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3月 22 2022

■ 無意味な反復売買・乗換売買

・ 年次回転率の少なさを補強する勧誘の悪性

もう一つ、適合性原則違反、説明義務違反を認めるほかに「乗換売買」について言及した判決を紹介します。大阪高裁平成25年2月22日判決(判例時報2197号29頁、金融法務事情2004号149頁)です。

かつての商品先物取引業者の「客殺し商法」は、顧客から預かった証拠金を、差玉向かいといった手口を使い、取引所との間の日々の清算という形で流出することを防ぎつつ、取引を頻繁に行わせ手数料に転化させていくというものでした。

なお、現在では、カバー取引先との清算を極小化して預り証拠金が流出するのを防ぎつつ、相場観に従わない業者都合の取引に誘導することによって顧客の損を業者の収益として取り込んでいく「客殺し」を行うCFD取引業者もあります。

こうした商品先物取引の被害救済訴訟では、「転がし、無意味な反復売買(いわゆる特定売買)」という違法性の立て方はメジャーでした。これは、無定見に勧誘・推奨し、取引を重ねさせる点が「手数料稼ぎ」に結びついており違法と評価されるというものです。

かつて、商品先物取引に関しては、主務省がチェックシステム、MMT(ミニマムモニタリング)といって特定売買の割合、回転率、手数料化率を数値で示したと報道されたことがあり、裁判でも、取引の客観的状況を違法性判断で考慮する流れがあります。

証券取引の被害救済訴訟では、その「無定見」、つまり相場状況などに鑑み「合理性のない勧誘・推奨」という側面に焦点をあてて、業者の悪性を指摘するものといえます。売買回転率がある程度低くても、勧誘に合理的根拠がない、すなわち、必要性のない取引をさせたという評価をもって、個々の取引を一体のものとして違法と評価するものです。

 

・ 大阪高裁平成25年2月22日判決

判決の事案の控訴人は、後見開始決定取消審判から2か月も経たない1人暮らしの女性(取引当時76歳)です。判決の認定によると、不動産は持っていたものの、預貯金は1000万円程度、年金と不動産収入を合わせて年収294万円程度で、取引開始時に売却した株式も、必ずしも余裕資金とは評価できないとされ、株を売った代金約1400万円のほぼ全額が投資資金に充てられ、しかも、リスク分散が全く考慮されていないとされています。

 

・ 適合性原則違反

判決は、控訴人の判断能力は未だ回復途上で、日常生活を自力あるいは介助を受けて何とかこなすことで精一杯の状況で、主体的な判断で証券取引等を行うことが不可能な状態であったとしました。このような控訴人にとって、RC3以上の基準価額の変動が大きい投資信託、ランド建債、EBといった商品は、その内容の理解が困難であるとし、控訴人は、慎重な投資意向であったと認め、本件問題取引は、従前の取引とは質的・量的に大きく異なっていることを指摘して、適合性原則違反を認めました。

 

・ 説明義務違反・助言義務違反

判決は、担当者の勧誘によって、相当リスクを有する投資信託やEB債等を買い付け、しかも比較的短期間の保有日数で投資信託の乗換売買が繰り返されるなど、相当に積極的な投資判断に基づく取引が行われている。担当者は、控訴人に対し、新たに取引の対象とする商品の内容、仕組み、投資方針、リスクの質と程度についてはもちろん、乗換売買を行うに当たっては、売却する各商品の状況及び通算の損益状況、手数料等の顧客が負担する内容等、乗換売買を行うことのメリット並びにデメリット及びリスクについても、控訴人の属性等を踏まえ、控訴人の取引意向に沿うべく十分に説明して理解させる義務があったとしました。そして、結論として説明義務違反を認めました。

 

・ 合理性のない反復売買・乗換売買

(1)判決は、商品Bは、商品相場に連動するような複雑な投資信託であり、控訴人の投資判断能力からして不適合な商品であるとし、毎月分配型の商品Aは、控訴人が購入した平成20年1月以降も毎月80円~100円の分配金が発生していたため、評価価額は下がっているものの、分配金を加味した運用ではほとんど損失が出ていない状況であったが、担当者は、その内容を説明せずに商品Aから商品Bへ乗換えを勧めたと認定し、合理的な乗換えとはいえないとしました。

(2)判決は、商品Aの運用が失敗したわけではないし、控訴人は、商品Aを購入する時点で株式投資に対して消極的な考えを持ち、株式を全て売却してその売却代金で商品Aを購入したこと、控訴人は、当初、分配金の取得できる投資信託を希望していたのに、商品Cは、分配金がなく、株式を投資対象とするものであったことから、商品Aから商品Cへの乗換えは、控訴人の希望した取引とは考え難く、合理的な乗換えとはいえないとしました。

