされていたか?という問題です。

今後は,どのような情報を提供されたから,プットオプションの売りを選択した,という意思決定の問題になっていくと考えています。


12月 08 2016

■ オプション代金の決まり方(その2)

・オプションの理論価格

前回のコラムでは,「■ オプション代金の決まり方」と題して,経済の動きや時間がどのように影響するのか解説を試みました。

では,オプションの理論価格が,どのような考えで決定されているのか解説してみましょう。理論価格というのは,確率論にいう期待値,すなわち多数回試行を繰り返せば平均的に得られるであろう額,というくらいの意味です。この確率的な期待値を算出する方法としては大きく分けて,①解析解を導く方程式を解くやり方と,②乱数を発生させたシミュレーションを多数回行うやり方とあります。①は,古典的なブラック=ショールズ式が有名です。②の方法は,モンテカルロ・シミュレーションと呼ばれ,金融に限らず,理工系の研究には広く用いられている方法のようです。

・ブラック=ショールズ価格式

では,ブラック=ショールズ価格式をみてみましょう。c:コールオプション価格,p:プットオプション価格,現在の株価をS,オプションの権利行使価格をK,無リスク金利をr,ボラティリティをσ(シグマ),オプション満期までの時間をTと定義すると,次のように,表されます。

【ブラック=ショールズ価格式】

%ef%bd%82%ef%bd%93%e5%bc%8f

上の式中に登場するN(x)というのは,標準正規分布の累積分布関数と呼ばれるもので,標準正規分布に従う変数が、x以下をとる確率を意味します。N(d2)は,リスク中立世界でのオプションが行使される確率を表し,KN(d2)は,行使価格にその価格が支払われる確率を掛けたものを意味しています。

 

・割引現在価値(NPV)

上の式の %ef%bd%84%ef%bd%86 は,T期間という時間の経過分で発生する金利をその利率rで割り引いて現在価値に引き直すためのものです(eは自然対数の底,ネイピア数です。)。

裁判実務でも,交通事故の損害賠償などでは,中間利息控除ということが行われます。

これは,将来にわたる賠償額を一括して現在得てしまうと,手元に金利による運用益が残ってしまうから,金利による運用分だけ,現在一括前倒しで支払われる額から控除するというものです。

中間利息控除と同じで,確率的な期待値である将来の価格を,期間に応じた現在価値に換算するのです。

 

・実際に計算してみましょう

ちょうど1年後に,同じ価格を行使価格とするオプションの価格評価をしてみます。

例えば,2016年11月14日の日経平均株価終値は,1万7672.62でしたので,S(現在の株価)とK(権利行使価格)を1万7672と仮定します。同日の長期金利はマイナス0.015%ですが,ここではr=0.01%と仮定します。σ(ボラティリティー)には,日経平均VI(ボラティリティー・インデックス)の最近の値を参考に,例えば,21%と仮定してみます。前提として「ちょうど1年後」なので,T=1です。

ブラック=ショールズ価格式のN(x)の部分,すなわち標準正規分布の累積分布関数の値を求めたい部分について,

標準正規分布の確率密度関数は,

%ef%bd%8e%ef%bc%88%ef%bd%84%ef%bc%89%ef%bc%91

ですので,これを -∞ → d まで積分する

%ef%bd%8e%ef%bc%88%ef%bd%84%ef%bc%89%ef%bc%92

を計算することになりますが,エクセルではこれを計算する関数「NORMSDIST」が用意されています。Rという統計計算ソフトでは、pnormで計算できます。

また,ブラック=ショールズ価格式のlogの部分,すなわち自然対数の値を求めたい部分については,エクセルでは関数「LN」が用意されています。Rという統計計算ソフトでは,logで計算できます。

設例の条件でRで計算してみると,

コールオプション価格                    プットオプション価格

1560.035             1384.196

という結果になりました。

設例の計算結果は,1年後に,日経平均株価1単位を1万7672で買うヨーロピアン・コールオプションの理論価格は1560.035,同じくプットオプションの理論価格は1384.196となりました。

 

・理論価格も取引の参考情報?

