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シリーズ・オプション取引

12月 08 2016

■ オプション代金の決まり方(その2)

・オプションの理論価格

前回のコラムでは,「■ オプション代金の決まり方」と題して,経済の動きや時間がどのように影響するのか解説を試みました。

では,オプションの理論価格が,どのような考えで決定されているのか解説してみましょう。理論価格というのは,確率論にいう期待値,すなわち多数回試行を繰り返せば平均的に得られるであろう額,というくらいの意味です。この確率的な期待値を算出する方法としては大きく分けて,①解析解を導く方程式を解くやり方と,②乱数を発生させたシミュレーションを多数回行うやり方とあります。①は,古典的なブラック=ショールズ式が有名です。②の方法は,モンテカルロ・シミュレーションと呼ばれ,金融に限らず,理工系の研究には広く用いられている方法のようです。

・ブラック=ショールズ価格式

では,ブラック=ショールズ価格式をみてみましょう。c:コールオプション価格,p:プットオプション価格,現在の株価をS,オプションの権利行使価格をK,無リスク金利をr,ボラティリティをσ(シグマ),オプション満期までの時間をTと定義すると,次のように,表されます。

【ブラック=ショールズ価格式】

%ef%bd%82%ef%bd%93%e5%bc%8f

上の式中に登場するN(x)というのは,標準正規分布の累積分布関数と呼ばれるもので,標準正規分布に従う変数が、x以下をとる確率を意味します。N(d2)は,リスク中立世界でのオプションが行使される確率を表し,KN(d2)は,行使価格にその価格が支払われる確率を掛けたものを意味しています。

 

・割引現在価値(NPV)

上の式の %ef%bd%84%ef%bd%86 は,T期間という時間の経過分で発生する金利をその利率rで割り引いて現在価値に引き直すためのものです(eは自然対数の底,ネイピア数です。)。

裁判実務でも,交通事故の損害賠償などでは,中間利息控除ということが行われます。

これは,将来にわたる賠償額を一括して現在得てしまうと,手元に金利による運用益が残ってしまうから,金利による運用分だけ,現在一括前倒しで支払われる額から控除するというものです。

中間利息控除と同じで,確率的な期待値である将来の価格を,期間に応じた現在価値に換算するのです。

 

・実際に計算してみましょう

ちょうど1年後に,同じ価格を行使価格とするオプションの価格評価をしてみます。

例えば,2016年11月14日の日経平均株価終値は,1万7672.62でしたので,S(現在の株価)とK(権利行使価格)を1万7672と仮定します。同日の長期金利はマイナス0.015%ですが,ここではr=0.01%と仮定します。σ(ボラティリティー)には,日経平均VI(ボラティリティー・インデックス)の最近の値を参考に,例えば,21%と仮定してみます。前提として「ちょうど1年後」なので,T=1です。

ブラック=ショールズ価格式のN(x)の部分,すなわち標準正規分布の累積分布関数の値を求めたい部分について,

標準正規分布の確率密度関数は,

%ef%bd%8e%ef%bc%88%ef%bd%84%ef%bc%89%ef%bc%91

ですので,これを -∞ → d まで積分する

%ef%bd%8e%ef%bc%88%ef%bd%84%ef%bc%89%ef%bc%92

を計算することになりますが,エクセルではこれを計算する関数「NORMSDIST」が用意されています。Rという統計計算ソフトでは、pnormで計算できます。

また,ブラック=ショールズ価格式のlogの部分,すなわち自然対数の値を求めたい部分については,エクセルでは関数「LN」が用意されています。Rという統計計算ソフトでは,logで計算できます。

設例の条件でRで計算してみると,

コールオプション価格                    プットオプション価格

1560.035             1384.196

という結果になりました。

設例の計算結果は,1年後に,日経平均株価1単位を1万7672で買うヨーロピアン・コールオプションの理論価格は1560.035,同じくプットオプションの理論価格は1384.196となりました。

 

・理論価格も取引の参考情報?

理論価格やその計算過程を知ることで,市場で実際に取引されたオプション価格(プレミアム)からボラティリティーを逆算することや(インプライド・ボラティリティー),市場参加者の心理が,理論価格からどのようにズレているのかをみながら投資判断をすることが可能となるのです。

このように,デリバティブ評価の理論値は,ある意味で,金融機関などの玄人同士の取引において,値決めの基準となる重要な参考情報ともいえるものでしょう。

今回は,完全に趣味に走った内容でしたので,次回は,オプション取引が問題となった裁判例を題材に書いてみようと思います。


10月 28 2016

■ オプション代金の決まり方

・オプション・プレミアム(権利の代金)価格の決定要因
オプション取引で登場するプレミアム(権利の代金)はどのように決まるのでしょうか?
オプション取引も,プレミアムがこれだけもらえるなら義務を引き受けてもいいなと思っている人と,その行使価格の権利を持っておきたいという人がいるから成り立つ取引で,経済情勢と人気など,最終的には需給によって決まるのですが,いくつかの要因が大きく影響しています。
それは,①相場と行使価格との差,②ボラティリティー,③行使日までの時間です。