(3)判決は、ランド建の商品Dを売却し、商品Aに乗り換えた点について、商品Aは、新興国の通貨建ての債券に投資する投資信託であり、投資対象には南アフリカランドも含まれていること、当時、リーマン・ショックの影響で、新興国の通貨は軒並み不安定な状況になっていたことから、上記乗換えは、合理的な乗換えとはいえないとしました。

(4)判決は、商品Bからオーストラリアや香港などの株式に投資する投資信託である商品Eへの乗換えについて、商品Bをあと1週間保有していれば3万4000円の配当を受けることができたこと、当時商品Eの基準価額はあまり動いていなかったし、商品Bの評価損にも大きな変化は認められなかったこと、商品Eが控訴人が消極的であった株式を投資対象としており、リーマン・ショック後の為替相場が不安定な時期で、新興国の為替リスクも負担することになることから、上記乗換えは、合理的な乗換えとはいえないとしました。

(5)判決は、商品Fと商品GからのEB債への乗換えについて、担当者は、一旦は、値上がり益を追求するような商品を控訴人に勧誘していたにもかかわらず、EB債については高い利回りを目的として提案しており、勧誘方針に一貫性が認められないこと、そもそも商品Fを勧誘したのは、先進国の債券が投資対象となっており、低い利回りであっても、信用性を重視していたはずであるのに、今度は、利回りの低さを理由に売却するというのであり、勧誘方針が矛盾していること、為替リスクを回避する目的であれば、より大きな資金を投入している商品Eの保有の継続の有無を優先的に検討されるべきであるのに、これを検討対象としていないことから、上記乗換えは、合理的な乗換えとはいえないとしました。

(6)そして、判決は、取引が平成20年1月10日から平成21年4月15日までの間の約1年3か月間の比較的短期間の取引で、取引回数は29回(17回の買付と12回の売付)、総買付金額は4000万円を超え、回転率(=年間投資額/平均月末投資残高)は2.16(1年間に投資資金の2.16倍の買付を行うこと)、手数料率13.2%(全損失に占める手数料の割合)であり、投資信託等の保有日数は、最も長いものでも365日、最も短いものが68日で、6、7か月程度しか保有されていない商品が多いと指摘しました。その上で、投資信託の取引は、基本的には、長期保有がされることを前提としており、比較的短期間の保有日数は、控訴人の知識・経験、投資目的、資金の量に照らして適合的とはいえないと評価しました。また、合理性のない、投資信託等の反復売買、乗換売買を繰り返し、その結果、1度を除き、全て控訴人が損失を被っている上、手数料率が比較的高率であることを考え併せて、担当者は、控訴人の利益を犠牲にして、自己の業績を上げ、あるいは被控訴人の利益を図ったものと推認するのが相当である、として不法行為の成立を認めました。

 

・ 注意点(射程)

紹介した大阪高裁平成25年2月22日判決は、(1)~(5)の認定をして、合理性のない反復・乗換売買について違法だとしました。ですが、事案の控訴人は、後見開始決定が取消されて2か月も経たない高齢女性であったという事情を踏まえた判断です。


3月 06 2022

■ 年次回転率が低くて(3.17回)過当取引の違法が認定された事案

・ 大阪地裁平成18年4月26日判決

大阪地裁平成18年4月26日判決(判タ1220号217頁、金商1246号37頁、判時1947号122頁)の事案の原告らは、取引開始当時66歳の就業経験のない主婦と、脳出血後遺症等のために、特にうつ病の症状が強く、精神的に不安定で混乱した状態にあり、集中力低下や抑うつ状態を繰り返し、判断能力が低下することが度々あった息子でした。

・ 適合性原則違反、説明義務違反

判決は、株式相場の全体的下落傾向の下、次々と取引損が拡大する中で、一貫して、ハイリスク型の株式投資信託に全取引資産を集中投資させ、全取引資産をリスクの高い金融商品に集中投資させたまま、短期間の乗換売買の勧誘を繰り返した担当者の行為を、適合性原則違反だと断じています。

また、判決は、説明義務に関しても、原告らに対し担当者が勧誘する取引について自らの証券取引の知識、経験、財産状態、投資意向等に適しているか否かを自ら判断できる機会を与えるため、「新たに取引の対象とする商品の内容、仕組み、投資方針(元本重視の取引か、利子・配当重視の取引か、値上がり益重視の取引か等)、リスクの質と程度についてはもちろんのこと、乗換売買を行うに当たっては、売却する各商品の状況及び通算の損益状況、手数料等の顧客が負担する内容等、乗換売買を行うことのメリット並びにデメリット及びリスクについても、原告らの属性等を踏まえ、原告らの取引意向に沿うべく十分に説明して理解させる義務」があったとし、事案において説明を十分尽くしたものとは認め難いと、説明義務違反を認めています。

