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商品先物取引被害の救済

10月 13 2016

■ 敗訴判決の乗り越え方

・弁護士は商売上,どれだけ判決で敗訴したかは言いたがりません。研究会でも,勝った判決の報告がメインとなっています。

・でも,実際の事件処理の中では,被告側から敗訴判決がどっさり出てくることがあります(もし,私の関与した事件の敗訴判決が提出されて困っているという顧客側代理人の弁護士さんがいたら,すみませんでした,と予め謝っておきます。・・・個別に連絡下されば,その敗訴判決の乗り越え方の相談に応じます。)。

・さて,このコラムで継続的に紹介している商品先物取引被害の事案では,被告業者側から,東京地裁平成14年10月28日判決が,顧客側敗訴の裁判例として証拠提出されました。

ですが,次に解説するとおり,やり方次第では,勝てていたかも知れない事案と思われるのです。というのも,
「オ 原告は,平成9年11月6日及び同月11日,米国産大豆をそれぞれ150枚,90枚売建をした。これは,大豆の値段が下落することを予測していわゆるナンピン売りしたものである。(乙8の1,同24,被告Y3【29,30頁】)」
と事実認定されていたのですが,これが全く問題視されていないのです(おそらくは業者側の主張どおりの認定になっているものと推測されます。)。

・当コラムをお読みいただいている人にはもうお分かりかも知れませんが,「深掘り」が足りないまま判決されてしまっているのです。

つまり,平成9年当時も,シカゴ(CBOT)の商品先物相場が東京の商品先物(穀物)相場に大きく影響していて,シカゴ(CBOT)の価格形成に影響する米国農務省が公表している穀物等需給報告を調べれば,業者が合理的に予想される値動きに反した推奨を行ったと指摘できる筈です。

・図書館で調べてきた1996-97穀物年度,1997-98穀物年度の大豆,小麦,トウモロコシの期末在庫等の推移をグラフにすると次のとおりとなりました。

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・上のグラフにある1997-98穀物年度の大豆の期末在庫の2億7000万ブッシェルから2億5500万ブッシェルへの下方修正という情報は,米国農務省が平成9年11月10日(米国時間)に公表しています。日本との時差を考慮すると,事案の先物業者は,日本時間の11月11日午前9時の前場開始前に,そのことを知っている筈です。

・ですから,「深掘り」すれば,11月11日に,既に在庫が下方修正されて合理的に値上がりが予想されている大豆について,買ではなく,逆に,売を勧めたことは,委託者の利益より反対ポジションの自己玉の利益を優先させた不合理な勧誘であると指摘できたと推測されます。

・ただ,このような専門知識を平均的な裁判官が理解して判決書に書けるとは限りません。原告代理人の努力が実るといっているのではなく,もう少し深掘りすると,委託者は被害者だと確信が持てるのです。


10月 11 2016

■ 「深掘り」をしましょう(輸入トウモロコシの代金の半分は海上運賃です)

・最近,しばらく当コラムを書いていなかったので,一部のコアなファン(といっても,師匠と我が細君ですが…。)から「書け!」とのお声が挙がっていますので,しばらくぶりに書きます(本当は,英国のEU離脱のときに,蒸発した金額が幾らなのか少し準備をしましたが,忙しさにかまけて,お流れになってしまいました…。)。

・さて,タイトルは,日銀がマイナス金利政策を導入してもなお量的緩和を続けてきたことを修正し,誘導目標を長期金利に変えたことに対する金融業界の反応を表現した新聞見出しをもじっています。

・今回,ご紹介するのは,当コラムに掲載しました農産物(大豆とトウモロコシ)の商品先物取引被害(平成19年から20年にかけての期近と期先の限月スプレッドまがい)の続報です。

・平成28年3月24日掲載のコラムで紹介しましたように,その事案で業者が背信的な推奨を行ったといえる根拠として,合理的に見込まれる値上がり幅に違いがあり,それは,米国から輸入する際の「海上運賃の高騰」,すなわち「原油価格の高騰」による影響が大きいと指摘しました。