理論価格やその計算過程を知ることで,市場で実際に取引されたオプション価格(プレミアム)からボラティリティーを逆算することや(インプライド・ボラティリティー),市場参加者の心理が,理論価格からどのようにズレているのかをみながら投資判断をすることが可能となるのです。

このように,デリバティブ評価の理論値は,ある意味で,金融機関などの玄人同士の取引において,値決めの基準となる重要な参考情報ともいえるものでしょう。

今回は,完全に趣味に走った内容でしたので,次回は,オプション取引が問題となった裁判例を題材に書いてみようと思います。


10月 28 2016

■ オプション代金の決まり方

・オプション・プレミアム(権利の代金)価格の決定要因
オプション取引で登場するプレミアム(権利の代金)はどのように決まるのでしょうか?
オプション取引も,プレミアムがこれだけもらえるなら義務を引き受けてもいいなと思っている人と,その行使価格の権利を持っておきたいという人がいるから成り立つ取引で,経済情勢と人気など,最終的には需給によって決まるのですが,いくつかの要因が大きく影響しています。
それは,①相場と行使価格との差,②ボラティリティー,③行使日までの時間です。

・本質的価値
オプションのプレミアムは,本質的価値と時間価値で構成されます。
本質的価値とは,平たくいえば,その権利行使価格でどれだけ利益が出るかという観点です。
相場が60ドルのときに40ドルで売る権利を買ったとしても,そのまま相場が下がらなければ,そのときはオプションは権利放棄して商品を市場で売ればよいのですから,本質的価値はそれほど高くない(むしろ現在の相場60ドルからみたらマイナス。これをアウト・オブ・ザ・マネーと表現します。)のかも知れません。

・ボラティリティー
しかし,相場変動が激しいときであれば,そのまま相場が下がらないと強気の予想を立てることが難しくなります。この相場変動の激しさを表す概念として,ボラティリティーという指標があります。

・プット買いによる価格下落リスクのヘッジ
相場が上下に揺れ動く乱高下のとき,あるいは急激に上昇又は下落をするときなど,ボラティリティーは高くなり,相場変動が小さくなるとボラティリティーは低くなります(相場の波が穏やかなのか,激しいのかといったイメージです)。
ですので,ボラティリティーが高く相場変動が激しいときには,アウト・オブ・ザ・マネーのプット・オプションを購入することでも,行使価格をこえる値下がりがあるかも知れないと考えれば,意味のある経済行動なのです。

・オプションの売りは保険の引き受け
相場変動が激しくなると、ヘッジのために、オプションを買おうとする人は,より多くのプレミアムを払ってもよいと考えるでしょう。逆に,オプションを売ってプレミアムを得ようとする人は,この先の相場の大きな変動で,万一オプションがイン・ザ・マネーになって権利行使されると,不利な価格で商品の売買に応じなければならないリスクが高まります。そのため、この義務を引き受けるのと引き換えに、より多くのプレミアムを貰わなければ割に合わないということになります(保険会社が保険を発行するときと同じです)。

・ボラティリティーを取引する?
ボラティリティーが高いときは,相場と行使価格との差によって利益を得られる「可能性が大きくなる」ため,オプションのプレミアムも高くなります。逆に,凪相場でボラティリティーが低いときは,同じ行使価格で比較して相場と行使価格の差によって利益を得られる「可能性が小さくなる」ため,オプションのプレミアムも安くなります(このように,ボラとプレミアムは連動するので,行使日(満期)までの時間が同じという前提でオプションを取引するなら,プレミアムの価格の代わりに,ボラティリティーの数値を提示し合い取引を成立させる玄人な取引世界もあるそうです)。

・時間価値
オプション取引には,権利行使できる期間が定められています。コーヒーの名前みたいにヨーロピアンかアメリカンかといった違いは,将来の特定の日だけ権利行使できるのか,将来の特定の日までいつでも権利行使できるのかの違いですが,いずれにせよ最終日が決められます。
先ほど,ボラとプレミアムの関係を解説しましたが,その発想としては確率的な期待に基づいています。これに更に,時間の経過を考慮するのです。つまり,期間が短いものより,期間が長い方が,相場が変動して利益となる可能性が高いのです。オプションの価値は、満期が近づくにつれて減少していきます。これを時間価値と表現します。


10月 24 2016

■ オプションの損と益の発生の仕方

・一般的な損益図
投資取引を分析するには,そのポジションの損益の限界線が幾らなのか,損益図を描くことが基本になります。

オプション取引について解説した書籍などには,オプションの売り手と買い手の,利益と損失が発生する損益の水準(縦軸)と相場水準(横軸)をグラフ化した「損益図」が必ずといってよいほど掲載されています。

コール・オプション(行使価格で買う権利)と,プット・オプション(行使価格で売る権利)の2種について,これら「権利を対象とした売買取引」として,売り手(義務の引き受け手)と買い手(権利取得者)の2者の立場からみて,次の図のように,4つのパターンに分けるのが一般的です。

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・一方の損は他方の益(ゼロ・サム)
ちなみに,最初にあげた図の4パターンを合成すると,次の図のようになり,オプション取引では,参加者が損益を分かち合っている,すなわち,付加価値を生み出さずに,誰かの損が誰かの利益になることが分かります。