・ 過当取引の認定過程

判決は、「証券会社が、顧客の利益よりも自らの手数料収入の獲得等という利益を優先させ、顧客を不適切に多量・頻繁な取引を勧誘することは許されない」。「証券会社及びその従業員は、信義則上、一般の投資家を顧客として証券取引に勧誘する場合、当該顧客の知識・経験、投資目的、資金力に照らして、不適切に多量・頻繁な投資活動に勧誘し、自己の利益を図ってはならないという義務を負っているというべきであり、証券会社がこの義務に違反して証券取引を行い、社会的相当性を欠く場合には、私法上も違法として不法行為を構成する」とし、次のように、年次資金回転率3.17回でも過当取引の違法性を認定しました。

つまり、「ハイリスク型の株式投資信託(21種類)、EB債(3種類)、バスケット債(2種類)、IT関連外国株(5種類)、外債(2種類)の他、多数の国内株、国債、公社債を対象として、原告らの全取引資産(約2600万円相当)を、主に申込手数料等が高率なハイリスク型の株式投資信託、EB債、バスケット債、外国株等に集中投資した状態で、…短期間(長くて7か月強、大半が2ないし4か月で、1か月未満のものも多数存する。)の保有日数で、…株式投資信託等の間での乗換売買が繰り返された」。本件取引は、「原告らの知識・経験、投資目的、資金の量に照らして適合的であるとは到底いえず、過当なものである。」とし、取引の過当性要件を認め、担当者が主導していた点から口座支配性要件を認めました。そして、判決は、顧客の被害に対する故意要件(証券会社の背信性=手数料稼ぎ目的)については、次の点を指摘して、担当者は、「原告の利益を犠牲にして、自己の業績を上げ、あるいは■証券の利益を図ったものと推認せざるを得ない。」としています。

① 「本件取引においては、国内株、公社債、公社債投信と比べて手数料率が高率なハイリスク型株式投資信託、EB債、バスケット債、外国株、外債等を対象として、短期間での乗換売買が繰り返され、■証券は、申込手数料、信託報酬等により、通常の証券取引と比べて多大な収入を得たものと認められる。」

② 「取引開始から約3か月後に原告らの全取引資産が2種類の株式投資信託(「日本グロースオープン」、「I―TECH」)に集中投資されている」

③ 「その後、「日本グロースオープン」につき、高額の配当が得られる配当日の直前(18日前)に売却され、4種類の株式投資信託(「21世紀グロースオープン」、「日本株式アクティブオープン」、「ベストエクイティオープン翼」、「住信ジャパングロースファンド・得意技」)に乗り替えられているが、同4種類の株式投資信託は、「日本グロースオープン」と投資対象・投資方針等を大きく異にするものではなく、乗換売買を行う格別の理由に乏しく、その後、上記株式投資信託も短期間の保有日数で売却され、別の株式投資信託等に乗り換えられている」

④ 「一般的に中長期的に保有することが想定されている株式投資信託につき、わずか数か月単位での乗換売買が繰り返され、その前提となる相場動向についての判断も短期間の間で二転三転して一貫していない」

⑤ 「特に「日本グロースオープン」については、…平成11年12月に買付後、平成12年3月1日に売却、その後同年8月に再び買い付けられ、その2週間後に売却され、その後平成13年4月から5月に再度買い付けられ、同年8月までにすべて売却されるなど、同一の株式投資信託の間で乗換売買が繰り返されている」

⑥ 「本件株式投資信託の中には新商品が多く含まれている」

⑦ 「本件取引開始から平成13年9月ころまでの間においては、株式投資信託の売却につき、前記の■証券の内部の基準に抵触しないように、3か月以内の損失の売却とならないよう売却日が調整されるなど、取引に作為が窺われる」

⑧ 「株式相場の全体的下落傾向の下、購入した株式投資信託等の評価額が下落し、損失が次々と生じているにもかかわらず、取引終了に至るまで、取引資産のほとんど全てをハイリスク型の株式投資信託、EB債、バスケット債、外国株、外債等といったリスクの高い商品に集中投資したまま、短期間の乗換売買を繰り返していた」

⑨ 「本件取引開始から取引終盤まで原告名義の口座から現金が出金されたことはほとんどなく、取引で利益が生じていても別の商品の買付代金に充てられていたため、本件取引を通じて原告らが手元に現実の利益を取得したことは全くなかった」