・本質的価値
オプションのプレミアムは,本質的価値と時間価値で構成されます。
本質的価値とは,平たくいえば,その権利行使価格でどれだけ利益が出るかという観点です。
相場が60ドルのときに40ドルで売る権利を買ったとしても,そのまま相場が下がらなければ,そのときはオプションは権利放棄して商品を市場で売ればよいのですから,本質的価値はそれほど高くない(むしろ現在の相場60ドルからみたらマイナス。これをアウト・オブ・ザ・マネーと表現します。)のかも知れません。

・ボラティリティー
しかし,相場変動が激しいときであれば,そのまま相場が下がらないと強気の予想を立てることが難しくなります。この相場変動の激しさを表す概念として,ボラティリティーという指標があります。

・プット買いによる価格下落リスクのヘッジ
相場が上下に揺れ動く乱高下のとき,あるいは急激に上昇又は下落をするときなど,ボラティリティーは高くなり,相場変動が小さくなるとボラティリティーは低くなります(相場の波が穏やかなのか,激しいのかといったイメージです)。
ですので,ボラティリティーが高く相場変動が激しいときには,アウト・オブ・ザ・マネーのプット・オプションを購入することでも,行使価格をこえる値下がりがあるかも知れないと考えれば,意味のある経済行動なのです。

・オプションの売りは保険の引き受け
相場変動が激しくなると、ヘッジのために、オプションを買おうとする人は,より多くのプレミアムを払ってもよいと考えるでしょう。逆に,オプションを売ってプレミアムを得ようとする人は,この先の相場の大きな変動で,万一オプションがイン・ザ・マネーになって権利行使されると,不利な価格で商品の売買に応じなければならないリスクが高まります。そのため、この義務を引き受けるのと引き換えに、より多くのプレミアムを貰わなければ割に合わないということになります(保険会社が保険を発行するときと同じです)。

・ボラティリティーを取引する?
ボラティリティーが高いときは,相場と行使価格との差によって利益を得られる「可能性が大きくなる」ため,オプションのプレミアムも高くなります。逆に,凪相場でボラティリティーが低いときは,同じ行使価格で比較して相場と行使価格の差によって利益を得られる「可能性が小さくなる」ため,オプションのプレミアムも安くなります(このように,ボラとプレミアムは連動するので,行使日(満期)までの時間が同じという前提でオプションを取引するなら,プレミアムの価格の代わりに,ボラティリティーの数値を提示し合い取引を成立させる玄人な取引世界もあるそうです)。

・時間価値
オプション取引には,権利行使できる期間が定められています。コーヒーの名前みたいにヨーロピアンかアメリカンかといった違いは,将来の特定の日だけ権利行使できるのか,将来の特定の日までいつでも権利行使できるのかの違いですが,いずれにせよ最終日が決められます。
先ほど,ボラとプレミアムの関係を解説しましたが,その発想としては確率的な期待に基づいています。これに更に,時間の経過を考慮するのです。つまり,期間が短いものより,期間が長い方が,相場が変動して利益となる可能性が高いのです。オプションの価値は、満期が近づくにつれて減少していきます。これを時間価値と表現します。


10月 24 2016

■ オプションの損と益の発生の仕方

・一般的な損益図
投資取引を分析するには,そのポジションの損益の限界線が幾らなのか,損益図を描くことが基本になります。

オプション取引について解説した書籍などには,オプションの売り手と買い手の,利益と損失が発生する損益の水準(縦軸)と相場水準(横軸)をグラフ化した「損益図」が必ずといってよいほど掲載されています。

コール・オプション(行使価格で買う権利)と,プット・オプション(行使価格で売る権利)の2種について,これら「権利を対象とした売買取引」として,売り手(義務の引き受け手)と買い手(権利取得者)の2者の立場からみて,次の図のように,4つのパターンに分けるのが一般的です。

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・一方の損は他方の益(ゼロ・サム)
ちなみに,最初にあげた図の4パターンを合成すると,次の図のようになり,オプション取引では,参加者が損益を分かち合っている,すなわち,付加価値を生み出さずに,誰かの損が誰かの利益になることが分かります。

%e3%82%aa%e3%83%97%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%b3%e9%80%9a%e5%b8%b8%e3%81%ae%e6%90%8d%e7%9b%8a%e9%96%a2%e4%bf%82%e5%9b%b3%e2%91%a1

損益の図の計算内容は次のとおりです。

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このように,売り手と買い手で権利の代金(プレミアムといいます)の受け払いを行うことと,売り手と買い手には,行使日での相場の値上がり,値下がりにより,行使価格を中心に逆の損益が発生しますから,すべてを合わせると,ゼロとなる,ゼロサムの取引なのです。

・ポジションと原資産の値動きとを組み合わせたイメージ図
ところで,オプションの買い手と売り手は権利の売買当事者として,一方は原資産(ここではオプションを行使するときに売買の対象とされるモノというくらいの理解で差し支えありません。)を行使価格で売ったり買ったりする権利を得て,他方は権利行使により,原資産を買ったり売ったりする義務を負う立場ですから,次の図のように整理すると,相場の上下の変動とともに,一方の損が他方の益となることが理解しやすいと思います。