%e3%82%aa%e3%83%97%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%b3%e9%80%9a%e5%b8%b8%e3%81%ae%e6%90%8d%e7%9b%8a%e9%96%a2%e4%bf%82%e5%9b%b3%e2%91%a1

損益の図の計算内容は次のとおりです。

%e3%82%aa%e3%83%97%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%b3%e9%80%9a%e5%b8%b8%e3%81%ae%e6%90%8d%e7%9b%8a%e9%96%a2%e4%bf%82%e5%9b%b3%e2%91%a2

このように,売り手と買い手で権利の代金(プレミアムといいます)の受け払いを行うことと,売り手と買い手には,行使日での相場の値上がり,値下がりにより,行使価格を中心に逆の損益が発生しますから,すべてを合わせると,ゼロとなる,ゼロサムの取引なのです。

・ポジションと原資産の値動きとを組み合わせたイメージ図
ところで,オプションの買い手と売り手は権利の売買当事者として,一方は原資産(ここではオプションを行使するときに売買の対象とされるモノというくらいの理解で差し支えありません。)を行使価格で売ったり買ったりする権利を得て,他方は権利行使により,原資産を買ったり売ったりする義務を負う立場ですから,次の図のように整理すると,相場の上下の変動とともに,一方の損が他方の益となることが理解しやすいと思います。

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このように,デリバティブ(金融派生商品)は,一方の損が他方の利益となる性質がありますから,使われ方によっては,本質的に利益相反を孕んでいると考えられます。


10月 19 2016

■ オプションの役割はヘッジ手段(経済ショックと相場)

・ブレグジット・ショック
今年6月,イギリスでEU(ヨーロッパ連合)を離脱するかどうかの国民投票が行われ,EU離脱派が勝利したというニュースが流れました。いまやその当時の相場変動のショックは過去のものとなっていますが,どれほどのものだったか追憶してみましょう。

当時の日経平均株価終値をみると,6月23日は1万6238円35銭であったのが,翌24日には1万4952円02銭となり,一日で,▲7.92%の下落を記録したことになります。東証1部の時価総額は,492兆9647億円から457兆7135億円と,1日で7.15%縮んでしまい,▲35兆2512億円が蒸発してしまったことになります。

・ファットテールの問題
これと似たような経済上のショックは,繰り返し起きています。昨年は中国ショックがおきました。さらに遡れば,平成23年に東北地方を襲った地震の際も,大きなインパクトがありました。インパクトの大小と発生頻度は,まさに,地震に似たところがあるのです。発生確率としては小さくて普段は無視できるような事象を統計的なリスク管理モデルでどう扱うか,ということをファットテール(fat tail)の問題といいます。

・原油当業者によるヘッジ行動(オプションの役割はヘッジ手段)
話を変えて,一昨年の秋から暮れにかけて,それ以前は1バレル=100ドル前後であった原油価格は,米国中央銀行FRBのテーパリング(量的緩和の縮小)とともに下落し,50ドルを割れるかというような急激な下落をしました。こうしたときに,原油生産者によって取引量が膨れたのが,プット・オプションの取得(買い)です。

原油生産者としては,利益を確保するために,実勢相場が60ドルのときに,40ドルでもいいから売る権利を買って,さらなる価格下落に備えるのです。そうすれば,実勢相場が1バレル=30ドルにまで下落したときに,1バレル=40ドルという権利行使価格で売る権利(プット・オプション)を行使することで,原油の売値を確保できるのです。

・言葉遣いに関する提言
裁判例をみていると,「ヘッジ目的」とか「ヘッジ取引」という単語が登場することがありますが,語彙のもつイメージに頼り過ぎている感が否めず,議論に混乱が生じている印象を受けます。
裁判当事者の主張の立て方として,「ヘッジ目的」に当たるか否かといった荒っぽい議論の立て方をするよりも,先の例でいうなら,原油生産者は,原油相場の下落による売却代金が減少するリスクを「ヘッジする目的」で,「ヘッジ手段」として,1バレル=40ドルを行使価格とするプット・オプションを取得した,というふうに,言葉を目的と手段とに分けて表現すれば,正確ですし,分かり易くなると思います。最近買った本には,①リスクを転嫁・抑制するための手段として用いる取引のことを「ヘッジ手段」と呼び,②リスクを抑制したい対象となる資産のことを「ヘッジ対象」と呼ぶ,というように,意識して書き分けられていました。ご参考までに。