・ 総合判断

過当性の判断は、証券売買の頻度や売買量と顧客の投資目的などの総合判断といわれています。この判決では、顧客の被害に対する故意要件を基礎づける事実(証券会社の手数料稼ぎ目的、背信性の強さ)が取引の過当性の判断で考慮されているように思えます。

とくに、③投資対象・投資方針等を大きく異にしない商品間では乗換売買を行う格別の理由が乏しいこと、⑤同一の株式投資信託の間で乗換売買が繰り返されていることといった指摘は、勧誘・推奨行為が合理的根拠に基づいていないこと(合理的根拠に基づかない勧誘)を指摘しているといえます。


2月 12 2022

■ 頻繁な取引に関する違法事由

・ 過当取引(チャーニング)とは

証券取引で、取引が頻繁というだけでは違法とは評価されませんが、一定の要件をみたした場合には、違法と評価される場合があります。

証券取引被害救済の手引(三訂版)(2001年1月28日、日弁連消費者問題対策委員会編・民事法研究会)によれば、過当取引(チャーニング)とは、証券会社が証券取引における顧客の口座に対し支配を及ぼし、その顧客の証券会社への信頼を濫用して、証券会社の手数料稼ぎ等の利益を図るために、その口座の性格に照らして金額・回数において過当な取引を実行することと言われます。

要するに、取引未習熟者が担当者を信頼して推奨されるままに応じていたが、担当者は顧客のためでなく、自己の成績などのため、その顧客に適合しない金額・回数の取引をさせたような場合です。

この違法性の実質的な根拠は、証券会社の証券取引仲介受託者としての信任義務に求められ、わが国でいう誠実公正の原則(金商法36条)に求められています。

・ 米国の2-4-6ルール

過当性の判断は、証券売買の頻度や売買量と顧客の投資目的などを総合的に判断することになります。米国の裁判所では、判断基準として、回転率、手数料比率、別顧客口座との比較が取り上げられています。また、証券の保有期間も考慮要素でしょう。取引回数が多く証券の保有期間が短い方が、過当性は認定され易い関係になります。その指標として、回転率というものがあります。

回転率は、顧客の資本(投資額)が証券取引で何回転したかという意味で、「証券取引口座の回転率=1年間の買付総額÷各月末の投資残高の単純平均」という形で求められます。

米国には「2-4-6ルール」があり、「年次回転率が2回を超えると過当売買の可能性が生じ、4回を超えると過当売買であるとの推定が働き、6回を超えると過当売買であるとみなされる」と言われています。

・ 過当取引の違法性要件

過当取引として違法であると評価される要件としては、①取引の過当性、②口座支配性、③顧客の被害に対する故意が挙げられています。

③顧客の被害に対する故意は、証券取引における顧客の勘定について支配を及ぼし、顧客の信頼を濫用して、手数料稼ぎ等の自己の利益を図るために、その口座の性格に照らして金額・回数において過当な取引を実行しようとする意思と言われています。

この証券会社の主観的要素の立証は、証券会社の手数料稼ぎの目的で、取引をさせたことを立証することになりますが、手数料稼ぎにノルマを課していたり、手数料獲得について各支店間で競争させていた場合は手数料稼ぎ目的を認定し得るとされています。また、著しく高い回転率、著しく頻繁な取引等の外形的事実があれば、それ自体が証券会社の著しく不合理な行為とされ、故意が認定され得るとされています。

②口座支配性は、証券会社が顧客の口座に対し支配影響力を行使したことをいいます。米国では、a 顧客の証券投資についての知識の有無と程度(知識が浅いほど口座支配が強くなる可能性がある。)、b 投資経験の有無と程度(投資経験が浅いほど証券会社の意見に左右される。)、c 顧客が証券会社においた信任の程度(証券会社を信用すればするほど、一任取引がなされ、顧客の意見が出なくなる。)、d 証券会社の推奨取引率の程度といった考慮要素から判定すると言われています。要するに、実質的に一任取引の状況に陥っていたのかという視点だと思います。

①取引の過当性は、その証券口座での売買数ないし売買金額が投資目的から見て過当であることをいいます。売買頻度が高く、売買額も大きければ証券会社の手数料額が増えますから、証券会社が自らの利益のため、手数料稼ぎのために売買をさせたと見られやすくなります。

・ 裁判例の現状

このように、過当取引という違法性は、取引が頻繁であれば、それだけで違法とされ得るものですが、実際の裁判では、そう単純ではありません。先に示した定義からも、「口座に対し支配を及ぼし」、「その顧客の証券会社への信頼を濫用して」、「証券会社の手数料稼ぎ等の利益を図るために」、「その口座の性格に照らして金額・回数において過当」でなければならないのです。