・その後,さらに研究を進め「深掘り」していくと,①事件当時の東京穀物取引所の米国産トウモロコシの価格に占める海上運賃の割合が約50%を占めていること,②船会社の提示する基本運賃,割増運賃(Additional Rate=Surcharge)の中で,大きな割合を占めるのが,FAF(Fuel Adjustment Factor,船舶用燃料の価格変動が生じた際に、その一部を荷主に負担してもらうためのサーチャージのこと)であり,③その改訂頻度や,④飼料として輸入している需要家は船賃の動向を含めて,飼料穀物輸入価格の変動要因を注視していることなどが指摘でき,当方の主張が正しいことの補強材料を提示することができました。興味のある方は,次の表で検証してみて下さい。

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・トウモロコシは1トン当たりの値段が大豆の約半分です。そのため,海上運賃の高騰が大豆より直接的に影響するのです。わずか2か月先のトウモロコシの値段が目立って値上がりしてしまったのです。

・裁判の世界では,社会で起きている様々の事象,人間の行動を,いかに必要十分な範囲で,要点よく分かり易く提示できるかに,説得力ある書面を書けるかのポイントがあると思います。そのためには,一つ一つの事件に対し,丁寧に研究し「深掘り」していくことが大切だと思います。


4月 14 2016

■ 管理部のお役目は?

・各社ごとに詳細は多少異なるのでしょうが,商品先物取引業者には,きまって営業を担当する部署と,営業部署の行き過ぎがないかチェックする部署があります。先物取引業者には,口座開設時や投資可能資金額の増額の際に,顧客の資力・資金の適格性(適合性)を審査する管理部と,一般的な会社にもあるようなコンプライアンス体制を作って守らせてゆく部署があります。

・管理部が,適合性審査を形骸化させていて,営業の違法勧誘を助長していたような場合には,管理部担当の従業員であっても,適合性原則違反を認めた判決として名古屋地方裁判所平成24年5月31日判決があります。
同判決は,いわく,「被告Tの上記調査は,①Aが申告した流動資産に客観的な裏付けがあるか否かを調査することなく,面談時の主観に頼った判断をするにとどまっていた点,②AがN商品との取引により被っていた損失の規模(本件取引開始当時,既に約1656万円)とAの自己資金との関係を吟味しなかった点において,不十分であったといわざるを得ない。」「被告Tは,本件取引開始当時,被告会社の管理部の責任者であったところ,Aと直接に面談して資産の調査を実際に行った者であり,本件委員会の審査も被告Tの調査結果を踏まえて行われていたことは前記認定のとおりである。このように,被告Tは,Aに対して取引の勧誘と受託を行った者ではないものの,本件取引の継続につき直接の影響を与えた者であり,その判断に基づいて本件取引が継続されたと評価し得ることからすると,被告Tについても,適合性原則違反にかかる不法行為責任が生じるものというべきである」と,管理部の責任者に対し,取引の継続について直接の影響を与えたことを根拠に,適合性原則違反の責任を認定しています。

・また,商品先物取引業者の社内規則には,管理部の職務,権限として,顧客の適合性審査に留まらず,営業の法令,諸規則の遵守の指導,監督や,顧客の取引内容の分析,取引内容に異常な兆候が認められた場合に適切な措置をとることなどがうたわれています。このように商品先物業者の管理部には,顧客の取引内容や資金力などを観察し,営業の行き過ぎを防止する役割が期待されているのだといえます。

・このコラムでも紹介しました,力強く値上がりしている相場状況が長らく続いているのに,売を放置して,売を決済するまでの間に,利益の少ない建て落ちを短期間に繰り返し行わせる営業を放置した管理部は,明らかな因果玉の放置と頻回売買をチェックすべき立場にいながら,それをしなかったのですから,職務懈怠といえるでしょう?


