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10月 13th, 2016

10月 13 2016

■ 敗訴判決の乗り越え方

・弁護士は商売上,どれだけ判決で敗訴したかは言いたがりません。研究会でも,勝った判決の報告がメインとなっています。

・でも,実際の事件処理の中では,被告側から敗訴判決がどっさり出てくることがあります(もし,私の関与した事件の敗訴判決が提出されて困っているという顧客側代理人の弁護士さんがいたら,すみませんでした,と予め謝っておきます。・・・個別に連絡下されば,その敗訴判決の乗り越え方の相談に応じます。)。

・さて,このコラムで継続的に紹介している商品先物取引被害の事案では,被告業者側から,東京地裁平成14年10月28日判決が,顧客側敗訴の裁判例として証拠提出されました。

ですが,次に解説するとおり,やり方次第では,勝てていたかも知れない事案と思われるのです。というのも,
「オ 原告は,平成9年11月6日及び同月11日,米国産大豆をそれぞれ150枚,90枚売建をした。これは,大豆の値段が下落することを予測していわゆるナンピン売りしたものである。(乙8の1,同24,被告Y3【29,30頁】)」
と事実認定されていたのですが,これが全く問題視されていないのです(おそらくは業者側の主張どおりの認定になっているものと推測されます。)。

・当コラムをお読みいただいている人にはもうお分かりかも知れませんが,「深掘り」が足りないまま判決されてしまっているのです。

つまり,平成9年当時も,シカゴ(CBOT)の商品先物相場が東京の商品先物(穀物)相場に大きく影響していて,シカゴ(CBOT)の価格形成に影響する米国農務省が公表している穀物等需給報告を調べれば,業者が合理的に予想される値動きに反した推奨を行ったと指摘できる筈です。

・図書館で調べてきた1996-97穀物年度,1997-98穀物年度の大豆,小麦,トウモロコシの期末在庫等の推移をグラフにすると次のとおりとなりました。

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・上のグラフにある1997-98穀物年度の大豆の期末在庫の2億7000万ブッシェルから2億5500万ブッシェルへの下方修正という情報は,米国農務省が平成9年11月10日(米国時間)に公表しています。日本との時差を考慮すると,事案の先物業者は,日本時間の11月11日午前9時の前場開始前に,そのことを知っている筈です。

・ですから,「深掘り」すれば,11月11日に,既に在庫が下方修正されて合理的に値上がりが予想されている大豆について,買ではなく,逆に,売を勧めたことは,委託者の利益より反対ポジションの自己玉の利益を優先させた不合理な勧誘であると指摘できたと推測されます。

・ただ,このような専門知識を平均的な裁判官が理解して判決書に書けるとは限りません。原告代理人の努力が実るといっているのではなく,もう少し深掘りすると,委託者は被害者だと確信が持てるのです。


10月 13 2016

■ 負け判決と勝ち判決の差(深掘り)

・裁判では,原告側,被告側ともに,過去の裁判例を引き合いに出して,その事案がどう判断されるべきか,という法律上の主張合戦が行われます。当然,原告側は勝訴の裁判例を,被告側は敗訴の裁判例を裁判所に提出することになります。

・ここで,何が勝敗を分かつかというと,①過去の裁判例が示した規範は時代遅れになっている,②過去の裁判例と今回争われている事案とは,主張立証の緻密性と正確性が違う,という2点です。

・①の時代にそぐわないよという主張は,我が国では,最高裁の判断により,判例法の統一がなされる制度になっていますから,下級審裁判所は,最高裁が示した判断枠組みの中でいかに個別の事案に相応しい結論に仕立てるかという考慮が働いていることを乗り越える意識の表れです。最高裁の判例も変わります。

・②の事案が異なると指摘して,過去の裁判例との違いを指摘するのは,どうでしょうか?
一般に,顧客(投資家側)の属性は,適合性原則や説明義務といった違法性の判断の上で,重要な要素と位置づけられています。ですので,この人は,こういう人だから,その人について判断した裁判例とは違うんだ,と指摘する主張は簡単ですし,説得力もそれなりにあります。

・さらに,顧客属性が同じような裁判例が出てきた場合,どうすればよいのでしょうか?
答えは,「深掘り」です。
裁判例において,どのような主張立証がなされ,裁判所がどのように判断を下したかを検証することです。なぜなら,投資取引被害の分野では,金融とITのイノベーションが指摘されているように,情報化や技術革新が日進月歩であり,裁判をおこす原告側代理人の金融分野における知識や理解力に応じ,主張立証の程度にも「バラツキ」が生じているのが現状です。また,判断者たる裁判所も,原告と被告の主張立証を前提としますし,時として,誤解をしたまま判断を下してしまっている,と見受けられることもあるのです。

・裁判所が判決として示す法規範を前提に仕事しているのが我々法律家です。敗訴判決のどこがどう修正されていれば,勝てていたのかという分析と報告を期待して,経験の浅い弁護士に「敗訴判決」の分析・報告をしてもらうと,決まって,この判決の示した法的規範は,こうこうで敗けています,といった具合の浅いものとなりがちです。これでは,報告者も,聞いている人も,何の勉強にもなりません。

・次回のコラムでは,「師匠」からは「法律家ではない」とお墨付きを得ている私が,僭越ながら,具体的に乗り越え方をお示しいたします。


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