言い換えれば、実質的一任売買の状況に陥っており(口座支配、信頼の濫用)、手数料稼ぎ目的があるといえるような取引内容、そして、投資目的等からみて著しく相応しくない取引の頻回性が要件となっているのです。

取引の頻回性、すなわち、年次回転率だけからでは評価されないのです。

デイトレードという超短期売買を敢えて行う人もいますし、パソコンやスマートフォンの普及から、的確な情報収集を個人でも、設備と時間的余裕と操作能力があれば、できなくはないという世の中になっています。ですので、取引が多いからという理由だけでは、過当取引とは評価されにくくなっていると思います。

実際、平成7年7月24日の大阪地裁判決から令和3年1月20日の名古屋地裁判決までの44件の裁判例をみると、ここ10年は過当取引の違法を認めた裁判例の数も少なく、年次回転率は10を超えるもので占められています。また、10に満たない年次回転率で過当取引が認められた事案では、二人いる原告のうちの一人(家族)が高い年次回転率になっていたりします。

 

過当取引一覧表2022.1.11

 

実質的にみて一任売買の状況に陥っていたかどうかも、評価に影響すると思います。

では、どうしたら一任売買と同視できるといえるのでしょうか。

取引の手法や相場状況から、合理性を欠いた取引をさせられていた事実をいかに指摘し、主張・立証できるかにもよると思います。


1月 30 2022

■ 証券取引被害事件で、はじめにすること

・ 訴状の大切さ

投資に関係する損害賠償請求事件に携わっていると、訴状を完成させるまでのステップがとても大切だと思います。というのも、訴状の作成は、原告が裁判所に対して問題があると訴え、これから立証しようとする命題の設定であり、被告との議論の大枠を設定するものだからです。そして、「客殺し商法」が行われてきた商品先物取引被害やその流れをくむCFD取引被害、あるいは、投資を口実とした詐欺などと比べると、証券会社を相手方とする証券取引被害の場合は、違法とまではいえない取引なのか、違法と認定されるべき取引なのかという区別や、何をポイントに違法性を主張し、裁判所を説得していくかという見立てが、より一層大切になってきます。

 

・ 客観的事実の把握

心がけていることとして、株式や投資信託、債券といった金融商品の取引を問題とする場合、そもそも取引対象の商品がどのような特性をもつものなのかを把握することから始めます。また、こうした商品性の把握をした上で、何時、何を、いくらで、買ったのか・売ったのか、配当や利金が、何時、何から、いくら入ったのか、といった取引の客観的な内容をなるべく正確に把握するようにしています。先にコラムに書いた「1円問題」のように、裁判では客観的取引の内容については、原告被告の双方に争いがないことが理想です。

取引期間が長いと、こうした客観的取引の内容を把握するだけでも相当骨が折れますが、これをしっかりやっておかないと、取引の日時が食い違ったり、当該銘柄では結果的に利益になっていて「損害がない」のに、違法性の主張立証を散々やる羽目に陥りかねません。

裁判では、違法性=相当因果関係=損害という要件が必要ですので、結果として損害がなければ損害賠償請求は成り立ちません。ですので、客観的取引内容は、面倒でもキチンと整理・把握するようにしています。

また、問題点を把握するために、個別の商品ごとに値動きの状況や、相場変動の背景にある経済動向(価格変動要因など)などを調査するようにしています。こうして、客観的事実関係をしっかり把握することで、当事者ご本人でも気付かなかった(見過ごしていた)問題点を認識することもあります。

 

・ 損害(トータル・リターン)

詐欺被害の事案では詐欺の道具として受け取らされた配当金を損害額の計算で控除しないという判例もありますが、証券会社に対する損害賠償請求では、損害は、損益通算を加味した実損害とするのが一般的だと思います。いわゆるトータル・リターンです。式で表すと、「売却代金-買付代金+(保有期間中に受け取った利金・配当・分配金の合計)-負担した売買手数料等」といったイメージです。ここで保有期間中に受け取った利金・配当・分配金を考慮しないと、利金・配当・分配金の受け取りについてだけ取引の有効を前提とするようなことですから、「違法な勧誘行為が無かったならば被らなかったであろう損害」の賠償を求めることと矛盾してしまいます。

 

・ 事情聴取

取引の客観的内容を把握しながら、被害者ご本人から何が問題と思うのか聞いていきます。それに加えて、弁護士としての経験を踏まえて問題がないのか疑問に思ったことを聞いていきます。