4月 08 2016

■ 管理部・・・かつての名を「特別班」

・今回は,適合性原則等の遵守を履行させるために,商品先物業者の内部に設置されている「管理部」の歴史をたどってみましょう。

・昭和30年代半ばころ,主婦や高齢者を狙った訪問勧誘で,商品先物取引という仕組みを悪用してお金を取って行ってしまう被害が九州でおこり,その後,こうした営業手法が全国的に広がりました。先物取引をしたが故に全財産を失い多額の借金まで負わされて,自殺に追い込まれてしまう被害者も少なくありませんでした。

特別担当班と呼ばれていた,いわゆる管理部は,昭和53年に,主務省の指導で各社に必ず設置されるようになりました。業者団体である全国商品取引員協会は,新規取引不適格者参入防止協定,新規委託者保護管理協定,新規委託者管理改善特別措置基準といった協定を結び,各社は新規委託者保護管理規則という社内規則を設けるようになりました。監督的な立場にあった全国商品取引所連合会は,各社向けに,「受託業務指導基準」を定め,その中で,特別担当班の職務と統括責任者の職務がうたわれています。

・この受託業務指導基準には,特別班の職務として,①受託に先立ってあらかじめ委託者の適格性等を精査確認すること,③毎月1回以上売買内容を精査し,その結果に基づき必要な事項は担当外務員に対し,指導又は指示を行うとともに,その内容を記録整理すること,④上記に係る記録については,責任者が点検し,所見等を記入し,その写しを統括責任者に送付することが挙げられていました。

・そして,受託業務指導基準は,(注解)として,①に関しては,「c 高令者,女性,常時連絡のできない者及び経済的な知識又は理解力に乏しい者等については,安易に認定することのないよう,その適格性を十分精査すること。」と,わざわざ「経済的な知識」や「理解力」が乏しい人を安易に認定してはならないと述べています。
ここでは,商品先物取引が,流通や生産に関する特定の分野に携わる当業者といった業界内部者(専門家)として,勧誘の相手方が,業界内部者と同じように「経済的な知識」を十分に備えているかどうか審査をしなさいというものですから,本来の意味からすれば,とても厳しい基準だといえるでしょう。

・受託業務指導基準の③に関する(注解)では,「精査の内容は,所定の項目のほか,常時両建の有無,利益金の支払い状況,売買の頻度等について留意すること。」と書かれています。常に両建になっている取引があるかどうかという観点は,片建であったときに抱えた評価損を固定するだけの意味しかなく,顧客がそのことを分かってやっているのか,あるいは,このコラムでも紹介しましたが,限月間の価格差に着眼したスプレッド取引や,類似商品間の価格差に着眼したサヤ取り取引があれば,経済的な知識に裏付けられた理解を伴って行われているか否かなどに重点を置いて,月に1度は確認精査しなさいということなのです。
また,利益金の支払い状況や売買の頻度について重点を置いて確認精査しなさいということは,外務員が顧客の利殖をちゃんと優先しているかをチェックするためです。というのも,顧客が取引益を積み重ねても,業者が自己の収入を優先して,顧客の取引益金を証拠金として預り続けて取引を拡大するように仕向けたり(利乗せ),証拠金として預り続けて取引を繰り返し行わせれば(証拠金はいずれ)手数料に転化するのですから,顧客の利殖よりも業者の収入が優先されて,顧客は単なる資金提供者でしかなくなってしまうのです。

・このように現在置かれている管理部の前身である特別班では,顧客の取引状況をチェックして,建前としては,顧客をないがしろにして,外務員が自分の営業成績を上げようとしたり,会社(商品先物取引業者)の収入を優先しようとしたことが疑われる場合には,外務員を指導・指示して是正すること(とその記録化)が職責とされていたのです。


3月 24 2016

■ 期先の上昇幅が期近よりも大となる理由

・さて,平成19年~20年にかけての穀物相場は概して値上がり基調だったことは前々回までに解説しました。では,期先と期近では,どちらの値上がりの方が勢いがあったか?ヒントは,すでに当コラムに出かかっています。

