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8月 20 2017

■ 外れることを予測する!?(オプション取引に関する専門的な基礎知識②)

・テール・リスクとは

平成29年8月6日の日経新聞には,7月の調査で米国債券市場に関わる3割の機関投資家が「テール・リスク」を心配していると報じられていました。

この「テール・リスク」とは,市場の大きな変動というリスクで,ファット・テールとも呼ばれます。

金融工学(証券投資理論)の世界では,値動きの激しさを,ボラティリティーとして捉え,価格変化率の大きさは対数正規分布に類似すると仮定されています。そして,大まかにいえば,大数の法則により,値動きの発生確率を(対数)正規分布の形に従う確率分布として捉えることができると仮定されてはいるものの,実際の相場では,平均(標準偏差=ボラティリティ=σ=1)から極端に離れた事象が発生する確率が,正規分布の形(釣り鐘型のカーブ)が示す確率より高くなっていることが知られています。こうした現象のことを,ファット・テールというのです。

東日本大震災クラスの地震は,100年に1度発生します。これと似ているのです。

 

・ファット・テールの実際

では,実際の日経平均株価の動きからファット・テールをみてみましょう。

日経225頻度

上のグラフは,前回のコラムで取り上げた平成19年1月から平成23年4月の日経平均株価終値の1日あたりの騰落(幅)を,発生の頻度ごとに示したヒストグラムです。結果は,だいたい正規分布に似た形となり,理論と現実が大きく異ならないことが,このヒストグラムからもお分かりになるかと思います。

さて,株価の騰落の発生(確率)が正規分布なら,無限大(∞)にも,その逆(-∞)にも,同様になだらかに0に近づいていく筈です。ですが,実際には,上記ヒストグラムをよくみるとお分かりいただけるように,0に近づきながらも,0ではない数値が発生し正規分布のカーブより上に飛び出た部分があります。このように,現実世界の株価の騰落(幅)の発生の仕方は,左右対称ではないのです。上の図に赤丸で示したように,1日で600ポイントを上回る上げ幅はほとんど発生していないのに対し,1日で600ポイントを上回る下げ幅はしばしば発生しているのです。

 

・背景の投資家心理

この相場の上昇(幅)より下落(幅)の方が発生し易いという現象は,取り付け騒ぎなどを想像すれば分かるように,人間の心理・行動を反映した結果です。このように,実際の株価の動きを統計的にみても,急激な相場の下落が,数年に一度の割合で発生することが分かります。

 

・万一への備え

機関投資家(プロ投資家)は,急激な相場の下落が,数年に一度の割合でほぼ確実に発生すること(ファット・テール)を知った上で,オプション取引などのデリバティブを使ったヘッジを行っています。投資に失敗したときに備え,いわばセーフティーネットを準備しているのです。

 

・司法は金融資本市場の実務・理論に耳を傾けるか?…司法の公正性

来る9月に,最高裁(司法研修所)がデリバティブに関する研究成果を書籍にまとめるそうです。その内容はみておりませんが,私のこれまでの裁判での経験では,原告側代理人として,金融工学を含む証券理論に基づく主張をしても,被告証券会社側から「理論に過ぎない」とか「仮定に過ぎない」などといった批判を受けると,それ以上,裁判所が取り合ってくれないことがしばしばありました。裁判官には,このような専門的な基礎知識(証券投資の最前線に用いられている確率や統計的手法)についても,一般の交通事故の事件に古典的な物理法則を適用しているのと同じように,最高裁の研究成果の出版物を踏まえて,耳を傾けてもらいたいと思います。


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