1月 19 2022

■ 駆け出しの頃の証券取引の裁判の話

・ 客観的取引内容把握の苦労

初めて証券会社に対する損害賠償請求の相談を受けたのは、平成17年9月のことでした。まずもって面食らったのは、顧客勘定元帳の見方でした。受渡日、約定日、銘柄名とともに、数量、単価と借方金額、貸方金額が書かれ、最後に残高が0と並んでいるものです。特定の商品を買うと借方にその額が記載され、決済に充てられるMRFが貸方に記載されるという具合です。裁判で手数料稼ぎ目的が認められるには、手数料が分からなければならないのに、手数料を表示する欄がなく、途方に暮れたものでした。

しばらくして、数量・単価を掛け合わせたものと、入庫・出庫の欄に表示される金額に差があることを知り、逆算して、手数料や税相当額を認識することを知りました。こうして取引の始めから終わりまで、ソフトに入力したり、エクセルで表を作ってみたりと、何度も取引全体の一覧表を作って、取引損益や手数料額を把握して、訴状を作りました。

・ 商品性理解の苦労

当時は取引対象の商品がどのようなものであるか、ほとんど知識がない状態でしたので、一つずつ、それがどういう商品なのか、実質的投資対象が何であるのか、どのようなリスクがあるのかといったことを、目論見書やリーフレットを見ながら勉強していきました。

・ 1円問題

訴訟を提起してすぐ、比較的経験のある先輩弁護士に一緒に代理人になってもらい、議論をしながら事件を進めました。被告側から取引の具体的な内容、損益計算が出され、当方も取引の一覧表を再度チェックしましたが、食い違いが1箇所1円ズレていることがありました。原因は、外貨建取引の為替換算の四捨五入か切り捨てかによるものでした。

・ 尋問そして和解

担当者の証人尋問と原告の本人尋問を行いました。印象深かったのは、先輩弁護士が、ランド建商品の購入1年ほど前に、ランドの暴落があったことを追及した点です。また、私の質問では、担当者は提案すればほぼ受け入れてもらえたようなことを認めていました。尋問後、裁判所から実損の5割という和解勧告があり、双方応じる形で事件は終了しました。


11月 29 2021

■ 景気サイクル

・ 現在,コロナ禍の最中にあり,テレワークの普及など、生活様式が大きく変わりつつあると感じます。パソコンを使った会議のほか、AIの応用やドローンなど新たな技術が生み出され、社会が変わりつつあると感じます。

・ こうしたイノベーションによる変化は、予見しづらいものですが、投資する期間を考えるにあたっては、一般的に言われている景気サイクルの要因と長さを知っておくと、思惑が外れた際に、どれくらいの期間塩漬けにすることになるのか、その間会社は倒産せずに存続しそうなのかといったことを考えて、下手に損を確定しなくても済みますし、買う前にも、引き受けるリスクの内容や大きさを想起して、買うか・買わないかの判断の材料とすることが出来ます。

・ 景気には,短期,中期,長期のサイクルがあると言われています。短期の景気サイクルは、企業が需要に応じた水準に在庫をコントロールしようとして生産調整することによって発生する在庫循環を要因とするもので、1年半~3年半程度の周期と言われています。中期の景気サイクルは、設備投資を要因とすると考え、10年程度の周期とみる考えや、建設需要を要因とすると考え、15年~20年程度の周期とみる考えがあり、周期の長さや要因についていろいろな考え方があります。長期の景気サイクルは、イノベーション(創造的破壊)を要因とするもので、50年程度を周期とするものと言われてきました。

・ 前々回のコラムに示した中国の株価推移(2005年1月~2015年12月)のグラフをみると、2007年10月をピークとしたバブルの崩壊後、2008年10月のリーマン・ショックの頃まで下落が続き、2009年7月末まで上昇していきました。その後は、3000ポイント~2000ポイントの間を推移し、バブル始まりの1000ポイント台から比べれば高い位置ですが、2009年7月末の3500ポイントを超えるには2015年までの6年超の時間がかかっています。


9月 29 2021

■ 中国株式バブルの制度的要因(2007年秋~2008年)

・ これまでのコラムでは、バブルの生成や崩壊に、人々の期待が関わっていること、バブルの見分け方などについて触れました。

今回は、私が事件を担当した中で知った、外国政府の政策が株価へ影響したケースについて紹介したいと思います。

それは、中国で2005年に行われた株式分置改革と呼ばれる制度改革が、2007年秋~2008年にかけての中国株式市場のバブル崩壊に大きく影響したということです。

・ 中国企業の株式は,もともと流通株と非流通株の2種類があったのですが、株式分置改革と呼ばれる政策は、非流通株主が流通株主へ「対価」を払うことで、流通権を獲得できるようにするという改革です。2005年から本格的に実施され、2006年12月末までに、対象企業の98%が実施したと言われています。