・そう,先物の理論価格として紹介したように,商品の保管等にかかるコストの影響です。具体的には,平成19年当時は,OPECが減産し,原油が高騰し,ガソリンや灯油が,とても値上がりしていました。当然,米国のシカゴで取引され船積みされて日本の港に到着するまでに,ばら積み船が消費する燃料(重油)も高騰していたのです。

・船賃が高騰している最中では,東京穀物取引所で取引される穀物価格も,次のグラフのように,平成20年1月ころから期近よりも期先の方が高値になる現象がおきます。そして,同年2月にはいると,明らかに期先が著しく高くなります。

東京トウモロコシ

・ちなみに,同時期のシカゴの相場では,期先の上昇幅が期近の上昇幅より大きくなるという現象は起きていません。

CBOTトウモロコシ

・このように,原油高を背景として,期近よりも期先の値上がり幅が大きくなった相場状況では,サヤ取り(スプレッド)をするなら,「期先を買って,期近を売る」のが合理的です。ところが,2月19日のコラムの【次の次の図】のように,逆に,「期先を売って,期近を買う」ようにと勧めてくる業者がいたのです。


3月 14 2016

■ サヤ取り

・同じ商品で,売と買を同時に建てて,同時に落とすという取引手法をする場合には,どういった点を注意すべきでしょうか?

・法律家である皆さんは,きっと「両建」だ,だから違法だ,と思われるかも知れません。でも,同時建て落ちで全面禁止とされているのは,同一限月・同一数量の両建の場合に限られますよね。
「8 商品市場における取引等につき,顧客に対し,特定の上場商品構成物品等の売付け又は買付けその他これに準ずる取引とこれらの取引と対当する取引(これらの取引から生じ得る損失を減少させる取引をいう。)の数量及び期限を同一にすることを勧めること。」(商品取引所法(平成21年改正前)214条8号)

・異限月両建の場合は,「原則禁止」であり,全面的な禁止ではありません。
「9 商品市場における取引等につき,特定の上場商品構成物品等の売付け又は買付けその他これに準ずる取引等と対当する取引等(これらの取引等から生じ得る損失を減少させる取引をいう。)であってこれらの取引と数量又は期限を同一にしないものの委託を,その取引等を理解していない顧客から受けること。」(同法施行規則103条9号)
異限月両建は,「意味を理解した委託者」であれば,禁止されるとはいえないのです。

・こうした両建・両落しの取引は,古くからサヤ取り(裁定取引)の一つとして,行われている手法です。サヤ取りには,どのような種類の価格差(の伸縮)を対象とするかによって,①同一商品の異市場間サヤ取り(アービトラージ),②類似商品間のサヤ取り(ストラドル),③同一商品同一市場の異限月間サヤ取り(スプレッド),④同一商品の現物・先物市場間のサヤ取りなどがあります。
サヤ取りという手法が合理的に妥当するような相場状況であって,その建て落ちの意味を理解している人に対してまでも,違法視する必要はないから,異限月両建ては,法律上,上記のような「制限」に留められているのです。とすれば,逆に,サヤ取りの手法を採ることが合理的だといえるような相場状況にあり,かつ,その意味を委託者が理解しているということまで言えなければ,適法とはならない筈なのです。


3月 06 2016

■ たかが数%,されど数%

・米国農家の作付意向といった生産動向が農産物の供給に影響するということは,先のコラムで解説しました。今度は,需要の方を見ていきましょう。平成19年~20年当時,最も影響力が強かった需要家は,どこの国でしょうか? ・・・答えは,中国です。