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このように,デリバティブ(金融派生商品)は,一方の損が他方の利益となる性質がありますから,使われ方によっては,本質的に利益相反を孕んでいると考えられます。


10月 19 2016

■ オプションの役割はヘッジ手段(経済ショックと相場)

・ブレグジット・ショック
今年6月,イギリスでEU(ヨーロッパ連合)を離脱するかどうかの国民投票が行われ,EU離脱派が勝利したというニュースが流れました。いまやその当時の相場変動のショックは過去のものとなっていますが,どれほどのものだったか追憶してみましょう。

当時の日経平均株価終値をみると,6月23日は1万6238円35銭であったのが,翌24日には1万4952円02銭となり,一日で,▲7.92%の下落を記録したことになります。東証1部の時価総額は,492兆9647億円から457兆7135億円と,1日で7.15%縮んでしまい,▲35兆2512億円が蒸発してしまったことになります。

・ファットテールの問題
これと似たような経済上のショックは,繰り返し起きています。昨年は中国ショックがおきました。さらに遡れば,平成23年に東北地方を襲った地震の際も,大きなインパクトがありました。インパクトの大小と発生頻度は,まさに,地震に似たところがあるのです。発生確率としては小さくて普段は無視できるような事象を統計的なリスク管理モデルでどう扱うか,ということをファットテール(fat tail)の問題といいます。

・原油当業者によるヘッジ行動(オプションの役割はヘッジ手段)
話を変えて,一昨年の秋から暮れにかけて,それ以前は1バレル=100ドル前後であった原油価格は,米国中央銀行FRBのテーパリング(量的緩和の縮小)とともに下落し,50ドルを割れるかというような急激な下落をしました。こうしたときに,原油生産者によって取引量が膨れたのが,プット・オプションの取得(買い)です。

原油生産者としては,利益を確保するために,実勢相場が60ドルのときに,40ドルでもいいから売る権利を買って,さらなる価格下落に備えるのです。そうすれば,実勢相場が1バレル=30ドルにまで下落したときに,1バレル=40ドルという権利行使価格で売る権利(プット・オプション)を行使することで,原油の売値を確保できるのです。

・言葉遣いに関する提言
裁判例をみていると,「ヘッジ目的」とか「ヘッジ取引」という単語が登場することがありますが,語彙のもつイメージに頼り過ぎている感が否めず,議論に混乱が生じている印象を受けます。
裁判当事者の主張の立て方として,「ヘッジ目的」に当たるか否かといった荒っぽい議論の立て方をするよりも,先の例でいうなら,原油生産者は,原油相場の下落による売却代金が減少するリスクを「ヘッジする目的」で,「ヘッジ手段」として,1バレル=40ドルを行使価格とするプット・オプションを取得した,というふうに,言葉を目的と手段とに分けて表現すれば,正確ですし,分かり易くなると思います。最近買った本には,①リスクを転嫁・抑制するための手段として用いる取引のことを「ヘッジ手段」と呼び,②リスクを抑制したい対象となる資産のことを「ヘッジ対象」と呼ぶ,というように,意識して書き分けられていました。ご参考までに。


10月 15 2016

■ シリーズ・オプション取引

・ 東日本大震災と株価の暴落
東日本大震災(3.11)をきっかけに,株式市場で大暴落が起きました。当時,日経平均株価は,1万0500円くらいから8200円くらいまで2300円(約22%)暴落しました。

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・ 証券会社の上場廃止
オプション取引も大きな影響を受けて,上場廃止になった証券会社も出ました。

・ 集団投資
集団で投資を呼びかけられていた人たちの中に,この震災を機に,プット・オプションの売りで大きな損失を被った人がいます。

・ 裁判の開始
こうした人に対して,証券会社から不足金を支払えという裁判が起こされました。

・ オプション
オプション取引のため口座を開設して,パスワードを知らせて,集団投資を呼びかけた人に任せると,オプションというデリバティブ取引での一任売買ですので,危険極まりないのです。「オプション」といっても,車に取り付ける部品や機器のことではありません。 コール・オプション(行使価格で買う権利)や,プット・オプション(行使価格で売る権利)といった日経平均株価を原資産とする上場オプション取引のことです。

・ 判決や和解
既に,裁判になっていた人のうち,かなりの人は,不足金の何割かを支払う内容で和解をしていると推測されます。まだ,分割で支払い中の人もいるかも知れません。

・ 対応
保証金(証拠金)を充当してもカバーできない不足金は支払う義務があるか?
ドイツの民法では,自然債務といって,裁判による支払の判決は出ない決まりになっていました。米国でも,不足金は信義則によって支払わなくてもよいという判決があります。

・ 支払の拒否と損害賠償請求
ひとり闘っている人がいます。被害者がバラバラでは,証券会社に勝てません。請求を拒否するためには,被害者の連携が大切でしょう。あなたのケースを知らせて下さい。自分で口座を開設したのですか?それとも,誰かに誘われたのですか?

今後,この裁判と同時進行させて,「シリーズ・オプション」を書きます。読者の中で,ご希望があれば,その内容をご連絡下さい。


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