そして、この株式分置改革を経て流通権を獲得した株式は、1年間は市場売買が出来ないとされ、その後も、総株数に対する持株比率によって市場売買可能な量が規制されていました。

・ すると、どうでしょうか? 2006年12月までに大半の中国企業で非流通株から流通株への転換が行われ、1年経過した2008年からは数量規制があるとはいえ、新たに大量の株式が市場に出回ってくることになります。

市場参加者が増加して,買いたいという人が増えれば、価格は上がる筈ですが,市場参加者の増加とともに,新たに流通権を獲得した株が市場に出回るようになり、取引対象の商品も増えていく訳ですから,需給の観点からは、供給が多ければ、株価は下げていくことになります。

こうした現象が起きたことは、需要と供給で価格が決定されるという経済原理を考え,かつ、その国の法制度とその実情を知っていれば,同時代であったとしても,株価下落の予見は出来る筈です。

・ 私が担当したのは、市場に商品(非流通株から流通権を獲得し、据置期間を満了した株式)が次々と発生し、その価格破壊が起き、暴落した後でさえ、株価が「バブル絶頂期の水準まで戻る」といった、およそあり得ないシナリオを前提に、勧誘していた事案でした。

こうしたことから、外国の債券や株式を買う際には、その国の社会制度・法制度、それから実際の経済の動き、経済への影響を知っていないと、思わぬ「落とし穴」もあるということです。


8月 26 2021

■ 外国の経済事情を掘り下げてみて(2007年頃の中国株式市場)

・ バブル爛熟期かどうかの見分け方として、「よくわかる景気の見方株価の読み方」(真壁昭夫著)によると、①金余り、②誰もが信じ込んでしまうほどの成長期待があること、③数年で株価が3~4倍となっていることが、参考とすべき指標として解説されています。そこで、中国株式市場でのかつてのバブルとその崩壊についてみていきたいと思います。

・ 平成17年から平成22年までの5年間について、上海総合指数の動きをみると、下のグラフのようになりました。終値で平成17年7月18日に1014.36ポイントであったのが、2年と経たない平成19年3月19日には3032.20ポイントに達し、約2年の間に3倍になっていました。さらに半年後の平成19年10月15日には6092.06ポイントと、6倍に達していました。

・ 同時期の日経平均株価の上がり方や、NYダウの上がり方と比較しても、中国株式市場の上がり方は特に急で、平成19年10月時点で、中国株式市場は爛熟期を迎えていたと言っても過言ではないでしょう。実際、2007年の中国政府の動きをみても、①年前半に利上げが2回、預金準備率の引き上げが5回も行われ、②5月30日には証券取引税が引き上げられ、③6月18日には、融資先の企業が株や不動産への投資に資金を流用したことにつき、審査や融資先管理の不備を問題として銀行8行が処分されています。

①の金利を引き上げるということは、借金をしにくくし、投資行動にブレーキをかける、②の証券取引税は、証券取引にかかる税負担を重くし、投資行動にブレーキをかける、③の銀行に対する処分は、銀行を介して調達された資金が投資に振り向けられることを抑制する、という意味があり、明らかに、株式市場の過熱を抑制する方向での政策がとられていたと言えます。

また、中国国外からも、中国株式市場のバブル崩壊を危惧する声があがっていました。例えば、2007年6月には、FRBグリーンスパン元議長が、中国株式市場のバブル崩壊リスクに言及していましたし、同年7月31日には、独立行政法人経済産業研究所が「中国における株価の高騰とその行方-警戒すべきバブルの膨張」と題したコラムを公表し、警鐘を鳴らしていました。

こうした外国証券の発行元である外国の経済情勢について、証券を売る立場の証券会社は、必ずしも分かり易く、正確に教えてくれるとは限りません。当時発行された経済レポートをみても、メガバンク系の経済レポートには、中国の日系現地法人に融資を行っているせいか、中国株式市場のバブル懸念が取り上げられているのに対し、証券会社が出していた経済レポートには、中国株式市場がバブルであるという話は、はっきり書かれていないようです。

・ 経済知識や、情報収集、分析の機器や能力を持たない個人投資家に、リスクを引き受けたとして自己責任を取らせるなら、「いけいけ、どんどん。」というプラスとなる側面の話ばかりでなく、自己責任原則の前提としてのリスクを取ることを理解させるためにも、ある程度の見込みがある話であれば、マイナスとなる側面についても、情報提供すべきではないかと思います。また、外国の証券に投資しようか考える際には、利率の高さだけでなく、その外国の経済情勢について「明るい」とか、十分に正確な情報を入手できるルートを確保しているか、という点も考慮したらよいと思います。


7月 21 2021

■ その国・その企業に特徴的な価格変動要因に関する情報は掴めていますか?