・昨年8月下旬は,中国ショックがありましたが,わが国において「爆買」という言葉は2014年頃から定着しつつありました。私たちの研究対象であった平成19年(2007年)は,中国が農産物輸出国から輸入国に転じつつある時期であったかと思います。ちょうど,かつての日本が,明治維新を経て,スキヤキを食べるようになったと同じように,中国でも食生活の欧米化が浸透し,(牛)肉食が普及していったのです。人口比だけをとっても,日本の13倍ですから,影響の度合いはすごいものでしょう。日本の商社が牛肉や刺身(のもととなる鮮魚)などを中国人バイヤーにもっていかれてしまうことを取り上げたドキュメンタリー番組などを見たことがあります。中国のみならず,インドや東南アジア諸国でも,食の欧米化は浸透しつつあり,小麦や牛肉(飼料としての大豆やトウモロコシ)の需要はとても旺盛となっていたといえましょう。

・再び,供給側に目を向けると,平成19年当時,オーストラリアの2年連続の大規模な干ばつの影響が残っていました(豪州の小麦生産量は,当初見通しと比較して,2006年には約6割減,2007年には約4割減。)。また,2007年は,ウクライナで干ばつ,欧州東部で熱波,欧州北西部で大雨が発生し,穀物生産量は減少していました。オーストラリアやウクライナといった小麦生産地域で不作が続いていた状況の中では,農産物(穀物)は概して値上がりするだろうと見込まれるでしょう?

・では,平成19年当時,小麦,大豆,トウモロコシの3品を比較して,どれが一番値上がりしそうだと思いますか? バイオエタノール需要からトウモロコシの作付に乗り換える農家が増えて,干ばつの影響で品薄となった小麦を作ろうとする動きが出て,農地がほぼ一定のアメリカでは,大豆を作ろうとする農家が減り,大豆の品薄が予想されます。

・そして需要家の動向からしても,トウモロコシや大豆の需要が伸びています。値が一番上がり易いのは,大豆とトウモロコシのうち,大豆だったのです。それは,米国農務省の穀物等需給報告にある在庫量をみると納得です。
平成19年8月から平成20年2月にかけての小麦,大豆,トウモロコシの統計をみると,次のとおり,大豆の期末在庫量は,前年度比で,▲20.0%,▲20.2%,▲19.4%,▲20.5%,▲22.6%,▲24.9%,▲25.7%と,マイナスが20%を上回る水準で推移しています。

在庫量推移

・たかが20%と思われるかも知れませんが,実は,とても逼迫した状態だといえるのです。スケール感を出すために,たとえるなら,100%でぎりぎり100日分のご飯が作れる量を表すとすると,この▲20%というのは,80日分のご飯しか作れないのです。健康を維持するにぎりぎりの量という前提で80日分しかないのですから,不足する20日で健康を害することになります。
わが国の主食はコメなので,コメの作況指数のスケールを紹介しましょう。これは,10a(アール)当たりの平年収量(平年値)を100とした場合の当該年度産の収量を表す指数です。指数の意味は,106以上が良,102~105がやや良,99~101は平年並み,95~98でやや不良,94~91は不良,90以下は著しい不良と区分されています。ここで平年並みとされる範囲はわずか3%しかありません。これで▲20%という前年比在庫率がいかにインパクトのあるものなのか,おわかりいただけたでしょうか?
コメの不作で平成のはじめ頃,政府がタイ米を緊急輸入したことやタイ米がパサパサだったことを覚えている人もいるでしょう。食糧はわずかな減産が直ちに価格にひびくのです。
上記表のように,小麦やトウモロコシはそれほどでもないのに,大豆の逼迫は著しい。当然,小麦やトウモロコシの値上がりよりも,大豆の値上がりの方が強烈になります。しかも,その兆しは,グラフを見るとはっきり理解できるように,平成19年夏ころから現れています。この兆候は,専門的な知識のある当業者なら分かるでしょう。

・前々回のコラムで,【次の図】として,大豆を売らせた背信的な勧誘と指摘した意味がおわかりにいただけるかと思います。


2月 26 2016

■ 小麦ととうもろこしと大豆の価格の関係は?