10月 15 2016

■ シリーズ・オプション

・ 東日本大震災と株価の暴落
東日本大震災(3.11)をきっかけに,株式市場で大暴落が起きました。当時,日経平均株価は,1万0500円くらいから8200円くらいまで2300円(約22%)暴落しました。

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・ 証券会社の上場廃止
オプション取引も大きな影響を受けて,上場廃止になった証券会社も出ました。

・ 集団投資
集団で投資を呼びかけられていた人たちの中に,この震災を機に,プット・オプションの売りで大きな損失を被った人がいます。

・ 裁判の開始
こうした人に対して,証券会社から不足金を支払えという裁判が起こされました。

・ オプション
オプション取引のため口座を開設して,パスワードを知らせて,集団投資を呼びかけた人に任せると,オプションというデリバティブ取引での一任売買ですので,危険極まりないのです。「オプション」といっても,車に取り付ける部品や機器のことではありません。 コール・オプション(行使価格で買う権利)や,プット・オプション(行使価格で売る権利)といった日経平均株価を原資産とする上場オプション取引のことです。

・ 判決や和解
既に,裁判になっていた人のうち,かなりの人は,不足金の何割かを支払う内容で和解をしていると推測されます。まだ,分割で支払い中の人もいるかも知れません。

・ 対応
保証金(証拠金)を充当してもカバーできない不足金は支払う義務があるか?
ドイツの民法では,自然債務といって,裁判による支払の判決は出ない決まりになっていました。米国でも,不足金は信義則によって支払わなくてもよいという判決があります。

・ 支払の拒否と損害賠償請求
ひとり闘っている人がいます。被害者がバラバラでは,証券会社に勝てません。請求を拒否するためには,被害者の連携が大切でしょう。あなたのケースを知らせて下さい。自分で口座を開設したのですか?それとも,誰かに誘われたのですか?

今後,この裁判と同時進行させて,「シリーズ・オプション」を書きます。読者の中で,ご希望があれば,その内容をご連絡下さい。


10月 13 2016

■ 敗訴判決の乗り越え方

・弁護士は商売上,どれだけ判決で敗訴したかは言いたがりません。研究会でも,勝った判決の報告がメインとなっています。

・でも,実際の事件処理の中では,被告側から敗訴判決がどっさり出てくることがあります(もし,私の関与した事件の敗訴判決が提出されて困っているという顧客側代理人の弁護士さんがいたら,すみませんでした,と予め謝っておきます。・・・個別に連絡下されば,その敗訴判決の乗り越え方の相談に応じます。)。

・さて,このコラムで継続的に紹介している商品先物取引被害の事案では,被告業者側から,東京地裁平成14年10月28日判決が,顧客側敗訴の裁判例として証拠提出されました。

ですが,次に解説するとおり,やり方次第では,勝てていたかも知れない事案と思われるのです。というのも,
「オ 原告は,平成9年11月6日及び同月11日,米国産大豆をそれぞれ150枚,90枚売建をした。これは,大豆の値段が下落することを予測していわゆるナンピン売りしたものである。(乙8の1,同24,被告Y3【29,30頁】)」
と事実認定されていたのですが,これが全く問題視されていないのです(おそらくは業者側の主張どおりの認定になっているものと推測されます。)。

・当コラムをお読みいただいている人にはもうお分かりかも知れませんが,「深掘り」が足りないまま判決されてしまっているのです。

つまり,平成9年当時も,シカゴ(CBOT)の商品先物相場が東京の商品先物(穀物)相場に大きく影響していて,シカゴ(CBOT)の価格形成に影響する米国農務省が公表している穀物等需給報告を調べれば,業者が合理的に予想される値動きに反した推奨を行ったと指摘できる筈です。

・図書館で調べてきた1996-97穀物年度,1997-98穀物年度の大豆,小麦,トウモロコシの期末在庫等の推移をグラフにすると次のとおりとなりました。

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・上のグラフにある1997-98穀物年度の大豆の期末在庫の2億7000万ブッシェルから2億5500万ブッシェルへの下方修正という情報は,米国農務省が平成9年11月10日(米国時間)に公表しています。日本との時差を考慮すると,事案の先物業者は,日本時間の11月11日午前9時の前場開始前に,そのことを知っている筈です。

・ですから,「深掘り」すれば,11月11日に,既に在庫が下方修正されて合理的に値上がりが予想されている大豆について,買ではなく,逆に,売を勧めたことは,委託者の利益より反対ポジションの自己玉の利益を優先させた不合理な勧誘であると指摘できたと推測されます。

・ただ,このような専門知識を平均的な裁判官が理解して判決書に書けるとは限りません。原告代理人の努力が実るといっているのではなく,もう少し深掘りすると,委託者は被害者だと確信が持てるのです。


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