・ 日本の株式市場では、1990年の年初からバブル崩壊を経験しました。戦後復興の右肩上がりの経済から、人口減少に向かっている現在の横ばい(やや下降)の経済につながる大きな転換点だったと思います。

・ かつての日本がたどったように、経済成長(良い意味での物価上昇)の真っ只中にいる国に属する企業の株式や債券に投資することが、超低金利の日本と比較した場合、株価上昇や金利の高さなど、とても魅力的に見えてしまうものです。

しかし、立ち止まって考えてみましょう。

日常生活の中で、テレビのニュースで流れる情報は、全国版のニュースのほかに、地方版のニュースがあります。新聞でも同じです。私たちは、世の中の動きを、テレビのニュースや新聞を通じて、知ることになりますが、意識しておきたいのは、その過程には、想定された視聴者・読者を念頭に、重要度に応じて、限られた時間・紙面の中で、伝えられる情報が篩いにかけられているということです。これは外国のメディアでも同じだと思います。そうだとすると、ある国のメディアが重要だと判断して報道したニュースが、日本の報道機関の目にとまり、日本国内にニュースとして報道される、という過程があるため、自ずと外国で起きている事情の詳細に関する正確かつ即時の情報収集は、信頼できる現地駐在員でもいない限りは、困難だということになります。

・ 証券会社は、いろいろと外国の証券を販売していますが、証券会社が自己取引として行っているのと同じレベルでの情報提供や助言は期待しない方がよいと思います。

というのも、個々の営業担当従業員は、テレビや新聞の報道を頼りに、売るための好材料となる情報ばかりを話しがちだからです。

また、「テーマ営業」といわれる、成長することが期待される一定の筋書きの物語を伴った販売活動がされることもあります。そうした場合、一括りに抽象的に物語りされるため、その国特有の事情や、その企業特有の事情を踏まえて、本当に、物語どおりにいく期待がどれくらいなのか冷静に考えてみる必要があると思います。

・ 情報の質や即時性という観点から思うことを書きましたが、外国の証券を買うかどうかを検討する場合には、日本とその外国との「法制度の違い」も押さえておく必要があると思います。


6月 30 2021

■ 目先の高金利に惑わされないように

・ 名目上の金利が高くても、ビックマック指数のように、物価を基準として、その国の貨幣価値を測れば、等価である筈です。そして、等価で交換(為替取引によって円貨を外貨に替えること、為替の手数料は無視)した後は、その後の事象の発生により、為替レートは変化します。将来のある時点で、“円貨を外貨にした時と同じ為替レート”で、外貨を円貨に交換した場合、貨幣価値として等価である保証はありません。

日本は、世界有数の超低金利の国ですから、高金利通貨と低金利通貨との交換を考えると、時間が経過すればするほど、高金利通貨の方が高くなる、つまり、円高となる、というのが理論的結論です。しかし、そうならないのは、政治や経済など、誰も予想できない事象が起きるからなのですが、これが現実です。

・ 収益認識を円貨で行う人にとっては、外国のほうが一見利率が高くて良いように見えますが、円に替えようとした将来のある時期において、最初に外貨を買ったときより為替が円高ならば、せっかく高金利で得た外貨の利益も、円転したがために吹っ飛んでしまいます。

証券マンは、外貨建の商品を売ろうとする際、高金利であることを売り込みますが、“今と同じ為替水準が将来も続く”という仮定には、十分注意すべきです。

変動相場制であるため、為替相場は、動くもの、わが国が超低金利であるうちは、時間の経過とともに、円高になるのが理論的な結論であるということを押さえておきましょう。

・ インターネット上には、いろいろと過去の為替レートを表示しているサイトがあります。

外貨建の取引をする際には、目先の高金利だけではなく、過去の為替レートの動きも眺め、投資期間や将来外貨を円貨に戻すタイミングなども検討しておく必要があります。

証券マンによっては、ある商品の償還や売却で外貨を受け取る時に、円に戻すと確定してしまう為替差損を表面化させないために、同じ外貨建の商品を勧めてくることもあります。その場合にも、為替の動きと円に戻すタイミングをよく考える必要があります。

なお、とくに商品を買う予定はないという場合には、為替差損を確定させないでおく方法として、リスクの小さいMMFあるいは外貨預金といった形で、“外貨のまま持っておく”という選択肢もあります。外貨MMF等の取り扱いのない外貨もありますので、外貨建商品を買う際には、外貨MMFの取り扱いの有無も注意する必要があると思います。


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