・タイトルに掲げた農産物は,いずれも国際商品であり,相場の指標を形成しているのは,米国のシカゴ商品取引所(Chicago Board of Trade)です。そこでは,主に米国産の穀物が取引されています。

・小麦やとうもろこし,大豆の産地は,米国の中西部に広がる穀倉地帯であり,農地の開発は終わってますから,一定の農地面積を,競合する作物で配分していると考えてもよいでしょう。そして,農地を何の作付に割り当てるかは,年によって変動があります。

・農家が今年は何を作付けしようかと考えるとき,儲けが気になりますよね?
今では,米国シェールガス開発の進展後の過剰供給や,サウジアラビアの財政難を背景とした原油産出量の維持,イランの制裁解除による原油輸出量の増加など,原油価格が低迷していますので,想像し難いことかも知れませんが,平成19年当時は,原油価格は高騰し,シェールガス開発も進展しておらず,むしろ環境保護の観点から,米国は,バイオエタノールの使用量を法律で数値目標を定めようとしていた時期でもありました。
そのような社会情勢の中,例えば,バイオエタノール需要が伸びて,高値でとうもろこしが売れると思えば,とうもろこし農家が増えます。すると,大豆や小麦を作付けする農家が減り,その年の大豆や小麦の生産が減少します。商品が少なくなれば,高い値段であっても買いたいという人が出てきますので,大豆や小麦の値段も上がります。逆に,とうもろこしが生産過剰で安くしか売れなくなってくれば,小麦や大豆を作ろうという農家の動きにつながります。

・要は,農家にとって強い動機がある作物が作付面積を拡大し,そのほかの作物は追いやられる。そのため,不作・豊作を無視しても,追いやられた作物は数が少なくなるから値上がりする傾向がある,ということがいえます。

・こうした需給バランス,とくに在庫量が,CBOTでの先物価格形成に影響を及ぼしています。なお,米国農務省は穀物等需給報告を毎月発表していますし,わが国の農林水産省も,毎月,米国農務省の穀物等需給報告に解説を加えて公表しています。N本経済新聞でも,米国穀物需給報告は毎月10日前後に掲載されています。


2月 19 2016

■ 壮大な背信行為の主張・立証

・当コラムは,今回からしばらくの間,業者による,農産物の価格形成要因を逆手にとった,背信的な推奨・勧誘がなされた商品先物被害事案を題材に,私たちの研究成果を分かり易く解説していく予定です。

・これからこのコラムに数回に分けて解説していく予定の研究成果は,N刊工業新聞,N本経済新聞などの記事を,事件に携わった複数の弁護士が,手分けして,小まめに読み,事件の当時の政治・経済状況がどのようなものであったかを把握・理解して,そして,権威のありそうな論文を探し当てて,主張・立証しています。ですので,商品先物取引の被害事件や証券取引の被害事件に,被害者側代理人弁護士として携わられる際には,地道な作業も厭わずにやるという粘り腰も必要な資質だと心得ておくべきでありましょう。

・さて,問題とした業者の違法勧誘は,現象面でいうと,どのようなものであったか?
一つは,【次の図】のように,業者は,平成19年秋に東穀の大豆(N大豆,一般大豆)の売を建てさせて,放置し(全玉決済するまでの間に順次損切り決済をしながら,別に建て落ちを繰り返えさせる)ほぼ確実に大きな損失を被らせることができた点。
もう一つは,【次の次の図】のように,売と買を同時に建てて,同時に落とすという取引手法で,ほぼ確実に委託者に損失を被らせることができた点,の2点にあります。

・上記主張・立証の結論は,予備知識がないと,直ちには理解が難しいと思いますので,次回以降は,分かり易く,農産物の価格形成要因と平成19年~20年初頭にかけての経済情勢を踏まえた「カラクリ」を順次解説していきますので,ご安心下さい。

【次の図】

大豆相場の逆

【次の次の図】

トウモロコシ相場グラフ(スプレッド悪用)


2月 14 2016

■ 大陸移動説(海外経由の隠された向かい玉)

・ヴェーゲナーさんという人は,1912年に,平たく言えば,世界地図をつなぎ合わせると形が一致することや,海を越えて渡ることができない生物の化石の離れた分布などから,昔は大陸がつながっていたという,大陸移動説を公表しましたが,長く受け入れられませんでした。今回のコラム・タイトルは,この「形が似ている」という着眼点と分析にあやかっています。

・売り買いの差額で利益を得ようとすると,安いときに買って高くなったら売る(転売する)という方法が,日常生活で行う買い物の延長で,まず思い浮かびますよね。同じように,商品先物取引の世界でも,個人を勧誘して受託する商品取引員(専業型商品取引員)では普通,買の取組高の方が売の取組高より数倍多くなります。

・リーマン・ショックが発生した9月15日を含む,平成20年6月~10月の期間について,1限月300枚以上の取組高がある業者という条件で抽出すると76社あり,さらに,買取組高が売取組高より多い業者という条件で絞り込むと32社で,この32社は,専業型商品取引員だと推測がつきます。
自社の顧客に向かう反対ポジションである売取組高を持てば,リーマン・ショックで値が下がった際に,損失を確定していく委託者の損を自社の益として取り込むことになります。しかし,あからさまな向かい玉は,行政処分の対象とされ,また,民事裁判でも違法とされる判決が出ていましたので,実質的に自己の売取組高であっても,他業者の取組高とみえるように工夫する必要があります。そこで,別の商品取引員に,取り次ぎをしてもらうことが考えられます。

・1限月300枚以上の取組高のある76社のうち,買の取組高はほとんど無く,明らかに売の取組高が多い業者は7社あり,商社を除くと,投資銀行2社であることまで分かりました。この2社の取組の中に,向かい玉が隠されていると考えられます。そして,向かい玉であるならば,委託玉が損を確定して仕切られると同時に,向かい玉は益を確定させて仕切られる,といえます。

・買の取組高が多い32社の取組高と,売の取組高に偏っている7社(うち5社は商社)の時点ごとの取組高は,次のグラフのとおりです。

大陸移動説グラフ②(買の損の転化)

・平成20年7月から10月末までの約4か月間に,リーマン・ショックの影響で,金の価格は(上下はありますが)大きく下落しました(1000円,約3分の1)。
上のグラフで赤線で示された買の取組高の多い32社の買取組高は,約16万枚(7月1日)から約6万枚(10月31日)まで,4か月間で約10万枚減少しました。これに対し,上のグラフで水色で示された買の取組高の多い32社の売取組高は,4万枚前後で横ばいに推移しています。
この違いは,値下がりの状況ですから,売建玉は評価益を抱えて追加の証拠金は要らず仕切る必要がないのに対し,買建玉は評価損を抱えて,一般の委託者が,追加資金を入金できなくなり取引を仕切っていったからだと考えられます。

・注目すべきは,上のグラフで青線で示された売の取組高に偏っている7社の売取組高が,同じ期間に約10万枚から約2万枚まで8万枚の減少を見せており,しかも,買の取組高の多い32社の買取組高の減少とほぼ歩調を合わせていることです。
値下がりの状況では,売建玉は,評価益をどんどん積み上げてゆくだけですので,利食いしても再度建てるなどして,仕切っても,売ポジション自体を減らしてしまう必要はない筈です。それでも,こうした高い相関が生じているのは,売の取組高に偏っている7社の売取組高が,経済合理性に反する別の動機に強い影響を受けていることを意味しています。
このように,①買が多い業者の買取組高の減少と,③売が多い業者の売取組高の減少とが,よく似た形であって,相関(相似)性が高いことから,売が多い業者の売取組高の中に買が多い業者が隠そうとした向かい玉が含まれていると考えられます。
暴力団対策法の制定と同時に,暴力団員は外見からは普通の人と区別できなくなりました。服装などを目立たなくしたのです。これと同じように,向かい玉は,最高裁判決(H21.7.16)と同時に上手に隠されるようになったのです。向かい玉もなくなった訳ではないと思います。


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